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あいつ

作者: 楪羽 聡

 あいつは仲間内でも抜きん出た才能を秘めていた。

 創り出すものは、どれもこれもが星のような(きらめ)きを放つ。あいつの手を離れてからも、それらは永遠の輝きを放ち続ける。


 その感性は凡庸な俺など足元にも及ばず、甘い嫉妬と熱い羨望を抱かせる。

 それは激しい餓えにも似ていた。


 だがあいつは生きることがあまりにも下手だった。

 砂粒ほどの(つまづ)きに涙し、そよ風が頬を撫でるたびに涙し、名もない花がほころぶのを見ては、また涙する。

 だから仲間内ではなにかと物笑いの種にされていた。あいつを指差して笑い、俺にも同意を求める。


 俺はそのたびに「いや……」と言葉を濁してやり過ごす。さりとて、積極的な擁護もできない。どこまでも中途半端でつまらないやつだ。


 あいつはそんな時、俺たちを()()うでもなく彼自身を()()くでもなく、ただ「ふうん」と一言だけ発する。

 その声を聞くたびに、俺は責められている気にすらなるのだ。




 あいつが命を断った。

()()だなぁ」というのが、その時の仲間内での一致した意見だった。


「そんなにつらいなら相談してくれればよかったのに」

「俺たちはそんなつもりじゃなかったんだから」

「あいつ昔から思い込みが激しかったな」

「何も死ぬことはなかったんだよ」


 だが俺はそうは思わなかった。

 あいつは莫迦じゃない。つらかったのでもない。

 思い込みが激しかったわけでもない。


 仲間が口にする勘違いも甚だしい言葉の数々は、彼らの自己弁護でしかない。


 俺はあいつが羨ましいとすら思っていた。幾度となくふらりと惹き寄せられ、命を断つことに誘惑された。

 だがそれはただの醜い猿真似だ。許されない行為だ。


 あいつは、自らの魂を燃やしたのだ。命を()して、最期の作品を完成させたのだ。俺にはそれがわかっていた。

 だからこそ、俺はいつまでもそれを見届けなければならないのだ。



 あいつがもし今でも生きていたなら――と、ふとした瞬間考える。

 きっと今もなお、珠玉の名作が世に多く出回っていたことだろう。

 彼の最期の作品には到底及ばないにしても、多くの者たちの魂を震わせ続けたことだろう。

 だがあいつは、そんなことを欠片も気にしていなかった。


 そしてあいつはもういないのだ。

 だから俺なんかがつまらない言葉を吐き出し続け、愚にもつかない駄作を量産し続けるのだ。


 あいつがここにいた証を、いつまでも(のこ)し続けるために。


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