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第10話 染まらない黒

 燈太は扉を3度ノックした。ここは『bar BLACK』。国営会社『黒葬』の本部の入り口である。


「坂巻燈太です」

「なんの用で?」

「献杯のためのワインを取りに来ました」

「白か? 赤か?」

「黒」

「ヴィンテージは?」

「1946年」


 合言葉を言うと鍵が開き、入ることが許される。中は綺麗なbarになっていて、マスターは髭を蓄えたダンディな男性だ。社内では見たことがないが、彼も『黒葬』社員なのだろう。


「おはようございます」


「おはよう。慣れたかい? この仕事」


「……まぁ、少しは」


 燈太は苦笑する。新しいものしかないのだから慣れることはない気がする。だが、大抵のことでは驚かなくなっている気はしていた。


「ふふ、そうか。今日もがんばるんだぞ」


「ありがとうございます!」


 燈太はペコリと頭を下げ、トイレ、すなわちエレベーターへ向かう。

 いつものように揺られ、受付嬢に挨拶をかわし、対人課のオフィスへ向かう。


「おはようございます」


「おはよう」


 オフィスにいるのは調だけであった。

 時刻は8時30分。燈太が少し早く着いたのだった。


「燈太。今日は紅蓮と共に仕事へ行ってもらう」


「ほんとですか?」


 燈太は、目を輝かせた。妖刀の件以降、特に仕事がなかったからである。


「……やけに楽しそうだな。内容については紅蓮と共に指令部で聞いてくれたまえ」


 ◆


「燈太君と紅蓮にはここへ行ってもらいたいのよ」


 指令部の葛城はそう言い、二人にタブレットに映されたある場所を見せた。


「……白金家……?」


 その場所は都内にある、白金という人の住む家だった。しかし、ただの家ではない。どこからどう見ても豪邸である。


「『白金電工株式会社』って聞いたことある?」


「はい」

「あるな」


「そう、そこの社長の元に行ってほしいのよ」


 白金電工株式会社という名前は燈太も知っていた。それほどまでに有名な会社である。電化製品のイメージが強い国内でも有数のメーカーだ。その社長であるならこの豪邸に納得も行く。


「……このレベルの金持ちってことは『黒葬』の名は?」


「知ってるどころか資金提供者の一人でもあるわ」


 『黒葬』は国営である。しかし、国が活動費など、すべてを負担しているわけではない。国内の大金持ち、はたまた海外からの資金提供者も存在している。理由は簡単で、『黒葬』は媚びを売っておいて損のないほど、力を持っている組織だからだ。


「で、何をしろと?」


通告(・・)よ」


「通告?」


「『白金電工』社長、白金しろがね治正はるまさには、一人息子がいてね。その息子がある事件を起こした。集団暴行殺人事件よ」


 燈太、紅蓮の表情は曇った。


「それも数件。最近明るみにでたんだけど――」


「――隠蔽か?」


 紅蓮は葛城に問う。その声は静かに、そして冷たかった。


「ええ。そうよ」


 社長の、つまり大金持ちの息子が事件を起こし、それを父がもみ消した。紅蓮のそう言っている。世の中、大抵のことは金でなんとかなるらしい。

 ――つまり、既存の法では裁けない。


「その息子、白金敬之助(けいのすけ)を『黒葬』が処理(・・)することに決定したわ」


「……でも、その社長は『黒葬』の資金源なんですよね……? その、なんていうか、大丈夫なんですか?」


 燈太はそう疑問を口にした。

 『黒葬』に協力する人間の息子を処理――犯罪内容から、かなり重い罪、もしかすれば殺してしまうのかもしれない――するというのは、恩を仇で返すような話に聞こえる。

 もちろん、敬之助を許していいわけではないが。


「……『黒葬』は国から多くの権限を許され、世界でも最大の力を持った組織だ。それゆえに誰からの権力に屈してはいけない」


「そう。『黒葬』は治安維持、平和を維持するために存在し、そのためにあらゆる権限を許されている。対象が資金提供者の息子であれ何も変わらない。『黒』は何者にも染めることはできない。それが『黒葬』の方針なのよ」


 何ものにも染まらない『黒』を掲げ、国、世界の敵を『葬』る。

 それが『黒葬』である。

 入社したときに春日部から渡された資料に載っていたことであった。しかし、燈太は理解にまでは至っていなかった。

 それを今、理解した。


「とはいえ、資金提供者であることに変わらねぇ。白金治正にはその旨を伝えよることは承認された、と」


「その通り。……燈太君、危険のない仕事ということであなたが推薦されたのだけれど、精神的にきつい仕事になるわ。降りることも可能よ」


「どうする?」


 紅蓮が燈太をみつめる。


「……行きます、行かせてください。僕も研修の身とはいえ『黒葬』の一員なので」


 確かに、葛城の言う通り精神的にくる仕事なのだろう。燈太は好奇心とはいえ『黒葬』に入社することを決意した。逃げてはいけないとそう思ったのだ。

 未知に触れる、知らないものを見る。それがすべて楽しいものとは限らない。


「……燈太君」


「なら行くぞ、燈太」


 彼はまた一歩、闇へ足を踏み入れる。

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