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第134話 祭壇の扉

 紅蓮は燈太を連れ、地下4階から下を目指した。現在電波は遮断されており、オペレーターとの連絡は付かない。

 

「紅蓮センパイ!」


 途中空と合流した。


 そして、とうとう紅蓮、燈太、空の三人はビルの最下階。

 儀式を行っている、最後のフロア。

 

 地下5階へと到達した。


「おいおい……なんだこんなの聞いてねぇぞ」


 紅蓮は、青ざめた。

 地下5階、最奥の部屋への間には巨大金庫にあるような扉があった。

 扉横にはパネルが付いており、6桁の番号により開閉するように見える。いくら掛けているのかわかったものじゃない。


 突然、空が手斧を使い思い切り扉をぶっ叩いた。


「バカみてぇに頑丈ッス……! 加速入れてもぶっ壊せねぇッスよ!」


「デジタル式……白眼鏡に連絡して開け……」


 紅蓮気づく。


 ――……そのための電波妨害結界かッ!!


「ビルに入ってから、結構時間が経っちまってる! 急がねぇと……!」


「そうッス! 課長! 課長ならぶっ壊せるんじゃないスか?!」


「課長なら確かにぶっ壊せるだろうが、3階にいた時点では課長はまだ戦ってるって恵が言ってたぜ……、畜生」


「ここに来て……ッ!」


 燈太は意識が朦朧としているのだろうか、じっとナンバーロックのパネルを見ていた。何かを考えているかのように。指先は付けていなかった。


「引き返して、有線のコードを取ってきて眼鏡にハッキングさせるのが一番早ぇか?!」


 もしくは、金庫をこじ開ける系の器具。どちらにせよ、一度上へあがらなくては話にならない。

 紅蓮は空の顔を見た。この中では空の足が一番速い。


「……」


 燈太は黙ったまま指先を一度だけピタリとつけ、外した。


「うち取ってくるッス……!」


 空は上階へ向かう。



「マズイ……! マズイぞ……!」

 

 地下5階、『儀式』を行う祭壇。魔法陣を魔術師5人が取り囲む。

 『暁の1』カレイコスは焦っていた。


 ――扉の前まで来ているではないか……ッ!


 『黄昏部隊』の連絡も全員途切れた。皆殺しにされたのか。


「人殺しにしか魔術を使えんクソボケどもめェ! 奴らを殺せずしてどうするかッ! 仕事を果たせ! 仕事を死ぬまで果たさんかァ!」


 『暁部隊』全員に緊張が走る。

 『儀式』は佳境に入っているといってよい。しかし、まだ10分はかかる。10分という時間で戦況はどう変わるかわからない。魔術団の精鋭を屠ってきた者達。今すぐにはなくとも扉を開ける手段などいくらでもあるのではないか。10分は長すぎる。


 ――マズイ……マズイぞ……!


 この『儀式』をするのに何年かかったと思っている。


 ――666年だぞッ!


 この儀式魔術は奇跡を呼ぶ魔術と言って過言ではない。コンディションは最大にせねばならなかった。

 魔術的に意味のある数字6。666年なのは今年だけなのだ。


 そう、ゼフィラルテ・サンバースが死亡してから今年で666年。


 今年しかないのだ。今を逃せば不可能だ。

 この、ビルを買い、改造するのにも、優秀な魔術師を集めることにも多くの時間と血と汗を要した。全ては『白夜の魔術団』となるため。極夜を終えて、太陽の化身ゼフィラルテ・サンバースをこの世に降臨させるため。太陽が常にあり続ける、究極なる魔術組織が『白夜の魔術団』だ。

 ゼフィラルテという絶対神が、魔術で世界を統べるのだ。


「カレイコス……! どうする?!」


 『暁の2』エドレンバッハが声を張り上げる。

 

「どうもこうもないわ! レイパンドさえおれば早く終わっていたろうに……!」


「クソ爺が! 死にやがって!!!」


 ハールトが声をあげた。うるさいクソガキめ。貴様が死ねば良かったのだ。

 供物に目をやる。この供物も集めるのにどれだけ慎重を期したか。


 ――供物……?


「そうではないか……」


「カレイコス?」


「……エドレンバッハよ、後は任せたぞ」


 カレイコスは祭壇へ近づく。

 祭壇には大量に供物と、蘇生させるゼフィラルテの毛髪一本が置かれている。

 

 供物、666年の加護、6つの陣。


 これを用いて、毛髪から時を回帰させ、ゼフィラルテを降臨させる。この方法であれば間違いなく本人だ。肉体を魔術で作ったのではない、似た魂などではない。

 当時のゼフィラルテ様が蘇る。


 ――そのためならば。


「私が供物となり、10分を縮めてくれるわァ!!!!!」


 短剣を取り出し、カレイコスは喉を掻っ切った!


