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第13話 17桁の社員番号

『――こちら「黒葬」本部。指令部、葛城恵です』


「私、白金治正と申します」


「……存じております。こちらの社員がお世話(・・・)になっているようで』


 治正は燈太から『黒葬』の番号を聞き、電話を掛けた。会話はスピーカーを使っているため、燈太も会話を聞くことができた。


『要求は?』


「白金敬之助及び、私、白金治正を見逃すこと。こちらにいる社員は人質です。もし、今後私たちを排除する動きがあれば殺します」


『……』


「あぁ。そうでした、あともう一つ」


 治正は、何かを思い出したかのように要求を口にする。


「今後、私と敬之助の殺人に関して関与しないのもよろしくお願いしますね」


『……というと?』


「えぇ。私たちはまだ殺しは続けますから、それも見逃してほしいんですよ」


「……ッ!」


 本当にどうしようもないやつだ。

 この親子は取り返しのつかないことをした。今から改心したとしても許すべきではない。

 が、改心しようともしないのは論外。全く別の問題だ。


「いや、あれですよ。人類を絶滅させようってわけじゃないんですし、もちろん、テロを起こそうって話でもないんですよ? ただ、日本にいる一握りの、しょーもない人間を私の娯楽に当てるだけです。良いでしょう? それくらい。私はそれほどの価値がある人間ですから」


「そーだな。年収も業績も、親父に勝てるやつなんかいねぇ。その辺のサラリーマン100人殺しても釣が出るっての!」


 治正は平然とそう言ってのけ、敬之助は機嫌良さそうに笑う。


『……人質。坂巻燈太、伊佐奈紅蓮が生きている証拠を提示していただけますか』


 電話越しに応対する葛城の声は、なんの反応も示さない。ただただ、ひたすらに冷たい声だった。いつも燈太に話しかけるような穏やかな声は見る影もない。


「ああ。えぇ、はい。良いですよ」


 電話機を紅蓮、燈太の前においた。

 それはかなり昔に使われていた物のような分厚さをしている。改造が施されているのだろうか。

 電話から逆探知する、というシーンをドラマで見たことがある。その対策をしていないはずもないだろう。


「紅蓮だ。燈太も無事だ。今んとこ蹴り飛ばされたくらいで特にけがはねぇ」


「……燈太です。紅蓮さんの言うとおり無事です」


 治正は電話機を拾う。


「ご満足頂けました?」


『――本人確認をさせてください』


「本人確認?」


『坂巻燈太に社員番号(・・・・)を聞いてもらっても?』


「ふむ。良いでしょう」


『17桁のやつよ。覚えているでしょう?』


 治正が近づく。


「だそうです。どうぞ?」


 治正は電話機のマイク部を燈太に近づけた。


(しゃ、社員番号……?!)


 燈太はそんなものを与えられたことも、見たこともない。

 紅蓮はこちらを見たまま黙っていた。その目は何かを燈太に求めるような。


「……え、と」


 おかしい。

 本人確認なら、なぜ紅蓮に聞かないのか。もし社員番号があったとして、それが17桁という複雑さであるなら、新米の燈太より、紅蓮に聞くべきだ。入社してすぐの燈太にはそんなもの覚えられない。

 であれば、逆。

 燈太に(・・・)聞かねばならなかった。


『ごめんね。燈太君。場所さえ(・・・・)わかれば助けてあげられるのに』


「どうしました?」


 治正は燈太の顔を覗き込む。

 もう問題ない。


「……思い出しました。長いもんですからちょっと忘れてました」


『どうぞ』


「35671670-139695662です。僕の社員番号は」


『……本人確認できました』


「それは良かった」


『……要求に関しましては、少しお時間をいただけますか? こちらで――』


「却下します。立場をお分かりです? 今私が腕をおろせば、あなた達の社員は死にます。即決を。今ここで」


『……』


 しばしの沈黙が流れる。


『……飲みましょう』


「助かります」


『……しかし、うちの社員二人が永遠にそちらへ監禁されていては困ります。そこに示談の余地は?』


「えぇ。いいでしょう。私たちの安全が保障される『何か』であれば問題ありません。……ではあと3時間後にかけなおします」


 治正はそう言い一方的に電話を切った。


「良かったですね、一生監禁は免れそうですよ?」


 治正はそう言い残し、敬之助と共に、紅蓮と燈太のいる部屋を出ていった。

 入り口には銃を持った男二人が未だこちらを睨みつけている。


「……やるじゃねぇか。うまくいったんだろ(・・・・・・・・・)?」


 紅蓮が燈太に顔を寄せ、小さな声でそう言った。


「ありがとうございます」


「なんだ、案外冷静なんだな」


「……誘拐される研修・・は初日に済ませたので」


 燈太は苦笑する。


 腕が後ろで縛られている。しかし、手自体には少し自由があった。

 両手の指先(・・・・・)がピタリと(・・・・・)合わさっている(・・・・・・)ことに、だれも気付かなかった。

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