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RAW〈~転移した先の異世界はSNSのTLだった~〉  作者: 佐々木ヒロ
《圏外区》編 (放浪第一部)
23/29

ep,21 革命の歌姫

 子供の頃、お父様にコンサートへ連れて行って貰いました。

 オペラ。と呼ばれる歌のコンサートで、私はたくさんの人が覗く舞台を同じように覗き込んでいました。

 舞台が幕を開ける。奏で咲くピアノの音色。調律に沿って叩き奏でられる鍵盤や、旋律に倣う弦楽器のつまびきは、私の目の奥をとても熱くした。

 それら全てと、一人の主役における屈託ない透明な響き。歌。タイトルを――――赤子のアリア。

 優しくて、とても思いやりのある、美しい歌声でした。



                 Battlefield of Diva







 1/


 街を出てまもなくした所でオールライトさんと落ち合う約束をしていた僕達は、約束した場所に着いてからのものの数分、オールライトさんと合流した。

 「待たせたな」

 「いやいや。……それにしても、流石は閉鎖世界停止(タイムキーパー)のオールライトだ。まさか、あんな(、、、)手を使って、我々をコウポホルンから脱出させるとは」

 フェルトの言葉に、僕達一同同調するしかなかった。この人、オールライト国軍准将は、僕達を見逃しこの街から脱出する具体的な方法を提案した。それが……

 『お前ら、脱走犯になれ』

 である。補足すると、目下僕達は、指名手配犯とは無関係ながら、取り調べ最中の参考人という立ち位置にあり、同時に留置所で拘束されていた、ことになっている。

 故に脱走犯。僕達が留置所を抜け出し、脱走犯としてコウポホルンを抜け出せば、脱走犯を追跡という名目で、オールライトさん共々正当にコウポホルンを出ることが出来るという寸法である。

 こっちに来て色々と、罪を重ねてきた気がする。ていうか、パーティメンバーが犯罪者だらけじゃないか。

 「……えっと、オールライトさん。その人は?」

 誰、と尋ねながら、乗ってきたバイクとも見て取れるエンジン駆動式の鉄の馬の側面に縄で括り付けにされた、軍人と思しき男に指をさす。

 「ちょっと、准将!? なに犯罪者と仲良くしてるんスか!?」

 ていうかこれ解いて下さいよ! と大声で叫びながら、縄を解こうと必死に身体を揺さぶる男。どうやらオールライトさんの部下らしい。

 「解けっつってもなあ……だってそしたらアキテルお前、コイツら逮捕するだろ?」

 「あったりまえじゃないスか! 犯罪者っスよ!?」

 という具合に、こちらとしても状況がいまいち掴めないので、一応なりに説明を求めたいのだが。

 「……あー。取り敢えず、コイツのことは無視してくれ。追って説明するからよ。……それよりも、」

 言って、見下ろすように視線を合わせて口を開く。

 「結局、ついてきたのか。イッザ」

 イッザ。かつて放火魔だった少年は、今現在僕たちと行動を共にしている。

 「文句あるかよ」

 不愛想に生意気な口調で、吐き捨てるように呟く。

 「僕にはやることが出来たんだよ」

 やることが出来た。それはつまり、姉の復讐。

 イッザはプロトコルの使力によって記憶を弄られていた。そのため、姉の死は自分が殺してしまったものだと認識していたため、それを理解した今、イッザにとってやることとはつまるところ姉を殺した組織への復讐らしい。

 そう言って、出発直前の僕達に、同行したいと申し出てきたのだ。

 て言うかこいつ、キャラ変わってないか?