「陽ゥ光よォ……あレに……ごふぁごをぉ……」


 カレイコスは血を大量に吹き出し、供物の中に倒れこんだのだった。



「チッ……大分時間を食っちまったぜ」


 玄間天海、『皆既食(エクリプス)』より帰還。


「――派手にやられてんじゃァねェの」


 すぐそばには、地面に座り込む鑑心がいた。


「あぁ、鑑心さん。不甲斐ない限りです」


「そういう意味じゃねェよォ」


「いえ、申し訳ありません。保険(・・)でここへ来たんでしょう?」


「……まァなァ。務まるとは思わねェが」


「またまた」


 玄間は肩を回した。


「では、急ぎですので先に行きます」


「おゥ」


 玄間は、床にヒビを入れながら、地下5階へ駆けだした。


地下2階、階段前。


「――天海」


 急ブレーキ。


「麗か」


 幽嶋麗が立っていた。


「本社は片付きマシタ。地下4階以降は電波が途切れるのでご注意を」


「了解。あっちに鑑心さんがいる。一緒に降りてこい」


「リョーカイ」


 幽嶋は一度みたことがあり、イメージできるところにしか瞬間移動できない。彼も、ここからは足を使って移動せなばならない。

 となると、幽嶋より玄間の方が数段速い。幽嶋を置いて再び駆けだす。

 本社も無事なら、大方の問題は片付いているとみて良い。

 あとは地下へ向かうだけだ。だが。


 ――嫌な予感がする。間に合うか……?



「引き返して、有線のコードを取ってきて眼鏡にハッキングさせるのが一番早ぇか?!」


 紅蓮は空の顔を見た。この中では空が一番足が速い。


「……」


燈太は黙ったまま指先を一度だけピタリとつけ、外した。




「……ちがう(・・・)


 


「うち取ってく――」


「――俺が開けます」


 燈太が、声を出した。

 

「燈太……?」


 さっきまで意識が朦朧としている様子だった。今はどうだ。

 目がしっかりと開かれ、いや、何か思いつめた表情をしているようだ。


 ――なんだ。


「燈太君……?」


 空と紅蓮は顔を見合わせた。

 燈太は、そのまま扉の前に立った。そしてパネルに手を伸ばす。


「お前、何を」


 燈太は、淡々と番号を入力する。

 紅蓮はそれを横から除いた。


 番号は『447813』。


 ――まさか……! だとしても、なんでこいつパスワードを知ってんだ?!


 次の瞬間、エラー音が鳴り響いた。


「あ?」「え?」


 しかし、燈太はそれを全く意に介さずにパネルに触り始めた。

 次は『447814』を入力。


 ――あてずっぽうか?! 6桁ってことは、100万通りくらいあんじゃねぇの?!


「おい! 燈太、そんなのやるだけ――」


 燈太は怪我をしている。余計なことで消耗させるべきじゃない。せめて紅蓮が変わる方が良い。

 紅蓮が燈太の肩に触れようとしたとき。


「大丈夫です」


 燈太は急に振り向いて、そう言い放った。

 紅蓮は、一歩自然と引いてしまった。


 ――なんだ……。


 これは本当に燈太なのか。なんだこの圧は。

 紅蓮は再び、空をみた。


「燈太君、どうしちゃったんスか……」


 燈太は、上の階で人を殺している。大怪我もしている。おかしくなっても不思議じゃない。

 だが、そうではない気がするのだ。これが紅蓮の勘だった。


 何かが動き始めている。運命が転がりだしている。

 何かが変わる。そういう予感。

 それが良い方向か、悪い方向かは掴めない。


 ――だが今は……。


「……燈太を信じよう」


「……ありがとう……ございます……紅蓮さん」


 紅蓮はそう言った。

 エラー音が何度か鳴り響き、そして。


『ピコーン』


「?!」「開いたッス!!!」


「ははっ……」


 燈太は、その場に倒れこむ。そして、頑丈で分厚い扉が開いた。


 ――間に合ったか?! 儀式は、まだ終わっていないか?!






『黒の組織は白の名を持つ集団と大きな衝突を起こすであろう。ここで白旗を降れば、組織はおろか秩序は崩壊す』






「――残念だったな、『黒葬』諸君」


 扉の向こうには、5人(・・)の魔術師が立っていた。


 紅蓮と空は、感覚でわかった。


 一人違う。

 恐ろしいオーラ、空気感を纏った老人がいる。

 真っ白の長い髭と長い髪を持った老人。

 しかし。見るからに老人なのだが、生き生きとした何かが肉体から満ち溢れているかのような印象を受ける。只者じゃない。

 

「同士カレイコスの勇気ある行動を以て、儀式は完了した!」


 まくしたてる禿げた老人など眼中に入らない。

 長髪の老人から眼を離せない。なんだこいつは。


「崇めよ! このお方こそ!」


 長髪の魔術師を除き、全員が膝を折った。


「――魔術の祖! 我らが太陽! 『白夜の魔術団』を率いる! ゼフィラルテ・サンバース様である!!」


 ――間に合わなかったのか。






『――命運分かつは、新たな『星』である。しかと心得よ。一度歪んだ星座らを直す手段など時を戻す他ないのだから』

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