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RAW〈~転移した先の異世界はSNSのTLだった~〉  作者: 佐々木ヒロ
《圏外区》編 (放浪第一部)
15/29

ep,13 放火魔の孤独3

 

 /


 RAW連合国軍自治区 フタ=ナリ(奇王領域)

 フタ=ナリの街は早朝からちょっとした喧騒に包まれていた。

 「ペスト大佐が帰還したらしいな」

 紅蓮の疫病ペスト。アリシアの一件以来姿を消していた、もとい、消息不明だった国軍大佐が、先日深夜ようやく領域へと帰還したとの事。そのことで、街ではあらゆる噂話や作り話が流れていた。


 「大佐ってあれだよな? こないだ圏外区のはずれの田舎町で殺人鬼にやられたって云う……」

 「いや、その言い回しだと殺された――みたいに聞こえるんだが」

 「そうじゃなくて、ほら、なんか少将が言ってただろ。御使いにやられた云々……」

 「あー聞いた覚えが……でもあれだろ? 御使いって、もう何百年も前に王様が滅ぼしたんじゃ……」

 「残党はいくらか残ってるって話だけどな……特に、数百年前の殲滅作戦以前に姿を消していた連中。覇王K.K、悪夢(ナイトメア)のプロトコル辺りは、今でもどこかで生き残っているはずだろうって中将閣下は言ってた」


 兵士たちの何気ない談話の最中、唐突に、快活な呼び声がかかる。

 「おーい君達、ちょっといいかなー?」

 「あーい、なんでしょ……げェ!?」

 振り返った先、男の目の前に立っていたのは予想外の男。

 否、予想など出来ようはずもない。立っていたのは通常居る筈のない男。

 奇王領域では御法度とされる、狩王直属兵士。

 その中でも最上級、中将閣下。黒を基調とした、彼を象徴する特異な服装。“和”と呼ばれる特殊な装い。

 黒騎士、ユート。


 「ああ、俺の事は気にしないで。狩王陛下の遣いで、奇王に御会いするだけだから。ほら、俺と彼は少なからずお友達だからね」

 「そ、そうでしたか」

 「うん。ところでさ、彼女、今いない?」

 キョロキョロと忙しなく周囲を見る黒騎士。みかねて、どうしたものかと声をかける。

 「彼女……といいますと?」

 「えーと、彼女。白い方の護衛騎士」

 「ああ」

 思い至ったように帳簿を確認する。

 「白騎士様は――ああ、ただいまゴルデン、狩王領域まで向かわれているようです。入れ違いだったようですね」

 「ああ、よかった」言って、心底安心したかのように息をつく。「彼女、特に意味もなく俺のコト刺してくるから」

 はっはっは、と快活に笑う。

 「いくら不死身の肉体(、、、、、、)とはいえ、痛いモノは痛い。出来れば、やめてもらいたんだけどね。――君たちも、あんまりサボりすぎてると、彼女に刺されちゃうよ」

 「あはは、は……」

 ニコリと微笑み軽い冗談を吐き、踵を反し去る。

 「機会があったらまた会おう、それじゃあ」


   ◇


 フタ=ナリは王国であるが城はない。それは君主たる奇王に作る気がないから。

 奇王は特殊な王であり、王であるにもよらず飾り気や気品など一切気にかいさない。

 城の代わりと言っては別の話になるが、フタ=ナリには巨大なラボが存在する。それは奇王という人間自身の趣味によるところが大きい。彼は研究を好み、研究を愛する。科学の奴隷だ。事実、この世界のタブレット端末、またリアルアカウント・システムを確立したのは彼を筆頭とする研究集団だった。その名残りがこのラボ、サクラミだ。

 サクラミのラボは結構な規模の施設となっている。そのため、他の領域同様の城としての機能も果たしており、彼直属の兵士はここを駐屯所としている。彼らもまたそう。

 「君、まぁたやられたん?(」

 「めんぼくねっす」

 はぁ、と嘆息する金髪の少年……いや少女? 軍服にホットパンツという異様な装いの子供。年は大凡十代前半といったところか、キャンディを咥え、正面の席に座る男に視線を送る。

