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RAW〈~転移した先の異世界はSNSのTLだった~〉  作者: 佐々木ヒロ
《圏外区》編 (放浪第一部)
27/29

ep,25 革命の歌姫4

 「ご紹介にあずかりました、モコと申します」


 どうぞよろしくお願いします、深々と頭を下げながら言う女性。若いが少女と呼ぶには少々大人びている。長くたなびかせた金髪に少しロールが掛けられているオシャレな髪型。――この女性が、革命軍(レジスタンス)たちの象徴的人物。革命の歌姫、モコ。

  セングゥやルサ、フェルトに至ってまで、話に聞いていた『歌姫』の印象が、実際の人物像と少しだけ乖離していたことに、一抹の驚きを隠せないでいた。


 「なんか……なあ……」

 「うん。もう少し、強い女の人ってイメージだったよ」


 それも頷ける。革命の歌姫……とは、連合国軍における重要人物。革命軍の象徴的存在ともあれば、発言力ならびに国家へもたらす脅威は正直計り知れない。

 しかし、それを担うだけの存在。器か、それがこんなフワフワしたお嬢さんだとなれば、話はまた違ってくる。


 「この人がモコさん?」


 疑わしい。とまでは思わないまでも、しかし予想に反して結果が著しく的を外れていたため、純粋に驚きを隠せないのだ。


 「何度も言わせんじゃねえっスよ。この人が正真正銘、革命の歌姫様。モコ・アデルリアーナっス」

 

 再三によるアキテルの説明に、一同微妙な反応をせざるを得なかった。……なるほど、こう来たか。


 「いや、これは失敬。革命だ象徴だリーダーだなど言うものだから、てっきりシキ・イロハのような人物を想像してしまった」

 「あ、それわかる」

 「なんつーか、こう。実際見てみるとアレだな、綺麗な人って感じのイメージだ」

 「……ふむ。しかし、外見だけで人となり全てを判断するのは経験上よくないことを知っている。失礼した、貴女が話に聞くモコであるなら、大した人物だ」


 うんうん。と息のあった首肯に、少し戸惑った様子だが落ち着いた口調のまま、静かなエメラルドブルーの瞳を笑わせて歌姫……モコは口を開く。


 「いえ。私なんて、そんな大層な者ではありません」

 言って、金色のロールを描いた長い髪が風に揺れる。

 「すべて、革命軍の方達の努力の賜物です。私は彼らの代表としてここに立っているだけで名前が知れ渡っているだけですから。彼らの努力があって、今の私が在るんです」

 礼儀正しく、おくゆかしい。この人物が、モコ・アデルリアーナ。

 こうしてみると、本当にただ育ちのいい御嬢さん――といった風体だった。

 しかし、フルネームを聴いてやや疑問が残る。《アデルリアーナ》とは軍に(ふる)くから携わる名家の名前だ。そんな貴族が何故に革命軍を率いてデモ活動を行っているのだ?

 フェルトは数秒ほど考え込んだ後、すぐにやめた。

 どのみち、それもいずれは判ることだ。


 「あの、バーテンド卿。この方たちは?」

 モコさんが怪訝そうに、オールライトさんに向かってバーテンドと名を呼んだ。

 聞こえないよう声量を抑えてアキテルに問う。

 「バーテンド卿って誰?」

 「准将のことっス。一応、軍の人間だってことは伏せてるんスよ。オーライ・バーテンド伯爵――モコさんの熱烈的なファンの貴族って設定っス。ちなみに自分はアーキテレフ子爵って名前、おおむね准将と同じ設定っスよ」

 その説明に一抹の疑問を覚えたルサ。

 「なんで貴族って設定なの?」

 「自分や准将はモコさんの支援家なんス。ときたま今回みたいに協力したり金銭的支援を行ってるんス。貴族って設定だとこういう支援(、、、、、、)も不思議に思われない。だから、そういう設定なんス」

 「なるほど」

 

 「彼らは今回の協力者、護衛(ガードナー)です。変な連中ですが腕は立つのでご心配なさらず」

 「まあ。今回はまた、どうして?」

 「私の持つ情報網から得た情報なんですが、今回の提唱会で軍の連中、とうとう武力行使に出るとのことで。大戦力を引き連れて革命軍を根こそぎ潰す算段だそうです」

 「…………」

 憂いに染まった表情を俯かせるモコさん。うーん、ダメだ。ここはひとつ、安心させてあげたい。

 「大丈夫、そのためのアタシたちだから。アタシらはあの《紅蓮の疫病》や《海坊主》まで倒したことがあるんだから。大船に乗った気持ちでいなよ!」

 「――まあ!」

 途端に、モコさんの表情は明るいものとなった。

 「それは頼もしいです。――しかし、あまりご無理はなさらないでください。アマルの人たちもいます、ひどい戦いにならないことを祈るばかりですが、もしそうなった場合は全力で彼らの避難誘導をお願いします。あなたたちも、命は大切にしてください。本当によろしくお願いします」

 言って、セングゥの手を握る。まんざらでもなさそうに鼻の下を伸ばすセングゥに、両肩から恐ろしい殺気がとんでいるのを見た。


 「提唱会は明後日です。案内しますので、どうぞそれまでうちで宿泊してください」

 「いいんですか!?」

 やったー! と喜ぶアキテルに、女神のようなほほえみで答えるモコさん。

 「…………」

 ―――アタシには、その女神のごとく安らかな笑顔の奥に、一握りの不安が孕んでいるように視えた。



  

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