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〜〜???〜〜
(……あれ? 起きた……?)
目は開いている。
だが、何も見えない。
闇だ。
自分の手すら見えないほどの、完全な闇。
(……おかしいな)
反射的に胸元を探る。
何もない。
次に左腕。
いつもなら、そこにあるはずの光が、ない。
(……は?)
違和感が、背中を撫でた。
(ん、ない? ……はっ!? ないって何だよ!)
弄ろうとして腕を伸ばした、その瞬間に違和感が走る。
腕時計ではない。光でもない。まして希望でもない。
身体が無いのだ。
腕を触ろうにも、そこにあるはずの箇所に腕は無く、夢かと思い頬を抓ようにも頬はない。驚きの声を上げようにも、喉がない。
在るはずの身体は消え、ただ俺は意識だけの存在となっていた。
(……死んだ?)
真っ先に思い浮かんだのはそれだ。何しろ心当たりがありすぎる。
装甲車を出たとこで出逢ったゴブリン。
ルチアを襲う三人組の男。
夜襲をかけてきたゴブリン。
ルチアの折檻。
そしてホブゴブリンとの決戦。
そもそも、考えてみれば野営地にあの飛翔体が落ちてきた時点で俺は死んでいるはずだ。
ここまでの体験は単なる白昼夢の可能性すらも有るのだ。
(ヤッベェ、どうなるんだろな? 俺は……)
漠然とした不安に呑み込まれ、俺はただただ呆然としていた。
「……タイ」
(は?)
声が聞こえた。
か細く、弱々しく、だが、確かにハッキリと聞こえる。
少女にも、少年のようにも聞こえる。中性的な声だった。
「……アイタイ」
いつの間にか、俺の前に一人の子供がいた。顔は髪の毛で完全に隠れており、まだ幼い見た目のせいか性別の区別がつかない。
子供はゆったりとした足取りで目の前まで来るとボソボソと何か語りかけてくる。
「『私ハ』」
(は?)
目の前にいるのは一人の筈なのに、声が二つ聞こえてくる。月のように静かで美しい、だが、男と分かる少年の声と、太陽のように活発さと明朗な少女のような声だ。
『「僕ハ」』
突然、目の前の子供は乱暴に自身の髪を掻き毟り、乱れた髪を逆撫でに上げる。
俺の目に飛び込んできたのは絶世の美少女、いや美少年。そのどちらにも捉えられる中性的な顔立ちの子供だった。
「私ハ」『僕ハ』
「『アナタニ、アイタイ』」
揃った声は、外見から想像できないほど大きい。
驚く俺をよそに、子供は取り乱すように髪を振り回し、両手で何度も掻き毟った。
「『触イタイ』」『「裂イタイ」』
「『聴イタイ』」『「壊イタイ」』
「『見イタイ』」『「塞イタイ」』
「『嗅イタイ』」『「腐イタイ」』
「『味イタイ』」『「吐イタイ」』
(ひゅい!?)
先程までの心地良い声とはうって変わり、金切り声の悲鳴の様な、あまりにも不快な声に俺は耳を塞ごうとした。
だが、押さえるための手はなく、さらに言えば耳もなかった。目の前の子供の声は俺の身体の中に直接響いていたのだ。
(何だよ! どうするつもりだ!?)
混乱する俺は心の声を子供に向けて叫ぶ。すると途端に子供は静かになり、甘える少年の様な目を向けてくる。
右目は夜の闇を思わせる漆黒色。左目は煌めく星の様な黄金色。
子供は右手を俺に向け口元を怪しげに歪ませる。
子供は左手を俺に向け口元を楽しげに綻ばせる。
『僕ハ、アナタヲ生シタイ』
「私ハ、アナタヲ殺シタイ」
血の気が全く感じない白い手が俺の頬に触れる。
背筋が凍るかと思えるほどに、それはゾッとするほど冷たくて俺の魂の体温を急速に奪っていく。
「私ヲ」『僕ヲ』
子供は一人しかいない。にも関わらず何故か声は二重に聞こえてくる。
「愛シテ」『蔑シテ』
「好シテ」『嫌シテ』
「守シテ」『攻シテ』
「救シテ」『棄シテ』
「赦シテ」『裁シテ』
「食シテ」『吐シテ』
「傍シテ」『離シテ』
「与シテ」『奪シテ』
「創シテ」『壊シテ』
「生シテ」『殺シテ』
(ぉわぁぁぁぁぁぁ!?)
魂を直接掻き乱す言葉の洪水に、嫌悪と不安が一気に溢れ出す。掴んでいる手を振り払おうとジタバタと暴れてみるが、手も足もない俺の身体ではその行為は何の意味も持たなかった。
子供は笑みを浮かべて、さらに近付いてくる。
互いの息が掛かるほどまで接近し、子供は俺の首を絞める手をさらに強める。万力のような力が俺の首に掛かるが、それでも意識を失えない。ただ心を潰されていく感覚だけが理解できる。
『アナタハ……僕ノタメニ』「アナタハ……私ノタメニ」
「『死ンデクダサイ』」
常人ならば、既に首がへし折れてもおかしく無い力で俺は首を締め付けられている。千切れんばかりの力なのだが、不思議と痛みはなく、ただ、締められている感覚だけが残っていた。
(死……ぬ……ッッ!)
最後に見えたのは、電子の歌姫に酷似したその姿だった。
闇が、すべてを塗り潰す。
―――――
「おぅわぁぁぁぁあ!?」
絶叫とともに、俺は目覚めた。慌てて自分の首を触る。そこには確かに首があり、触るための手もあった。顔を触り、身体を触り何度も頬を叩いて痛覚があるのを確認する。
「夢……か? ……嫌な夢だ……」
全身が自身の冷や汗でビッチョリ濡れている。まるでお漏らしでもしたかの様に上から下まで全て濡れている。男の象徴の所を触り自分が漏らしてない事を確認すると俺は安堵のため息を盛大に吐いた。
「……ハァ〜、怖すぎだろ」
俺のため息は壁に反響して跳ね返り、俺の耳に返ってくる。そこで俺は改めて自分が置かれている状況を思い出す。
「まぁ、こんな所にいたらこんな夢も見るよな?」
冷たい石の床、それは上下左右を囲い狭い空間を作っていた。暗くジメジメした空気に俺はまたもやため息を吐く。
「どうして、俺は牢屋なんかに入れられているんだろうな?」
日本一。二十五歳。
俺は人生で初めて牢屋に収監されていた。
理由を誰に聞こうにも近くに人はおらず、ルチアも、西野と名乗った髭面の騎士も近くにはいない。
俺は額の汗を拭うと、他に特にやる事もないので、もう一度地面に敷かれたゴザの上で横になる。そして先ほどまでの悪夢も忘れて、二度寝をし始める。
グロリヤス王国。そう呼ばれる国。その地下牢。
俺の首に、まだ冷たい指の感触が残っていた。