 「なあペストくん。そないにその、御使いは強敵やったん? ワイなんかもう、興奮して夜しか眠れへんて」

 「夜はしっかり寝てるんすね。てか、俺の心配は」

 「きみは頑丈やさかい。死なへん死なへん」

 ニシシと微笑む屈託のない笑顔は実に愛らしい。が、正面の男、ペストはこの子供の恐ろしさを身に染みて知っている。笑える状況などでは無かった。

 ――なにが死なない、だ。お前こそ、本当に死なない(、、、、、、、)くせに。


 「まぁ、ええわ。ヒナ様の預言、きみ宛に来てるで(」

 「え」一瞬、何を言ってるのかよく理解出来なかったが、言葉の通りの意味なら、そういう事だろう。「俺宛てって……なんでまた、俺に?」

 「そりゃあ、君に役目があるからやろ」

 はぁ、と相槌を入れ、差し出された書類を手に取る。

 ヒナ様。建国以前から預言師として王を筆頭とした彼らに幾多の預言を授けた人。建国してからはこの国のためにのみ未来を読み、詠んでいるという。

 「あの人もまた、コイツと一緒なんだよな……」

 「なんか言うた?(」

 「なんも言ってねっす。独り言」

 クソ、アイツの真似みたいになっちまった。


 書類に目を通す。

 『コウポホルンのアエーシュマ 亡 の白い 使、と、 命。紅蓮の疫病が討伐……』

 「……なんすか、この空きだらけの文。舐めてます?」

 「知らんて。ワイの身体ならいくらでも舐めてええで(」

 舐めるか、ばか。

 「ワイの推測やけどな。ここ、ほら、白い天使……とかそんな感じに見えるわ。紅蓮の疫病てきみやん? 討伐する未来が見えたってことやろ。預言した後すぐ眠ったみたいやから、睡魔で筆が乱れたんやろ(」

 「うーむ……」

 色々つっこみたい所や気になるとこもあるんだが……

 「まぁ、行ってきますよ」

 さて、アエーシュマか……遠いな。


 


 3/


 「……――あ」

 目を覚ますと眼前には知らない天井が広がっていた。

 天井。天井を、見ている。

 つまり、僕は今仰向けで寝ている状態なんだ。

 だけど、何故仰向けで寝ているのだろう。経緯、その記憶があまり鮮明でなかった。


 「……なにはともあれ、起きる」

 起き上がろうと、身体に力を入れ上半身を起こす――つもりが、

 「わ」

 腕に力が入らず、滑って地面に転がり落ちてしまった。

 ゴロゴロガシャン、と物凄い音を立てる。少し頭を打ったか、頭部がジンジンする。

 倒れた物を治そうと、視線を泳がす。すると――

 「――なに、これ」

 点滴。それも、ものすごい量の管をもった。

 当然、管が繋がれているのは僕。

 何がどうなっているんだ。


 「リョウ!?」

 背後、つまり入口の方から、聞き知った声が聞こえた。

 「なにやってんの、早く横になって」

 地面に倒れ伏す僕に肩を貸し、ベッドまで誘導するルサ。その表情は、非常に切羽詰まった様子に思えた。

 「ルサ……」仰向けになっていると力が入りづらく、掠れるような弱い声音でルサを呼ぶ。「なんなんだ、これ。一体、何があったんだ……?」

 「覚えてないの!?」

 恥かしながら、微塵も覚えていない。前後何があったのか、まるで記憶にない状態だ。


 「アンタ、放火魔と遭遇したのよ」淡々と語るように、傍の椅子に腰かけて続ける。「放火魔の男の子。その子の共犯者の男、プロトコルっていうヤツにやられたの。駆け付けたフェルトの話だから、多分間違いないと思う。それで、身体を半分に折られたアンタを――」

