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第115話 嚙み合わぬ攻防戦

 木原の秘策。


 ――今だ……!


 それは、纏った魔力の放出であった。


 放出する鎧の箇所は、足に限定。福田のような威力はないが、後ろを向きつつ走っている今の燈太の足に、直撃すれば確実にバランスを崩せる。

 木原としては、一部分だとしても魔力の鎧を解除し、放出するのは抵抗があった。


 しかし、これならば確実に(・・・)虚を付ける


 燈太は恐らく福田を情報源として木原の能力を知っているだろう。

 だが、この放出能力は篠崎にのみ話したもので、福田には教えなかった。福田は、多重人格者で、輪をかけて頭がおかしかったからだ。それがここで偶然にも活きた。

 中途半端に知っていることが、警戒を緩めるのだ。


 ――放出ッ!


 木原の足から放たれた魔力は、まっすぐに飛び、そのまま燈太の足へ向かっていった。

 次の瞬間、燈太は――


 ――跳んだ。


 燈太は走りながら軽くジャンプした。つま先あたりを何かが掠める。


 ――なんだ?!


 燈太は走りながらも能力を使っていた。すると突然、足元に高速で『UE』が迫ってきているのを捕捉したのだ。それを咄嗟にジャンプして避けた。


 ――木原の能力は魔力を纏うだけじゃないのか……?!


 燈太は一度止まり、木原の胸部めがけて発砲。先ほど同様、ダメージを受けた様子はなく、変化はない。残り10発。

 


 木原は、動揺した。


 ――なぜ、避けられた……?! 魔力を使う者同士ならともかく、普通の人間に魔力が知覚できるわけがない。……まさか、これがコイツの能力か!


 恐らく危機を察知するような能力。それを使って魔力を避けたのだろう。

 今の流れで、燈太の能力に検討が付いたは良かった。しかし、状況はすこぶるマズイ。足を止められなかったため、このままだと地下三階の階段へ到達してしまう。

 木原は、上唇を噛み、もう一段階無茶をすることにした。

 魔力を放出。背中や、後方へ向けた両腕の鎧を解放。

 この魔力を推進力とし、距離をイッキに詰めようという狙いだ。


 ――鎧で覆われない箇所が増え、リスクは増すが、あっちの能力がある程度わかったんだ……。怖ろしい選択だが、死ぬよりはマシだ……ッ! 殺す……絶対に!


 魔力を放出した瞬間、燈太が突然立ち止まった。


「なっ……」


 ――読まれた?! もしかして、こいつの能力は未来予知なのか……?!



 ――ここが勝負だ! 上へは行かず、ここで応戦するッ!


 燈太は、その覚悟の元、ブレーキをかけ立ち止まり、木原の方に全身を向けた。


 殉職してしまった月野春奈。彼女は、木原同様に魔力を使う『超現象保持者(ホルダー)』であった。月野の能力に関する情報は木原達と共通する部分があると考えて良いだろう。そのため、月野同様、木原にも魔力切れがあり、そこが勝利の糸口であると燈太は考えた。

 だが、必ずしも経過した時間に応じて、木原の魔力がなくなるわけではない。


 ――多分、月野さん同様、あいつの魔力は時間経過で、回復する……。


 ここは『皆既食(エクリプス)』の中。逃げられたり仲間を呼ばれたりする危険性がない。木原は今までの会話でわかったが酷く臆病な人間だ。こちらの「合わせた指先」を気にして、すぐに攻めてこなかったことからもわかる。


 性格からして、ある程度魔力を消費すれば今度は木原が逃げに回るだろう。

 そう燈太は考えた。


 するとどうだ。木原は魔力を回復できるが、燈太の弾丸は減る一方。

 故に、ある程度魔力を消費させたタイミングで距離を詰め、木原を逃がさないようにするしかない。

 さっき飛んできた魔力の謎や、実際どの程度魔力が減っているか、接近戦に持ち込んだとして時間を稼ぐ余裕などあるのかなど、多くの不確定要素にまみれている。

 だが、『未知』へ飛び込まねば何も得られない。


「勝負だ、木――」


 木原が文字通り、飛んできた。



 突然の、急停止で想定していた間合いが狂う。

 ナイフで切りつける前に、木原は燈太と激突した。


「ちっ……!」「がぁっ!」


 木原も燈太も床に倒れた。木原は魔力の鎧で衝突によるダメージは一切ない。


 ――普通に衝突したってことは、能力は未来予知でもないな……。


 木原は燈太の能力に対し考えを巡らせつつ、すぐに起き上がった。そしてナイフを構える。ハプニングはあったが、あっちから接近戦に持ち込んでくれるなら、全く問題なし。能力の種はある程度割れている。

 銃弾に耐える強度の魔力放出もまだ健在だ。


 ――切り刻んでやる……!


「は?」


 燈太は、立ち上がると再び地下三階への階段へ向けて走り出していた。今度は完全に背中を向けている。


 ――な、何が目的だ……?! 逃げるのが目的なら今なんで止まった? いや、それどころじゃない! このままだとブラフがバレる!


 木原、とっさに妙案を思い付く。

 

 ――戻れ!


 木原の能力は三段階に分けられる。魔力を纏う、放出、そして回収だ。

 先ほど、燈太が避けた足を狙った魔力の鎧の破片。あれをこっちに呼び戻す。

 現在、破片と木原の線上には燈太がいる。回収すれば、燈太は巻き込まれる。再び足を狙う形だ。

 破片がこちらへ向かい飛んでくる。それを燈太、またしてもジャンプして避ける。


 同じ手を使って、同じ結果を招く木原ではない。


 ――もらった。


 木原は、ジャンプし足が地面から離れた燈太に向かい、胸部に纏っていたの魔力の一部を放出した。これは半径4cm程度と最低限のサイズに絞った。

 本当に、本当に身体前面の魔力は放出したくなかった。だが、両腕は先ほど放出してしまったし、下半身の鎧は目線よりかなり下にあるため、素早くかつ正確に打ち込むには精度に欠ける。

 木原は相当追い詰められていた。もう、すぐそこが地下三階への階段だからだ。

 しかし、これは間違いなく直撃し、あいつの体勢を崩せる。危機を察知できる能力があったとしても空中であれば避けようがない。


 結果――


「がッ……!」


 燈太の背中に鎧の魔力が直撃した。燈太は着地に失敗、前方へ倒れこんだ。つまりうつぶせ状態。

 

 ――殺す……ッ!


 好機である。背中を向け、地面に倒れている今が。


 ――早く! 殺さなければ! こいつは絶対に生かしておきたくない!


 木原はナイフを握りしめ、燈太の元へ距離を詰めた。


 ――怖い! 怖い! 怖い! はやく死んでくれ! これで殺させてくれ!


 起き上がろうとしているのか、燈太の背中が持ち上がった。だがもう遅い。


 ――死ね! 死ね! 怖い! 死ね!


 燈太の顔はおろか、銃すら、木原からは見えない。つまり、燈太はどうやったって木原を止めることはできないのだ。

 木原はナイフを振り上げ――


「――半径1m」


 ナイフを振り下ろそうとした瞬間、燈太の声。

 いや、構うものか、どうや――

 

 そして銃声が鳴り響いた。


「な……」


「もう踏み込んでる(・・・・・・)んだ、あんたは」

~補足~

木原の能力を福田に隠すシーンは、36話に描かれています。

p.s.明日も投稿予定ですのでお楽しみに。

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