表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Assault 89〜異世界自衛官幻想奇譚〜  作者: 木天蓼
七章 異世界自衛官サバイバル
182/192

shout together

 画集だったか、それとも幼少期に行った美術館か、はたまた読んでいた漫画だったのかはもはや覚えてない。ともかく幼き頃の記憶であることは間違いない。空想上の化け物、悪魔と呼ばれるモノの印象は耳が裂け、醜悪な面構え、頭を突き破るのでは無いかと思えるほど長い角。羽とか牙とか色々考えつくが、とにかく畏怖を与える存在であることは間違いない。


「ワハテ? イムー、エアティンガ、ンオワ」


 鼻の無いエルフがこちらを一瞥したが、意に介さず食事を続ける。


「ヨォウ、ンオスエ、イス、ウンウスウアル、イスンテ、イテ? ペィガ、ンオスエ、ペィガ、ンオスエ!」


「スハウテ、ウペ、ベエ、クウイエテ!」


 口が耳まで避けたエルフが声を掛けてもぶっきらぼうに返し、咀嚼を続ける。


「デオンテ、ルオォカ、アテ、ムーエ! イムー、ガオインガ、テオ、イアテ、テエムーエス、デイシカ、テオオ」


「ガオォデ! ルエテス、スハアロエ、アンデ、イアテ!」


「イアテ、シハエロロヨ」


「シハエロロヨ! ベアデ、スムーエロロ!」


「「ギャハハハハハッ!」」


 大笑いする二人のエルフ。声だけ聞けば楽しそうに会話をしてる女子二人なのだが、身体を捩らせたり自分の胸やデリケートゾーンを指差すのは嗜虐的な空気を匂わせる。

 二人とも、他のエルフと比べてもかなりスタイルが良い。鼻の無い方は胸が大きいし、口が裂けた方は腰のくびれが芸術的だ。しかし、そんな美しさも猟奇的にも見える食事の絵面によって一切魅力に感じない。


「セオ、ワハオ、アロエ、ヨォウ?」


 彼女らの言葉がグロリヤ語で正しければ、今のは誰だと聞かれたはずだ。鼻の無いエルフが山羊の頭の中身を木のスプーンで擦り内容物を食べている。


 あからさまに危なそうな奴らに自己紹介するのは気が引けるが、敵意を向けられてない以上は無視して感情を刺激するのも好ましく無い。ここは大人しく名前を名乗るとしよう。


「えっと、俺の名前はヒノ……ウォウッ!?」


 言葉の途中で俺の顔に向けて何かが飛んでくる。咄嗟に避けて飛翔物を見ると、歯形がついた小さな骨が転がっていた。前を見ると口が裂けたエルフが舌打ちをして悔しがっていた。


「フハハハハっ! シルゥムースヨ、ハイテ、イテ!」


「スハウテ、ウペ、ベエ、クウイエテ! ヨォウ、ガイヴェエ、イテ、ア、テロヨ!」


 裂けた口で鼻の無い巨乳エルフに悪態を吐くと噛んでいた肉から骨を引き剥がし渡す。


「オカー、ルオォカ、ムーエ、オラッ!」


 投げる動作に向かない座った姿勢からとは思えない速度で骨片が俺の頬を掠める。ツーっと垂れた赤い筋を拭うことしか俺にはできなかった。


「ムーイスス!」


「シルゥムースヨ!」


「キャハハハッ!」


 訂正しよう、敵意がないということを。いや、訂正しなくても良かった。コイツらは敵意や殺意は無いが、ただ自分達が楽しむことしか考えていない。敵を目の前にしても自分達の愉悦に浸ることしか考えてないのだ。この行為の根拠は自分達二人が俺より遥かに強い自負があるが所以だろう。現に、俺が槍を強く握り締めても食卓の肉に夢中で貪り付いている。


「なんなんだ、コイツらは一体?」


 ダークエルフのサウスと相対したよりもプレッシャーを感じる。彼女は強くて残酷で容赦は無いが、話せば分かるタイプと言えよう。魔法都市で自らの手で胸を刺し貫いたフーバーですら、ラルクとの対話で殺さずに見逃していることからも分かる。龍との戦いでもなんだかんだ俺を助けてくれた。言葉が通じずとも。

 だがしかし、この二人はたとえ言葉が通じたとしても分かり合える気がしない。なんというか、頭のネジが何本も抜けて無くなってるような。そもそも無さそうな感じだ。


「ヒオオト?」


 背後からダカの声が聞こえる。振り返ると蜘蛛の手足が見え、次いで片目側が潰れた顔も見える。


「オッ?」

「ン?」


 ダカの姿を認識したエルフ二人は明らかに雰囲気が変わる。食事を止め、俺が敵意を向けても立ちあがろうとすらしなかったのに、今はそれぞれが斧と棍棒を手にしている。


「リアナ、シルヴィラ……ッ!」


 二人を見たダカは名前のような言葉をこぼす。今のがこの二人の名前なのだろうか。というよりも知り合いなのか。


「フゥッシケ! ヨォウ、シアルル、ムーエ、シルヴィラ。ワエ、アロエ、ハナナシ、クチサケ。ロエシエイヴェエ、フロオムー、テハエ、ベオスス!」


「デオ、ヨォウ、ウンデェロステアンデ? ダカ? ダァァカァァ?」


 憤る鼻の無いエルフ。今二人はハナナシとクチサケと言ったがこれも名前なのだろうか。随分と日本語的な発音だ。だが丁度よい。今怒ってる巨乳の鼻無しをハナナシと呼び、挑発的な口調のくびれ腰エルフは口が裂けてるからクチサケと呼ぼう。