 「ちょっと待って」

 今、聞き捨てならない言い回しがあった気がしてならないんだけど。

 「身体を半分に折られたって……どういうこと?」

 「文字通りよ。フェルトに運ばれて帰ってきたアンタの身体は、上半と下半を境に折り曲げられてたのよ。後頭部と爪先がくっつくくらい、それこそ、折紙のようにくっきり」

 「……」

 唖然とした、その一言に尽きる。そんな状態、我肉体ながら――いや、我肉体なればこそ、想像出来ないししたくない。


 「それで、身体を半分に折られたアンタをノアちゃんの使力(アーク)で治療して、今に至るって話」

 ノアちゃんの使力(アーク)で治療……あの子の能力は回復系のモノだったのか。

 「だから、アンタは後でちゃんと、助けてくれたフェルトとノアちゃんに感謝しときなさい」

 「……わかってる」

 助けて貰った……治してもらった……いかんせん実感が湧かないが、この動かない身体が何よりの証拠と言えよう。

 「後で、ノアちゃんに礼しとかないとな」

 「ちゃん付けしないでちょうだいって……」ベッドから寝転んだ状態でうかがえる入口、非情に不機嫌な面持ちの、ノアちゃんが立っていた。「言わなかったかしら?」


 言って、無言のままベッドの前まで歩みより、ルサに「どいて」と告げ、ルサの座っていた子椅子に腰かける。

 「気分はどう?」

 「いや、普通です……」

 「そう」

 呟いて、右手を伸ばし僕の腰元に手を触れる。

 「――まあ、良好ね」

 「はぁ」

 再び右手で、今度は額に触れる。

 「――こっちはダメね。ショックで記憶が欠損してる」

 言って、触れていた右手を降ろす。

 「記憶が欠損してるって、やっぱり、忘れちゃってるってだよね?」

 「まぁ、そういうコトになるわね。この子の場合、一時的かつ都合のいいように、本当に昨晩の一部だけが無くなってるようね」

 記憶の欠損。忘れてしまっている。――それはつまり、彼女らの言う昨日の、事件の話。僕が追っていた放火魔、その共犯者たる男にやられた事実。それら一連の流れ。

 たしかに僕は、僕を半殺しにした男の顔すら覚えていないのだ。それは、とてもじゃないが理にかなわない。

 「でも……」呟いて、今度は左手を挙げる。「この程度の欠損なら、すぐに戻る(、、)

 左手で、ぼくの額に触れるノアちゃん。瞬間、青白い光と共に、目の前が真白に染まった。



---------------------------------------------------------------------------------



 僕たちはアエーシュマの街を抜けるためにノッブさんとノアちゃんの協力を仰ぐことにしたが、結果は失敗。軍の連中に捕まり、連合国軍准将の男オールライトの提案で、彼の依頼に協力すればこの街を無事に脱出させるという内容であった。

 僕たちはそれを受け入れ、彼の依頼たる放火魔の犯行を止めるために、放火魔の犯行予測地点にそれぞれ分かれて配置していた。現れたのが、青髪の少年、放火魔イッザ。そして――

 『暴力なンてらめええええええええええええええええええっ!!』

 その共犯者、謎のローブ男プロトコル。その手によって、僕は瀕死の状態に追い込まれた。

 「お楽しみだね、プロトコル」

 そこに駆け付けたのがフェルトであるという。



---------------------------------------------------------------------------------




 「……」

 「……思い出したようね」

 ノアちゃんの言葉に、頷きだけで肯定する。――正直、思い出した内容が、あまりにも鮮明で強烈過ぎて、吐き気をこらえるので精一杯だった。

 「……フェルトを呼んでもらえるかな」

 「フェルト?」

 どうして、そんな表情で聞き返すルサ。が、ノアちゃんの方が二つ返事で頷いてくれた。

 「ノブナガも呼ぶわ。――悪いんだけど、ルサは席を外して貰えるかしら」


   ◇


 しばらくしてから、呼ぶよう指示した人間が全て集まった。

 フェルト、ノブナガさん。そして、ノアちゃんと僕。部屋の中には僕たちしかいない筈――だったのだが、

 「なんでアンタがいるのよ」

 何故か、木箱を手にしたオールライトさんまで立っていた。

 「坊主の見舞いだ。ホレ、果物」言って、ベッドの隣の机にそれを置く。「ただの見舞いのつもりだったんだが、どうにもお前ら、面白そうな会議を始めるみたいでな。気になったもんで立ち入らせてもらうぜ」

