第117話 先を目指せ!
「紅蓮だ。ひとまず、一人『処理』した」
紅蓮は、マイクに口を近づけ、そう告げる。
魔術師の死体は結界の外に出ると消えていた。『皆既食』は外にでると、結界内で壊れたものなどは全て元に戻ると聞いている。だが、服や怪我は元に戻ることはない。死んだ奴も戻らない。
廊下には紅蓮だけが立っていた。
現在、紅蓮は戦いの後であり、頭がよく働いていた。
――……『皆既食』は元に戻す。これ、例の時間を戻す『UE』と関係あんじゃねえのか……?
いや、紅蓮が今更思い付いた可能性などはとっくに誰かが考え付いているだろう。それに、『皆既食』の仕組みを今更考えたところでなんの得にもなりはしない。仕事でもない。
――まあ、そういうのはクソ眼鏡の仕事だな。俺は知ったこっちゃない。
柄にもなく色々と考えを巡らせていると、
『こちら、葛城!』
葛城の声がイヤホンから聞こえてきた。
『紅蓮、急いで下に向かって欲しいの!』
「あ? 言われなくとも――」
『燈太君と連絡が取れなくなってて!』
「はぁ?!」
紅蓮はすぐに走り出した。体中が痛いが、急がねばならない。
「なんで、そんなことになってんだよ! 燈太には誰かしら付いてんだろ?!」
『今、全員手が空いてないのよ! それで一人になった燈太君が偵察に行くって提案してくれて、ちゃんと警戒はしてたはずなのにいきなり通信が途切れて!』
紅蓮は今『皆既食』の中にいたせいで、全く状況がつかめていない。なんにせよ燈太が一人かつ、通信が切れたというのは非常にマズイ。
――無茶しやがって……!
そういうところはあった。それが今までは、うまく転んでいたのだ。
――彼からはあまり目を離さない方が良い
ふと、南極で幽嶋に言われたことを思い出した。今回に関しては紅蓮にはどうしようもなかったことだが、もう少し言って聞かせても良かったかもしれない。
……いや、燈太のあの勇敢さは紅蓮は気に入っている。だからこそ、紅蓮は更に強く地面を蹴った。
「……あ? つーか対人課の課長はどうしたよ?!」
『まだ、『皆既食』から出てきてないみたい』
「……了解」
紅蓮は玄間と『皆既食』で消えた魔術師を思い出した。
あれは間違いなく強い。オーラだ。紅蓮の培ってきた経験が告げていた。悔しいことに、あれを止めるのに紅蓮では力不足だと。
「チッ」
魔術団の厄介さと、現状に対して舌打ちをこぼした。
『……あと』
「んだよ! まだあんのか!?」
『……いや、その。……無事で……』
「あ?!」
『……急げ! もっと走りなさい!』
「やってるわ! クソアマ!」
地下2階へ着くと、向かいから鑑心が歩いてきた。
「おう」
「ガン爺!」
「……燈太がアブねェらしいなァ。お前のが走るの早ェ……行ってやれェ」
「ガン爺は?」
「俺はァ、……保険だ」
鑑心はそういうと、紅蓮の横を通り抜けた。その先は地下1階。
「天海が、トチったら俺がァ……、止めにゃならねェ」
そうか。もし、万が一、本当に万が一の話だが、玄間が負ければあの魔術師は出てくることになる。最悪の場合、不意をつかれる形で上階と下階からの挟撃だ。
「……荷がおめェけどなァ……」
鑑心はそう小さくつぶやいた。
「……長生きしろよ、ガン爺」
紅蓮はそう言い、再び駆けだした。
「……けっ」
鑑心の声は微かに笑っていた。
Q.隠し階段は使わないの? (地下1階にも入口あるはずだけど)
A.正確な位置は燈太の能力でしかわからないため音声だけでは、すぐに案内できない点。そして、隠し階段を降りて、すぐ燈太と連絡が取れなくなったので、指令部も警戒しているのが理由です。
p.s. 週1で更新できるようには心掛けます。