ep,26 革命の歌姫5
連合国自治区、死王領域。
首都アヴェンタ=ドール。
ここハルフォード宮殿にて、この領域を統べる存在に、この日謁見するためはるばる狩王領域より足を運んだ初老の男。
蝋の灯りに照らされた影がゆらゆらと揺れる。男は膝を着きうつむいた姿勢のまま硬直していた。まさか寝ているのではないかと疑わしいほどに、男はひたすらに停止していた。
だが、それすらも杞憂だ。
重々しい物音を立てながら開かれる扉。柄を握るは少女。桃色の髪を短く整えた少女。年はおよそ10代後半といったところか。少女は男の姿を目に捉え「ふふん」と半目で笑って見せる。この少女もまた、連合国軍内における男と同様、古くより連合国を支えたこの国の重鎮である。
「来たか、カーランダル」
「はい、死王陛下。本日は懇願を申しあげに参りました」
「ほう。願いか、何が望みだ。言えカーランダル」
カーランダル……カーランダル・カスケード。
男は緩やかな口調と温厚な顔つきで、眼前に座る黒鎧の男を見据える。
「此度の御使いの処分、私めにお任せ頂きたい」
「お前に?」
はい、と頭を垂れかしずくカーランダル。
「件の御使いに興味でもあるのか?」
「ええ、まあそのような所です」
「ふん」
腕を組み、しばし思案する素振りを見せる死の王。
その横で佇む桃色の少女が、耐えきれんとばかりに口を開く。
「やらせたげなよ」
言って、王の傍らに立つ小柄な少女が続けるよう口を開く。
「カーランダル君がこんなふうに興味を示すなんて珍事じゃないか。わたしは大いに興味があるけれど」
「お前の意見は聞いていないんだがな」
「おっとこりゃ失敬。まあ、わたしは賛成ってことで」
沈黙する。どこか探るような視線でカーランダルを睨む。数秒の後、嘆息をつき応える。
「……いいだろう」
「ありがとうございます」
応えて、顔を上げようとした刹那、それを遮るかの如く死王は重たい声を上げる。
「しかし、御使いについては生け捕りにしろ。始末はするな。生きたまま、俺の前に連れてこい」
「……なるほど。陛下も随分と興味がおありなようで」
「無論だ。俄然、興味がある」
「おやおや、死王くん。なんだかんだ言って気になるものは気になるのかい」
「黙れ電波女」
きゃはは、と無邪気に笑って王を煽る少女。通常であればそんな無礼は決して許されない。特に、礼節を重んじる彼の死王相手になど絶対に有り得ない。
電波女と謗られる彼女、その異名を魂の牢獄。
連合国に王が四人いるように、併せて各階級もまたそれに倣うよう席を用意されている。
将軍の位を冠する者の席は、そう易々と用意出来るものでは無い。
准将、各国に二名ずつ計八名。
少将、各国に一名ずつ計四名。
中将、二ヶ国に一名の計二名。
大将、二ヶ国に一名の計二名。従って、総計一六名の将軍と内八名の御使い、四王を含め一二名の御使いが連合国を統治している。
連合国にたった二席のみの大将。魂を支配する者、アレン・アールハロン。彼女こそ死王の側近、そして奇王とともにこの世界のシステムの基盤を作り上げた魂の管理者。世界でただ一人、魂に触れる者。
そしてこの老体もまた、それに並ぶ存在である。
「死王をして命じる」
アマルに在る『革命の歌姫』を捕らえ、そして『件の御使い』を俺の前に連れてこい。