 「まあいいけどよ。今更罪人のひとりやふたり、見逃すくらい。……言っとくが俺が見逃すだけで、お前らの罪が消えたわけじゃねえ。そこまでの権限は持ってねえんだよ」

 「分かってますって。……それより、オールライトさん最初の取引内容。一つ目はそこのイッザの放火を止めることだった。もう一つは、一体なんなんですか?」

 コウポホルンで彼らに捕まった際、僕達を見逃すことを条件にオールライトさんの都合を二つ、僕達は言うことを聞かなくてはならない。

 「これだ」

 言って、ヒラリと一枚の紙を取り出した。

 「……なんですか、これ?」

 「見ての通りだ」

 オールライトさんが示した紙に記された内容は、いわゆるコンサートの宣伝であった。

 ……革命の歌姫、モコ。というふうに書いてある。

 「あの、これが何か?」

 「お前らとの取引。最後の命令は、この人物を護衛することだ」

 「……護衛?」

 護衛とは、そう来たか。

 「この、革命の歌姫? って人を護衛しろってことですか?」

 「そうだ。この人は――」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいっス!」

 叫ぶように、オールライトさんの言葉を遮るように割って入る縛られたアキテルという男。

 「革命の歌姫ってモコたんのことですか!? だっ、ダメですよ准将! 気持ちはわかりますが、モコたんは――」

 「んなこたァわかってんだよ。だから俺じゃなくてコイツらに頼んでんだろうが」

 でも……と、苦しい表情で訴えかけるアキテルを無視して、オールライトさんは説明を続ける。

 「この人は本来、革命の歌姫ってんで、革命軍(レジスタンス)共の象徴とも言える超重要人物だ。彼女が開催する提唱会はある種のライブでな。彼女は全世界に歌声で革命を訴えているんだ」

 ……なにやら、聞きなれない単語がたくさん出てきた気がするんだが。

 「あの、レジスタンスって?」

 その質問に、またもや縛られたままアキテルが答える。

 「革命軍、レジスタンスっスよ。現在の連合国軍の管理・自治体制に不平不満がある連中が、暴力や武力で革命運動をしている連中っス。とんでもないヤツらっスよ」

 革命軍、か。確かに、この世界を支配するとされる連合国軍の、自治区外はまるで無法地帯のような、あんな管理体制は如何なものかと思うし、それを良しとしないがため、僕はフェルトにこの世界の救世主になって欲しいと頼まれている。……実際、革命軍という連中が存在するのは初めて知ったし、少し意外だったけれど、それでも不思議に思うことは消してなかった。

 「でも、二人は軍の人間だ。なのにどうして、あなた達は僕らにそんなことを頼むんですか?」

 考えてればおかしな話だ。歌姫……革命軍とは、連合国軍の管理体制に不満を持ち、それを良しとしないがために武力をもって叛逆する連中のこと。そんな犯罪者を、僕達のそれとは異なる取引をしてまで護衛しろだなんて、とても軍の人間の発言とは思えなかった。

 「違うな。リョウ、俺は別に革命軍を護れなんて言ってねえぞ」

 「……? それじゃあ、誰を護衛しろと?」

 「革命の歌姫は。そう呼ばれているだけで、別にレジスタンスのメンバーってわけじゃないんスよ」

 アキテルの注釈に、うんうんと納得するように頷いて、オールライトさんが説明を続ける。

 「革命の歌姫は、革命軍の象徴たる人物だ。だがしかし、一方で彼女は革命軍の暴力を伴う革命活動を許していないんだよ。数年前までは過激だったレジスタンスが、近年はそう大きな事件を起こしてはいない。それは間違いなく、彼女の存在が大きい。彼女が象徴として、革命の歌姫と呼ばれ始めたのもその頃だ。彼女は正真正銘、献身と話し合い、そして"歌"による平和的な活動のみで、連合国に訴えかけているんだよ」

 「へえ。なんか、よくわかんねーけど、すごい人なんだな。そのモコって女の人」

 感心していたセングゥのそれに、食いつくように反応する縛られたままのアキテル。

 「それだけじゃないっスよ! 彼女の歌声は人を惹きつけるんス。使力が関わってると思うんスけど、彼女には世界中にファンがいるんスよ! かく言う自分も例外じゃないっス!」

 なるほど。彼女に人気があるのも、革命軍の象徴としていられるのも、それなりの理由で説明がつくし理解できるけど、やっぱり腑に落ちない点はある。

 「でも、レジスタンスの協力者……もとい指導者的立ち位置に変わりはないんですよね? 護衛って……それ、彼女を狙ってるのは連合国軍ですよね?」

 「……そうだな」

 しぶしぶ、と言った感じに、オールライトさんは肯定した。

 「そうね。軍が狙ってる重要人物を、仮にも軍の将校であるあなたが護衛しろだなんて、おかしな話しね」

 僕が感じていた疑念を、ノアちゃんが代わりに問うてくれた。

 「……はあ」

 腕を組んで、ついで仁王立ちしたまま深いため息をこぼして、後に大きく息を吸ってから、堂々とした視線で僕達を睥睨する。

 「正直に、かつ端的に……お前達に護衛を頼んだ理由を言おう」

 ゴクリ、とその場の全員が唾を飲んだ。その数秒後、その大きな口を開いて真実を語る。

 「俺は、彼女のファンなんだ」

今回から毎週土曜定期更新とさせて頂きます。

定期更新に伴い、一話一話の文章量が減るとともに全体的な話数が増加しますが、ご了承ください。これからも本作をよろしくお願いします。

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