表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/171

第144話 先へ進むための回帰

 ――俺はどうしてそこまでして、生きようとしてるんだ。


 ◆ 14週目


 黒葬で最も強力な男に、


 ◆ 15週目


 一番信頼できる男に、


 ◆ 16週目


 何度も何度も殺害された。


 ◆ 17週目


 考え付く方法はほとんど試したと言っていいだろう。


 ◆ 18週目


「あぁ……」


 だから、なぜこんなに辛い思いをしてまで生きようとしているのか、考える羽目になった。

 燈太は自身の原点を思い返す。

 折れそうな心。もう折れてもいいじゃないか。

 自身に問いかける。なぜ生きたいのか。その先に何があるのか。

 意識が沈んでいく。自分の奥底へ。深く深く。真っ暗な闇の中。絶望。

 

 想起するのは暗黒の時代。親友を失い、黒葬を知らない頃の自分。楽しそうに振る舞うことができているだけの空っぽの自分。何かが満たされないことをわかっていながら、それを埋めようとしない無気力な心。


 だが、小さな煌めきがあった。


 ――……あぁ。


 あの時、紅蓮と調に出会ったあの日。


 ――そうだ。


 未だ自分の中に煌めきがあることを思い出した。そして再び。

 今再びそれを理解する。

 自分に対し、生きる意味を問いかけることではっきりと自分が見えてきた。自分の輪郭が、浮かび上がるように。身体の中から湧き上がる何か。それの正体は燈太が一番知っていた。


 こんな状況だから忘れていた。

 こんな状況だからこそ、忘れてはならなかったのに。


 ――俺はどうしてそこまでして生きようとするのか。


 あまりに愚問だった。


 燈太は、ゆっくりと立ち上がった。玄間から電話が来るまであと2分程度。

 待つ必要などない。

 銃を抜き、監視カメラを撃ち抜く。


 状況は絶望的。しかし、燈太のくすぶっていた胸の奥底の(ともしび)がここに来て大きな炎となって燃え始める。忘れていたんだ。


 廊下から強烈な破壊音が鳴り響いた。数秒後、ドアが破壊される。


「……2週目……でもなさそうだな」


 玄間が現れ、そうつぶやいた。


「俺はしくじったか」


 殺気がひしひしと伝わる。


「だが、君は『詰み』だ」


「――玄間さん」


 今までの燈太とは違った。その殺意に真っ向から立ち向かう。


「なんだ?」


「もう、俺はもう20週近くやり直しました。そのたびあなたに殺された」


「……」


「でも、俺は諦めません」


 心のうちを口にする。


「……だろうな、人間は『生』を簡単にはあきらめないものだ」


「――違います」


 詰んでいる?

 それは違う。盤上の駒はまだ死んでなどいない。

 少なくとも王は残っている。この王は歩でもあるのだ。

 そう、危険を晒しても進み続けなくてはならない。

 

「俺は『未知』を諦めない」


「……」


 玄間の無機質な表情が少し揺らいだ。


「俺はそのために『黒葬』に入った。そして、『好奇心』ってものに正直に向き合ったんです。それで、ここまで来た……。俺には今新しい能力があって、もっと『未知』に触れられる。絶対に諦めたくない」


 自分勝手な感情。

 しかし、それが彼の生きる意味であると知っている。


「……もし、それが世界を滅ぼすとしてもか?」


 燈太は真剣なまなざしを玄間に向けた。玄間の言葉に燈太は揺れない。

 なぜなら、燈太は知っているからだ。


「世界なら一度救ってます」


 この生きる意味、「好奇心」は、正しさへとつながっている。そう信じている。

 だから今があるんだ。「好奇心」によって魔術団を倒した「今」へつながった。

 

 きっと、いつの時代にも世界には『未知』に立ち向かう人間が必要だった。

 

 火を初めてみた人間の祖先達は大半が火を恐れた。しかし、変わり者が火に近づき、生活は一変していく。毒キノコを始めて口にした人間は、恐らく死んだがそのあとの人間を生かした。高名な学者は、危険なものであると分かっていながら知的好奇心を抑えられずに研究を進め、いつしかそれは生活の基盤になるほど人間を支える技術へと変貌した。

 何事にも先駆者がいて、その者たちにはきっと勇気と、体の内側に抑えきれない好奇心を抱えていた。


 燈太は好奇心の先でしか得られない物があると信じている。

 それを得ることが燈太の「快」で、その過程に苦難があっても燈太はくじけないし、それを乗り越えることに「意味」があるとすら思っている。


 人間が好奇心でパンドラの箱を開けたとき、多くの災いが世界に降り注いだ。しかし、箱の底には希望が残った。


 ――そう、パンドラの箱を開けることでしか「希望」は手に入らなかった。

 ――燈太はこのように解釈する。


 燈太の中に、今は亡き調の言葉が胸に木霊する。


「『好奇心は猫を殺す。しかし、人を生かしてきたのは好奇心に他ならない』……って。俺は信じてますから」


 燈太の好奇心。それは玄間同様に黒葬の前線で鋭く研ぎ澄まされた。


「……どうやら、骨が折れそうだ」


 玄間はサングラスを一度指の腹で抑えた。


「……決意表明に、付き合ってもらって申し訳ないです。玄間さんは忘れてしまうのに」


「構わんさ。無駄なおしゃべりをすれば、それだけ回帰後の脳を圧迫する」


 お互い口角をあげる。


「玄間さん。俺は――」

「燈太君、俺は――」


 玄間と燈太はお互いに、視線をぶつけた。

 

「あなたから絶対に逃げ切る」

「君を確実に『処理』する」 


 『時間跳躍(タイムリープ)』発動。

 回帰地点正午ジャスト。


 燈太は、過去(まえ)へ戻りながらも、少しづつ未来(まえ)へ進んでいた。

~補足~

調の言葉は34話にあります。

もし、調さんが生きていたら対人課として彼はどう動くのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