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Assault 89〜異世界自衛官幻想奇譚〜  作者: 木天蓼
五章 魔法使いは幻想と共に
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刀と剣

 まずは様子見。俺は素早く引金を引き二発の弾丸を相手の足元に撃ち込む。赤い軌跡を残す弾丸は地面に当たり火花を散らす。


「ワハテ、イズ、ワェアぺオン? シロォススべォワ?」


 銃口の向きから銀髪の女性は当たらないと判断したのか、避けようともせずスタスタと歩いて向かってくる。


 続けて二発。ダブルタップでの射撃を行う。今度は上半身部分、出来るだけ至近の距離を狙う。

 しかし、相手はまたもや避けようともせず、顔の近くを通った銃弾に驚きもせず歩いてくる。


「ンオ、ンオテ。ガゥン。ヨォウ、テハァテ、ガゥンッ!」


 ナニカを確信したのか嬉しそうな声を上げる。片手で髪を前から乱暴にたくし上げる。はらりはらりと揺れる髪の隙間から女性の褐色の皮膚がよく見える。そこには先の尖った耳も見えた。


「こいつ……とんがり耳、エルフか!?」


 肌の色こそ違うが、あの耳はエルフの自称天才美少女ラルクのモノと同じであった。


「魔法があるぞ! 気を付けろ!」


 エルフと言えば魔法だ。先のオグマとの戦闘でエルフの魔法の凄まじさを目にしていた俺は警戒し仲間に注意を喚起する。


「ア、ア、ア、……イ、デオ、ンオテ、ウスェ、ムーァガィシ。テハァテス、ベォロインガ」


 銀髪のエルフは木刀をくるりくるりと回してわざとらしく地面に擦って音を立て挑発してくる。その様子を見てルチアがボソッと声を零す。


「魔法を使ったらつまらないって言われても……ねぇ、ハジメ?」


 同意を求めるようなルチアの声に俺は少し考え込んでしまう。理由は一つだ。


「……ルチア? アイツの言葉分かるのか?」


 キョトンとしたルチアは戦闘中にも関わらず目を丸くして俺の方を見てくる。何を言ってんだコイツは、って目だ。


「いや、だってグロリア語じゃない? エルフの言語だったら私も分からないけど。えっ、ハジメは分かんないの?」


 どういうことだろうか。俺だけが銀髪エルフの言葉が理解出来ないということなのか。

 ファムとノウの方を見て同意を求めてみるが、二人も当然のことをなんで聞いてるのかという表情だ。どうやら俺だけが言葉を理解出来ていないらしい。


「無駄口はそこまでじゃん? 来るよ!」


 珍しく真面目な声のジェリコの喝に俺はもう一度気を引き締めて照準する。

 今度狙うのは胴体だ。足などの四肢末端を狙うのが無力化させる理想だが、相手が相手である。避けられる可能性が高すぎるので、比較的避けにくく尚且つ被弾割合が大きい胴体を狙う。当たれば致命傷、外しても身体のどこかに当たるという選択だ。

 しかも今度はセミオートではない。三点バーストの連射だ。これなら一発ぐらい被弾してくれるだろう。というよりも、してもらわなければ困る。


 ニタニタと笑みを浮かべて歩く銀髪エルフは俺達が会話をしてる間にも不意を突くような動きはしなかった。自分が強者だと理解しているのだ。地べたの蟻を警戒する鷹はいない。


 その油断に賭けて俺は撃つ。三点バーストの連続音が鳴った。


 直後にキン、キン、キン……との音が聞こえてくる。


「嘘だろがよ……」


 撃ち終わったにも関わらず銀髪エルフは悠々と歩いてくる。俺が外した訳ではない。外された、否、弾き飛ばされたのだ。


 俺が撃った三発の弾丸は木刀の一振りで全て弾かれしまったのだ。キンキンキンっという音は周りに飛び散った弾丸が何か硬いものに当たって跳ね返った音だ。


 曳光弾の利点は射弾の軌跡が見えることにより照準の規制が効きやすいことだ。反面、欠点はそれが分かることにより弾の出どころや軌道が敵に分かってしまうということだ。


 それにしてもだ。軌道が分かったにしてもなのだ。音速を超える銃弾の動きが生物の目で反応できるのか。刀、それも金属製のモノではなく木製の刀で弾くことが可能なのか。実際にやられてしまったので可能と言わざるを得ないが。何か不思議な力でも使っている可能性も高い。


「ジェリコ前衛を頼む! ルチアもだ! ファムとノウは俺と援護するぞ!」


 この場の戦力で戦うにはこの編成しかあり得ない。近接戦が得意……なはずのジェリコと魔法剣士のルチアに前衛を任せ、拘束魔法と解析と銃弾で援護だ。


『解析します! 両眼解析(ツインアナライズ)(キャノン)!』


 仰々しい名前の単なる解析行為に俺はツッコミは入れず、代わりにセミオートで三発撃ち込む、さらにすぐさま三点バーストに変え三連射をお見舞いする。


 変則的なタイミングで射撃を行えば隙が出来ると考えたのだが、その効果は芳しくない。全てが弾き避けられ叩き落とされていく。

 振り払った刀の勢いそのままに、接近し始めていたジェリコに一足飛びで近付き痛烈な面打ちを食らわせる。


「うっぎぁぁ!?」


 常人ならば不可能な行為もエルフならば出来るのか。答えは出来るはずが無いだ。この銀髪エルフが異常なのだ。

 その答え合わせを裏付けるかのように、ジェリコに面打ちの一打を放った後の連撃を俺の目は捉えることが出来なかった。


「うぎゅうぅぅ……」


 足を薙ぎ払われて転び、情けない声を出して地に倒れ伏すジェリコ。よく見れば両の手に握っていた短刀がはたき落とされ、腕は本来曲がらないところが曲がっている。胸のところにはじんわりと突きを打たれた赤い跡が残っている。最初の一打からの四連撃を打ち終わった銀髪エルフは何事も無かったかのように悠々と歩いている。


