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第139話 玄間の意思

遅くなり大変申し訳ございません。

これから週1ペース以上で更新予定です。よろしくお願いします。

 玄間天海は、坂巻燈太のレポートを読んでいた。

 内容は、彼自身の能力に関するものだ。


 『時間跳躍(タイムリープ)』。彼の能力がそれであることは間違いない。

 時という人知を超えた概念を操作する前代未聞の『超現象保持者(ホルダー)』。現在の『時間跳躍(タイムリープ)』、これで能力が完結しているならばまだ良い。


 ――坂巻燈太の成長はここが終点(・・)なのか?


 彼の成長はあまりに歪だ。幾度もの『共鳴』を繰り返し、少しずつその能力の正体が明らかになった。今後、坂巻燈太が能力を行使し続けることで能力の成長がないと断言できるのか?

 本人曰く、跳躍先へ指定できる『回帰地点(セーブポイント)』は直前の1地点のみ。例えば、これが増える可能性は?


 これが増えれば、彼は世界を滅ぼすことができる存在になりかねない。それはなぜか。


 ――彼が阻止した『白夜の魔術団』のゼフィラルテ復活を、なかったものにできる。


 実際、ゼフィラルテの持つ力がどれほどかはわからない。しかし、燈太の話を聞く限り玄間が圧倒できる相手ではない。せめて万全、すなわちヴォルフという魔術団の最高戦力との連戦をする相手ではない。

 最悪のシナリオを、過去へ回帰し世に送り出すことができる選択肢を握ることができる。これが成長した坂巻燈太の能力が持つ可能性だ。

 彼も一人の人間で、どう精神が成長し、どのような目標や野心を抱き生きていくかなど予想が付かない。少なくとも彼は一般的な感性を持つ、『普通』の性格をしていない。好奇心という目的のために自身の命をいともたやすく懸けることができる。

 彼の歪みにも似たその性質が、月日を重ねることで大きなものとなり、天秤に世界の命運が乗せることがないと断言できるだろうか。


「……」


 そういった燈太自身の過失がなかったとしてもリスクはある。例えば、洗脳や脅迫。多くの可能性が考え得る。

 曰く、『アトランティス』人は、時を操ることで文明が滅びた。能力自体がパンドラの箱。燈太の『UE』が他の何かを揺り動かせば、ドミノ倒しのように世界が壊れ行くことだってあり得るということだ。

 恐ろしい能力である。


 そして、


 ――彼の能力は世界を救うことができる。


 そう、彼によって一度、世界は救われた。

 もしかすると、ゼフィラルテが復活した魔術団よって世界の常識が書き換えられていたのかもしれない。決して過大評価ではないだろう。

 ハイリスクハイリターン。表裏一体の関係にある。


 玄間はトントンと、燈太のレポートを机に当てて綺麗にまとめた。一枚のずれもなく、レポートが整えられた。

 玄間の考えは既に帰結している。報告書を読む前からある程度決めていたことだ。ゆえに、上へ燈太の件は伏せていた。

 玄間は目を瞑る。 


 玄間は世界の治安を守り切ることが自身に課せられた使命だと考えている。空前絶後の「暴力」がちっぽけな人間一人に与えられた。

 ゆえに、この世界の異質なる不穏分子は一切合切排除する。

 平穏。秩序。平和。


 玄間は目を開けた。


 ――坂巻燈太は『処理』する。


 もう、一点の曇りもない。


 彼が高校生という子供であること。

 同じ社員であること。

 仲間であること。

 玄間と同じ『超現象保持者(ホルダー)』であること。

 世界を救った人間であること。


 これら全ては、「秩序」という言葉の前に一切の効力を持たない。

 玄間は坂巻燈太を全力で『処理』する。

 だが、玄間天海には絶対に守ればならぬ制約があった。自身を縛るルールだ。

 

 ――玄間天海は、黒葬の駒でなくてはならない。


 自身の正義感や使命感に全てをゆだねてはならない。あくまで駒として玄間は存在しなくてはならない。その中で、行動することは絶対だ。

 黒葬の決定は絶対であり、自身の対人課長という権限を越えた行動はしてはならない。その規則を破った時、彼は世界にとっての不穏分子となる。

 その先に待つのは――。


 玄間は、報告書を鞄に入れた。このレポートは、指令本部へ提出する。

 現在、玄間は燈太の能力に関する情報を上へ、つまり指令本部へ報告していない。この行為はグレーにとどまる。なぜならこの情報は、坂巻燈太が病室で(・・・)語ったことだからだ。彼は万全ではなかった。死地から帰還したばかりだった。

 しかし、レポートを受け取った以上これを報告しないことは、黒葬への不義となる。これ以上、隠蔽は不可能だ。

 このレポートを提出すれば、恐らく早急に会議が開始され、多くの時間を掛けて判断が下されるだろう。玄間の読みでは、坂巻燈太を『処理』するという決定になる可能性は五分以下。おおよそ、外出の規制であるとか能力の制限であるとかに落ち着くだろう。


 ――生ぬるい。


 時の操作は危険度の次元が違う。何がどう違うか。シンプルだ。

 「黒葬の決戦兵器である玄間天海がどうすることもできない」ということだ。

 本当に、誰も手が出せない。


 社長の遺言を思い出す。

 『目覚めた新星は、全てを変える引き金になりえる。収束を呼び、混沌をも呼びこむ。故に黒の組織は、火急を以て星の輝きを――』


 続くのは、「強めよ」、もしくは「抹消せよ」。

 この二択である。

 玄間は後者を取った。


 ここからは、スピードが勝負だ。あくまで黒葬の規定に則り、正式な手順からギリギリ落ちないラインで燈太を葬る。


 玄間天海は動き出す。

~補足~

社長の遺言は4部プロローグにあります。


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