幕間
「完了した」
シェパードは冷たくそう言い放った。
「どうも」
ハールトが少女に初めて会ったとき、彼はある人物を連れて行った。
それは、爆破魔術の使い手『黄昏の5』シェパードである。
シェパードは、春奈との別れ際、彼女に触れた。それによって、木原達同様、いつでも始末することができたのである。
ハールトが位置を確認し、少女が『黒葬』本社に帰ったところを見計らい、起爆した。
現在、少女は福田の『器』を継承したことで威力は上々。強襲時は『黄昏の3』に配慮して行わなかった手だ。本社にダメージを与えるに等しいパワーはある。
「うまく行きました。恐らく足止めにはなるかと」
「……それでは儀式を始めるとしよう。我ら『極夜の魔術団』……いや――」
◆
燈太達は爆発の音を聞き、すぐに受付へと駆け付けた。
確か、月野春奈が帰還したはず。
そこには立ち尽くす紅蓮、崩れ落ちる葛城、そして、何か光り輝く壁のようなものがそこにはあった。
「……『黒葬』本社の最終防衛装置『暗幕』」
そう、近くにいた指令部長の獅子沢が呟いた。
「『UE』の発生かつ、周囲の物に被害を与えるのを予測した時、その対象を瞬時に包囲する形で自動発動する電磁バリア。それが『暗幕』だ」
『黒葬』本社は燈太という何の能力があるかもわからない少年を保護した。
多分、それができていたのは、この装置があるゆえだろう。そして、この装置が発動したということは、恐らく春奈の身に何かが。
「……指令部長。これを切ってくれ。中に春奈がいるんだ」
紅蓮が静かに、そして震えるような声でそう言った。
「聞こえねぇのかッ!!」
紅蓮は声を張り上げる。
「紅蓮」
玄間は、紅蓮に近づいて肩を叩き。そして、首を振った。
「お前がいない間、恐らく月野と同じ方法で魔力を得た男が突然死している。先ほどわかったことだが、司法解剖の結果、体内で爆発が起きていた……。きっと同じ方法だ」
爆発音を聞きつけ、ここへやってくる前、月野春奈の事を獅子沢や玄間から聞いた。彼女は魔術団に利用され、魔力を受け取ったある種、人工的な『超現象保持者』だったのだ。
つまり、この爆発は――。
「じゃあよ……元凶は『極夜の魔術団』か?」
「あぁ」
「ッ……!」
紅蓮は玄間の胸ぐらを掴む。
「なんでッ、俺達をすぐに帰還させなかった!! 何が『白』の名の付く組織だッ! んな実態の見えねぇもん後回しにして『極夜の魔術団』を潰すのを最優先にすべきだったんじゃねぇのか?!」
『極夜の魔術団』が『黒葬』本社に強襲を掛けた時、紅蓮は帰還を強く勧めていた。それを拒否したのは対人課長玄間である。『アトランティス』の成果が必要だと、そういった。『アトランティス』の成果は、お導きにある『白』と名の付く組織との衝突を考えて、最優先であると判断した。
本当にそれは最優先だったのか。
先に『極夜の魔術団』ではないのか。
調査を切り上げ、すぐに帰還したとしても、早まるのは精々数時間だろう。しかし、その数時間で救われた命があるかもしれない。
紅蓮の怒りはもっともだった。
「……」
「なんとか――ぶッ」
玄間は紅蓮を殴り飛ばし、そのまま2m近く吹っ飛んだ。
「落ち着け」
紅蓮は、血だらけの顔で玄間をにらみつける。
「……落ち着けだァ? あんたの采配ミスじゃねェの――」
「――その『白』と名の付く組織こそが『極夜の魔術団』だ」
玄間はそう言った。
「いや、言い換えよう。俺達が『処理』しなきゃならん相手は、
――『白夜の魔術団』だ」
次回から3部です。
評価、レビュー、感想(一言でも全然嬉しいです)お待ちしております。励みになるので! これからも執筆頑張ります!
~補足~
・29話を読み返していただくと、シェパードが春奈に魔術を仕掛けたシーンがあるかと思います。良かったら探してみてください。
・実は、機密文書が解読されて以降、獅子沢、玄間、葛城のセリフや地の文において、『極夜の魔術団』が『魔術団』という言い回しに変わっています。(ミスがなければ……)
・『暗幕』がビヨンデに対し発動しなかったのは、電波妨害結界があったからです。ちなみにこの結界は透過を使って地中に札を配置し、張っていた結界なので、ビヨンデが死んだ今また貼るのは不可能になりました。