表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/171

第101話 『黄昏の4』

 地下3階。広間の真ん中で『黄昏の4』アーケルトは、暇を持て余していた。


 そのため、現状を把握すべく、余裕を持って考えを巡らせる。


 持っている情報としては、ミーシャ曰く、侵入者は6人。

 「『皆既食エクリプス』起動」という声と共に、通信が途切れたことからヴォルフとシェパードが『皆既食エクリプス』を使ったのは間違いない。


 となれば、地下2階へたどり着いたのは多くても4人。

 まあ、その中に瞬間移動持ちがいて、本社に戻った可能性や、ヴォルフが『皆既食エクリプス』を起動する前に数人をぶち殺していることもあり得る。


 最多で4人、最少で0人だ。


 だが、今さっき、地下2階の篠崎から「1人と交戦中で、もう1人を逃がした」という連絡が入った。

 篠崎の言葉を信じるならここへやってくるのは1人。ただ、地下2階は通路が二手に分かれている。あっちが最大数の4人いて、2、2で分かれて動いていたならば、話は別。篠崎の逃がした1人と、篠崎と会わなかった2人で最大3人が地下3階で降りてくる。

 よって、地下3階へ来るのは1~3人ということ。


 この辺を考えると、


 ――『皆既食エクリプス』は貼らない方がいいか……。


 最悪を考え行動するなら、それが良い。アーケルトの魔術なら多人数でも対応できる。

 といっても、ここで敵を逃がしたところで下には一応木原がいるし、地下5階へたどり着かれても儀式の祭壇へ行くには一つ仕掛け(・・・)がある。

 それで時間を稼げれば、『皆既食エクリプス』から出てたヴォルフなり手の空いた奴が対処できるはず。


 色々考えなくてはならず、めんどくさい。


「あー……、ビヨンデさん死んだの痛ぇなぁ、クソ」


 本来、彼に情報伝達役を任せる予定を組んでいた。『黄昏の3』ビヨンデがいれば、透過を使い、無敵状態で素早く各階を移動し、目視による情報共有ができたのだ。急ピッチで本命の儀式を始めたので、その埋め合わせができていない。

 と、


――おいでなすったなぁ?


 地下二階とここをつなぐ階段の方、そして通路から音がした。その直後、パーカーを着た少女が広間に現れた。

 一人だ。


「おー、一人か? 嬢ちゃん」


 ――降りてくんのが1人なら、『皆既食エクリプス』貼ってぶっ殺すのもありだな。


 女、そして自分より年下ということで若干の抵抗があるが、まぁ仕方ない。

 確実に仕留める。


 少女はアーケルトを無視して、何か襟あたりにマイクが付いているのか、そこに口元を近づけ何かを話している。


「おっしゃ! 『皆既エクリ―—」


 『皆既食エクリプス』を起動しようとした瞬間、少女が視界から消えた。

 

「あ?」


 周囲を見渡すと、アーケルトの右方に少女は立ち、ぴょんぴょんとその場でジャンプをしている。


 ――こいつが瞬間移動の『内包者』か……? いや。


 次の瞬間、少女は消え、


「『黒葬』執行部対人課 狐崎 空。お前を『処理』するッス……」


 声は後方から。気づけば回り込まれている。

 見えなかったが風を感じた。となると、瞬間移動ではない。

 尋常でなく速いのだ。

 人間の出せる上限速度を大きくぶっ超えたスピードで、少女はアーケルト周囲を攪乱するかのように動いている。


 ――待て待て待て待て……、やべぇぞ。


 アーケルトは焦った。

 少女の能力がアーケルトの想像する最悪のものならば。

 

 ――相性最悪だぜ、下手すりゃ……。


 青ざめた。


「3速」


 右方から声。


 ――マジで速ェ! どこまで(・・・・)速い……?!


 もう全く目で追えない。

 周囲にいるのはわかっているが、どこを走っているのか、どっち回りで走ってるのかすら不明。天敵の可能性を感じ、ダラダラと冷汗が流れる。


 ――クソが……、勘弁してくれよ……。


 心の中で悪態をつくが、少女に止まる様子はなかった。


 そして、とうとうその時はやってきた。


 少女はアーケルトを轢き殺すべく、一直線に駆けた。

 その瞬間すら、アーケルトが気づくことはない。少女がアーケルトの死角を利用したのと、あまりに速かったためだ。


 アーケルトは知る由もなかったが、少女は音速を超えていた。


 そして。


「あぁ……」




 アーケルトの魔術が発動した。



 

 カウンター型の魔術。それは、アーケルトの半径10m以内に入った物を問答無用で貫く。


「――俺のよか遅ェのか……」


 彼の魔術は音速を超える。

 

 ――雷撃だった。

 

 魔術名『光り轟く迅殺の槍サンダーボルト・スピア』。

 音を超える速さで無慈悲にも敵を撃つ、雷の魔術。

 

 つまり、光速(・・)の槍である。


「くはッ……!」


 少女はアーケルトの10m後方で雷に打たれていた。まあ、雷といっても上空から落ちる物ではない。アーケルトの元から放たれた電撃は空を泳ぎ、炸裂する。


 アーケルトが振り返る。

 少女は、呻いていたが、死んではいない。黒焦げになっていてもおかしくない威力のはずなのだが。


 ――ダメージは入ってるが、すげぇタフだな。なんかしてんな……?


 となれば、連撃を敢行する。


「『光り轟く迅殺(サンダーボルト・ス)――」


 同じ対象に立て続けで電撃を浴びせるには詠唱がいる。

 その隙に少女は、こちらから逃げるようにして駆けた。

 だが、今回は目で捉えられるほどの速度だ。やはり直撃は効いている。


 詠唱終了までに少女が半径10mから出た。これでは雷撃が届かない。

 だが、逃がしたくはない。


「『エク――」


 もう一度、『皆既食エクリプス』を起動しようとしたが、少女が加速した。速いが、今回も動きが少しだけ見えている。広間を抜け、通路へ逃げたようだった。

 その先には上へ昇る地下2階への階段しかない。

 地下4階への階段がある方の通路なら追うが、これなら追わずに結構。


「……ふぃー、どうなるかと思ったぜ……」


 アーケルトの魔術は自動のカウンターなので、攻撃をアーケルトが認識する必要はない。故に、彼女の速度が音速か、光速かなど判別が付かなかったのだ。

 結果、こちらの攻撃が当たったことから光速には達していない。早くても音速止まりだろう。

 問題なし。


「リベンジ待ってるぜ! 嬢ちゃん!」

44話で『陣』生成現場へ向かった幽嶋の投石を防いだのは、アーケルトの魔術でした。


……と、44話でアーケルトの魔術の伏線を残したつもりが、アーケルトを『黄昏の5』と書いている赤っ恥なミスをしてました。修正です……。

最近はちゃんと推敲してから投稿するようにしているので、今後も温かい目で見守っていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