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国営会社『黒葬』~秘密結社は暗躍し、世界の闇を『処理』する~  作者: ゆにろく
Ⅱ 南極古代都市『アトランティス』編
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第92話 決着と帰還

 少女は再び地面を殴りつけた。


「また、同じ手か……」


 『黄昏の1』ヴォルフとしては少々残念である。この少女は、そこそこやり手だと思っていたのだが。

 先ほど同様に土煙が舞う。ヴォルフに礫が飛んできた。魔力を放出することで、礫や砂を弾く。

 右方で魔力を感じた。

 地面に向かって魔力が放出されている。恐らく今日、少女が何度か見せた魔力放出を使った素早い移動。全く同じ手だ。

 土煙をかき分け何かがヴォルフに接近するのを感じた。

 であれば、こちらも先ほど同様魔術を使うとしよう。

 ヴォルフは構えるも――


「石……?」


 飛来したのは大きな石だった。これ自体は難なく躱せる。


 ――魔力の感知を逆手に取った、ブラフ……!


 一度目の事を学習し、うまく魔力の共鳴反応を利用している。

 少女はどこへ行った? 土煙が晴れ、視界が良好になるも少女の姿はない。

 地面に向かって魔力を放出したのは事実。どこへ跳んだのだ。

 ふと地面に目を落とすと、大きな影が出来ていた。ヴォルフが上を見る前に、上空で魔力を感じた。


「――次は私が見下ろす番だ」


 少女の声。

 彼女は跳んだのではない、翔んでいた(・・・・・)

 先ほどの魔力放出は前へ跳び、間合いを詰めるための放出ではなく、上へ飛ぶためのもの。


「……見事」


 少女はヴォルフに向かって、魔力を乗せた拳を振り下ろした。


 ◆


 春奈は男を地面へたたきつけ、着地……に失敗しふらつき地面に倒れた。


「やった……」


 男は倒れたまま動かない。

 地面に着地した衝撃が腹のケガに響く。ひざに力が入らない。


「ダメだ……」


 身体が重い。動きたくない。

 近くにあったベンチに身体を預ける。 

 帰らなきゃいけないのに。せめて、『黒葬』に連絡を。

 身体が言うことを聞かない。

 春奈はそこで意識を失った。


 ◆


「『演算装置ハイド』アップデート完了しました……ッ!」


 午前8時。

 『黒葬』本社、指令本部室にそんな声が響いた。


「よし……。まず、この13時間で発生した『UE』を調べろ! 過去の『陣』生成で発生した『UE』の量から、この13時間でいくつ『陣』が生成されたか推測できるはずだ」


「……微少なものを除き『UE』の発生は……4か所で確認されています! その中で『陣』生成とほぼ同量の『UE』が見られたのは3か所です! 恐らく『陣』は3つ生成されている模様!」


 魔術団は『陣』を既に6つ生成したというわけだ。となれば、本命の儀式をいつ初めてもおかしくはない。


「微少『UE』の発生場所から魔術団の動向を探れ! 『陣』に囲まれた範囲内で『UE』反応があれば、おそらくそれが本命の儀式に関係しているはずだ!」


「はい!」


 ここからが勝負だ。獅子沢は、現場に指示を飛ばす。


「……あっ!」


 そんな声をあげたのは葛城だ。


「どうした、葛城」


「部長、これは微少『UE』なんですけど、発生した場所の内1件が、月野春奈の実家近くです! これは……」


 微少『UE』となると、例えば結界魔術だ。


「……微少『UE』か。まずいな。『皆既食エクリプス』であれば、月野と魔術団が交戦したということかもしれない。『黒子』を連れ、現場へ急げ」


 魔術団は完全に儀式に舵を切っている様子だ。現場に本人がいるかは微妙な線だが、現場で魔術団が待ち構えているということはないだろう。事後処理部隊『黒子』で十分だと、獅子沢は判断した。


「わかりました! 手配します!」


 獅子沢も『UE』観測データを確認する。

 微少『UE』を除く観測は4件。3件は『陣』生成だが、もう1件はなんだ。今回のアップデートで『UE』発生場所もかなり明確になっているため、位置も把握できる。

 『陣』生成以外の残る1件の発生源は、普通のアパートだった。そのうえ、そこで短時間に立て続けで『UE』が発生している。


「なんだこれは……」


 それだけではない。同じ部屋で、同じ瞬間に3件も『UE』が観測されていた。それもバラバラの量で。まるで、『超現象保持者ホルダー』数人が争ったような形跡。

 魔術団だとするなら、あちらで何か問題が発生しているのだろうか。


 ◆


「――なちゃん!」


「うっ……」


「春奈ちゃん!!」


 春奈が目を覚ますと、そこには葛城が立っていた。


「葛城さ……」


 春奈は身体を起こし


「あいつは――ッ……!」


 急に身体を動かしたことで、激痛が走った。いや、今はそんなことどうでも良い。『極夜の魔術団』の男はどうなった。


「無理しないで」


「いや、でも、そこに男が……」


 確か、あそこに倒れていたはず。指をさすも――


「? 誰もいないけれど……」


「え?」


 そんなバカな。逃げた? いや、確実に仕留めたはず。

 辺りはもう明るくなっている。


「夢……?」


「大丈夫?」


 葛城は心配そうに、春奈の手を取る。

 春奈はそれをとっさに振り払ってしまった。


「春奈ちゃん……?」


「あ……、いや」


 男はいない。

 つまり、春奈は何もできなかったということだ。これではただ『黒葬』を飛び出しただけ。

 春奈に対する疑いの目は更に強まって――


「――帰りましょう?」


「……え?」


「出歩いてるけどね、普通に大怪我なんだから! 紅蓮ならほっておくけど、春奈ちゃんは不死身じゃないでしょ」


「いや、でも……。わ、私はみんなを危険に……ッ」


「大丈夫」


 葛城は春奈を抱きしめた。


「利用されてしまったんでしょう? 見当はついてるわ……。今、あなたを疑っている人は『黒葬』(うち)にはいない」


「っ……」


 春奈は、


「帰って……いいの?」


「えぇ」


 気づかぬうちに涙を流していた。


【『アトランティス』調査隊、帰還まであと0時間】

~補足~

・『黒子』とは事後処理をしたり、色々人手が欲しい時に使われる社員さん達のことです。たまにしか名前がでないので一応。

・『陣』生成以外の一件というのは、もちろん木原vsレイパンドです。

春奈vsヴォルフは『皆既食』内で戦っていたので、『皆既食』を発動した時の微少『UE』以外観測されません。

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