 はぁ、と深い不快なため息をつくノアちゃん。「まぁいいわ」と呟いて、フェルトに視線を向ける。

 

 「――それで、この子をやった犯人、本当にアイツだったのよね、フェルト?」

 「ああ」静かに頷いて、一拍置いてから口を開く。「間違いない。プロトコル、彼そのものだ」

 フェルトの言葉に、場の一同様々な反応を見せる。

 「プロトコル……悪夢(ナイトメア)か!?」驚愕、オールライトさん。「お前、そりゃあ国家一級の指名手配犯だぜ。しかも、ヤツは――」

 「そんなことより」焦り、ノブナガさん。「ヤツは死んだんじゃなかったのか!? フェルト、お前もよく知ってるだろ、彼女との決闘でヤツは――」

 「最悪なのは」怒り、ノアちゃん。「あの人でなしが全盛期通りに力を振るえるかどうか。ノブナガも言った通り、前提としてアイツは死――」

 「ちょっと」困惑、僕。「順序だてて、説明してもらえないでしょうか」


 僕の制止に一同冷静になったようで、バラバラだった会話も、ようやく消えた。

 「すまなかったね。――そう、第一に君が理解しなければならなかった」

 言って、フェルトはオールライトさんを見やる。

 「ここ最近――というより、犯罪者としての彼のことなら、鬼ごっこでいう鬼に当たる軍の人間の方がよく知っているはずだ」

 「俺を顎で遣うかよ」言って、ため息まじりに仕方なくといった様子で、口を開くオールライトさん。「プロトコル。悪夢(ナイトメア)と呼ばれる、国家第一級クラスの指名手配犯だ。国家設立以前から人殺し、窃盗といった姑息且つ非人道的な犯罪を続けていた組織を率いた幹部で、未だに微塵程の手がかりすら掴めていなかった野郎さ。――まさかそんな大物が出てくるとは思わなかったぜ」

 「……?」

 プロトコル。あの強さは本物だったし、オールライトさんは嘘をついている様子でもない。だけど、今の話には少しだけ、気になる部分があった。どこかはハッキリとしないが、どこか。

 「なるほどなあ。確かに、野郎はRAWのシステム端末をもっちゃいねえし、それこそRAWにヤツのリアルアカウントは登録されていねえ。それで反応が謎だったわけだ。――まぁ、負けたことは気にするな坊主。相手が悪すぎた、それだけだ」

 「そうだね。彼の使力(アーク)は少し特殊で、一対一であれば(、、、、、、、)確実に勝てる(、、、、、、)能力を有しているからね。これは、状況と相性が悪かったと言わざるを得ないだろうね」

 「……うん」

 そんなこと言われても、到底納得は出来ないだろう。何より僕は、あの戦いで――


 「――どうして、僕の再生力は機能しなかったんだろう」

 あの戦いで、僕の再生能力は披露されなかった。これっぽっちも、それこそ、片鱗すらみせることなく。

 「僕の身体、あの時全く治らなかった……どういうことなんだ?」

 その要因を、

 「――それは」

 偽りなく、真実のあるがままに、言う。

 「ヤツが、お前と同じ御使い(、、、)だからだ、坊主」

 

 「―――――――は?」

 それは、

 「いや、そんなの」

 そんなの、理由になっていない。

 「だって、御使いって、え……そんなこと」

 御使いが、二人――?

 アイツが、プロトコルが僕と同じ御使い――??

 「――そう言えば、詳しくは伝えていなかったからね」言って、穏やかな眼差しで、フェルトは口を開いた。「御使いというもの(、、、、、、、、)について、君には知ってもらうとしよう」


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