「スオ、イテ、ワアス、ヨォウ。イ、シアン、ウンデェステアンデ、ワハヨ、テハエ、ヨォウンガ、オンエス、ワォウルデ、ガェテ、テアケェン、デオワン」


 ダカは収めていた剣を素早く抜くと油断なく構える。


「 ヨォウ、ケィルル、スオルディエロス? テハァテス、テエロロイベルエ……」


「イ、アテェ、スオムーエ、オフ、ヨォウ、ヨォウンガ、オンエス!」


 クチサケがゲラゲラと笑いながら、小さな骨付き肉を食べる。恐らく元は子供のオークだったのだろう。少ない肉は裂けた口で丸ごとペロリと食べられてしまった。


「ヨォウッ! ケィルル、ヨォウッ!」


 ダカの手に力が入る。みしっという剣の柄が折れるのではないかと心配になる程、力が入る。


「ハジメ、ダガ?」


 戻りが遅かったからか、それとも今の声で心配になったのか、ゲルダが心細そうな声で俺達を呼び、木の陰から出てくる。


「オ!? ンエワ、オロシ」


「ヨェス、イ、ハアヴェエ。ハナナシ? ハアスンテ、テハアテヨォウ、オロシ、スエエン、スオムーエテハインガ?」


 姿を見せたのに対して一瞥し、ハナナシは興味無さそうだった。しかし、クチサケの方がゲルダをまじまじと見つめると何かに気付いたようにハッとする。


「イテス、バロン! テハテス、オロシ、ルオォカス、ルィケェ、バロン! ハナナシ!」


「バロン!? テハイス、フゥン! スオ、ワエ、ガエテ、テオ、アヴェンガエ、アンドリューッ!!」


 二人の顔が一気に殺気立つ。俺やダカと相対した時とら明らかに違う。怨嗟や憤怒の感情がひしひしと伝わってくる。


「イ、ムー、ハァペペヨ!! ルェテス、デオ、イテ、ハナナシ! イ、ムー、ガオインガ、テオ、ガェテ、ルィデ、オフ、テハイス、ワオウンデェデ、グロウデガエ!」


「オカー、クチサケ。ケイルル、ヨォウ!」


 二人は指で自分の顔の大きな傷を触ると、ワナワナと震え腕の筋肉が激しく隆起する。


「オカー、オカー! ケイルル、ケイルル! スハオウテ、テオガエテハエロ!!」


 大きく裂けた口に見合った大声で甲高い声を叫ぶ。オオカミの遠吠えに似たソレは、文字通り全く同じような声を四周の森中から木霊させる。


 周りから無数の足音が聞こえ、同時に金属が擦れる音が響いてくる。まるで津波のように迫る音圧と地震かと錯覚する足音に俺は思わず怯んで体勢を崩してしまう。


「っととっ?!」


 よろけた身体を咄嗟に誰かの腕が背後から支えてくれた。


「サンキュー! ……ん?」


 ダカは俺の右斜め前にいる。ゲルダもダカに寄り添うように移動している。俺の仲間はみんな視界に入り、両の腕もその位置だ。となれば、今、俺の身体を後ろから支えてくれている腕は誰なのだろうか。考える前に背筋がゾッとする。

 周りを見ると、足音と声の主達が姿を表す。先ほど倒したエルフ達と良く似た背格好と武装の兵士達だ。全員クチサケとハナナシの二人のエルフの声に合わせて叫んでいる。


 [騒がしいね。そう思わないか?君も?テハテス、ア、ロォテ、オフ、ンオイスエ。デオンテ、ヨォウ、テハインケ?」


 背中から声を掛けられる。女性の声なのだが、歴戦の猛者の声のように低く肉厚に感じる。


「ハローハロー、ヨォウ、エンエムーア?」


 俺を支えてる女性とは別の声が聞こえてきた。二人だ。俺の後ろには見知らぬ誰かが二人いる。高く綺麗な声は丁寧な声で俺に声を掛けてくる。


 俺は意を決して振り返る。


「ヴァッ!? ダークエルフ!」


 そこにいたのは浅黒い肌に銀の短髪の女性。サウスと同じような強者の雰囲気を持つダークエルフがおり、そしてもう一人は青っ白い肌をした美女が日傘を差して立っていた。


「お前ら何もんだっ!」


 手を振りほどき、仲間達のいる方向へ飛び退く。手がゲルダの身体に触れたとき、小刻みに震えているのが分かった。


 周りを見れば数十人の武装したエルフ達に囲まれており、頭のネジが外れてそうなのが二人、明らかに強そうなのが一人、よく分からない美人が一人の状況だ。こちらは僅か三人、圧倒的に不利な状況だ。不安に震えるのも理解できる。


 俺はゲルダの手を強く握りしめる。戸惑うゲルダに向けてゆっくりと穏やかな声で語り掛ける。


「安心しろ。俺は味方だ。なぁに、昔タケさんとチンピラに囲まれたのを一緒に返り討ちにしたことがあるんだ。ほとんどあの人が倒したけど」


 完全に囲まれていた状況を潜り抜けられたその記憶は、脚色されてなければ俺も活躍したはず。ならば多勢に無勢といえど一矢、二矢、三矢ぐらい報いてやる。

 互いに睨み合う時間が続き、クチサケとハナナシ両名による叫び声も止まって沈黙のまま視線が交差し合い、一触即発の雰囲気が周囲に漂っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木天蓼です。 最新話の下方にある各種の感想や評価の項目から読者の声を聞かせていただきますとモチベーションが上がるので是非ともご利用ください。 木天蓼でした。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