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第111話 とある臆病者(1)

木原の過去編より連載再開です。

現在の状況としては、木原と燈太が鉢合わせたところですね。

 木原 春樹はるき

 無期懲役囚。人間恐怖症。


 彼は物心がついたときから、自分以外の人間が怖くて仕方なかった。

 いや、生まれた時からなのかもしれない。親の教育や、何かの外的要因が彼を歪めてしまったのではない。生まれたときからこうなのだ。


 自分以外の人間が何を考えているかなどわからない。故に恐れる。


 無論、「想像」はできる。だが、「確証」はない。

 彼は学生時代、国語の点数は高かった。なぜなら本を書いた作者の気持ちを想像すること(・・・・・・)が正解であるからだ。事実は必要ない。

 彼の「人の気持ちを考える能力」や、「理解する力」は並みであったが、それを信じることが出来なかった。


 だが、それが普通だ。

 この世に他人の考えを完璧に理解するものはいない。多くの人間はすべてを理解しなくても、ある程度の信頼を置き、他人とコミュニケーションを取り生活する。すべてを理解し、すべてを信じる必要はない。


 木原はそれに対し強い忌避感を覚えた。

 なぜそこまでの不安感を覚えるのか、小学生になっていまだわからぬまま、他人には誰一人として心を開かなかった。


 その正体を掴んだのは中学生の頃だった。


 中学2年生の夏、自身の祖父、母方の父が亡くなった。そのとき、木原は漠然と「死」について考えることになる。

 人は必ず死ぬ。

 そうした結果人はどうなるのか。死んだらどうなるのだ。

 無になるのか?

 少なくとも木原が死んでも、地球は回る。

 何度も、何度も、何度も。

 だが、自分の死は変わらない。命を失った木原は永遠に意識は戻らず、時は無関心に流れ続ける。目を覚ますことはない。どんな痕跡を残そうが、この星の自転はそれをいつしか消し去ってしまう。少しずつ少しずつ自分の痕跡が消えていくわけだ。


 宗教というのがある。その多くは、死の先を定義している。例えば天国や地獄。

 嘘を付け。

 木原はそういうのを知っていたが、天国などと言った「誰かが言った死の先」を信じなかった。あれは人の考えたものだ。何を考えているかもわからない、ずっと昔に生きていた人間の妄想だ。


 死の先は誰も知らない。つまりは、『未知』。


 暗く、深く、底が見えない。大きな穴に、深い海に、宇宙の果てに一人残されるようなおぞましさ。木原はそんな膨大な恐怖感と不安感に襲われた。

 なぜ、多くの人間は「死」について深く考えないのだろうか。おそらく皆、見て見ぬフリをしている。考えないようにして、生きる。そうしたところで、「死」は必ずやってくるのに。

 怖い。怖い。怖い。

 「死」という概念が木原を押しつぶす。


 そんな恐怖の中、木原は自身の根源を理解した。


 ――「死」を強く恐れるからこそ、人を信じることができない。


 人間を一番殺している生き物は人間だ。

 何を考えているかわからない自分以外の人間にどうして信頼を預けることができよう。


 すれ違った人間の正気を誰が保証する? 

 電車で隣の席に座った人間が一秒後に人を殺さぬ証拠がどこにある?

 向こうから来る人のバッグに凶器が入っていないことをどうして疑わない?


 それが近しい人間だったとしても、実は誰にも言えぬ闇を抱えていて、それが爆発することがないと誰が言えるだろう。


 死という忌避すべき『未知』。

 そこへ突き落す可能性のある何を考えているかわからない人間ども。


 それが木原の本質だった。

連載再開を2月中とお伝えしましたが、ほんとにギリギリになってしまい申し訳ないです……。

連載ペースをあげて、頑張っていこうと思います。

これからもどうぞよろしくお願いします。

引き続き、感想などなどお待ちしております。


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