「そりゃねぇだろが!」


 三点バーストの射撃を行い、さらに変則的にセミオート射撃をしながら俺は無意識にそう叫んだ。

 果たして今のはジェリコのやられっぷりに対してなのか強すぎるこの銀髪エルフに対してなのかは分からない。

 ただ分かるのは、叫びでもしないとあまりの威圧感(プレッシャー)に押し殺されかねないからということだけ。


「ハァッ!」


 俺の射撃を難無く避け、ルチアの気合のこもった斬撃が片手持ちの木刀で防がれる。


「ヴァイン!」


 伸ばしたファムの魔法の蔓が足元を捉えようと伸びていくが、銀髪エルフはそれを足払いで薙ぎ払う。石畳の地面が抉れるほどの威力のそれは、余波でルチアの態勢を崩すほどだ。


「ふぁ、ファイヤーボ……うぐッ!?」


 苦し紛れに魔法を放とうとしたルチアの喉に、銀髪エルフは柄頭で打ち込む。喉を打たれた衝撃で怯み前屈みになったルチアの腹に強烈な膝蹴りが追撃が加えられ、桃色の髪はそのまま地面に倒れ伏した。


『は、ハジメさん、大変です!』


「大変なのは見りゃ分かるっての!」


 俺の肩に近付き耳打ちするノウの声を無視して俺は銃を撃ちまくる。当たらずとも牽制になればとの思いがあったがここで弾切れを起こし弾倉交換をする。


「イテス、ア、デイフフィシゥルテ、ワェアぺオン。ア、ガゥン!」


 その隙を逃さず銀髪エルフは地面に落ちている蔓魔法の残骸を拾うと、鞭のようにしならせファムの頭に叩きつける。


「わっびゃぁぁ!?」


 見るからに痛そうな一撃にファムは頭を押さえて悶絶し地面を転げ回る。なんとか持ち直そうと立ったところに蔓をロープのように使われ簀巻きに縛り上げられてしまった。


 時間差にして三十秒も経たない間にこの場に残るのはノウと俺だけになってしまった。戦える人員で言えば俺一人になってしまったのだ。弾倉交換を終え、槓桿を引いた音が静かになった戦いの場に響く。


『た、大変なのですよ! 無効化されて解析ができないんです! こんなの私初めてでして!」


 慌ててるのか、若干言葉使いが怪しい。


 ノウの幻想(スキル)は解析だ。それが無効化されるというのはどういうことなのか。幻想無しでさらに魔法も使えない俺にはそのことがどのような意味を示しているのか分からない。


『だから多分、あの人の幻想はきっと……あっひゅう!?』


 戦闘中のイチャついた無駄話は禁止だと言わんばかりに、銀髪エルフは地面の小石を摘まむと親指で弾き飛ばしノウの眉間に命中させる。ノウは気の抜けた悲鳴をあげ、木の葉のようにハラリと落ちる。


「ノウッ!」


 地面に落ちないように咄嗟に手を伸ばす。だが、それをする間は無かった。


 突如として背中に走る激痛。咄嗟に身を翻すことも出来ずに俺は地面に倒れ伏す。


「イテス、ジェウステ、ヨォウ、アンデ、ムーエ、ンオワ。イ、アムー、ヴェロヨ、インテェロェステエデ、イン、ヨォウ」


 嗚咽を漏らしながら立ち上がると銀髪エルフが立っていた。離れていたにも関わらずいつのまにか背後に立たれている。

 相手が元いた場所を見ると、不発弾が爆発したかのような地面になっている。まさかとは思うが、一足飛びの踏み込みで地面がクレーターになってしまったのか。

 あり得ない事とは思わない。それだけこの銀髪エルフの全ての能力がズバ抜けているのだ。


「ヨォウ、ロェインシアロンアイオン? ンオ、テロアンスフェロエエ?」


 ヨロヨロと膝をついて俺は立ち上がる。銀髪エルフが何か言っているが答える余裕も理解もない。

 背中に妙な違和感を感じ、俺は防弾チョッキを脱ぎ捨てる。すると背中側に備え付けられている防弾プレートが真っ二つに砕き割られていた。

 思わずゾッとする。これがもしも直接、俺の身体に叩き込まれていたら真夏のビーチのスイカも真っ青になるぐちゃぐちゃな断面が生まれていたであろう。


「シアムーオゥフルアガエ、スゥイト。アロムーヨ。スアムーエ、アス、ムーエ」


 尚も話を続ける銀髪エルフ。何がしたいのかは一向に分からないが、息を吸うのもやっとな今の俺にとっては態勢を整えるのに好都合だ。


(このままじゃこいつにやられる。どうする……ん? ……待てよ!?)


 呼吸を整え、天を仰ぎ、少しばかり冷静になった俺はここで自分でも意図してなかった勝算(・・)に気付く。


(……時間だ。どれくらいかは分からないが……時間を稼げば……)


 問題は気付くかどうかだ。そして来ているかだ。その為には勝機を断定する時間が欲しい。


 俺は目線を戻し真正面から銀髪エルフを見据える。よく見れば顔は整っており、胸の厚みもかなりボリュームがある。メロンでも仕込んでるのかと思う程だ。


 銀色の髪に好奇心旺盛な赤い目が白い月明かりと相まって幻想的な美しさを醸し出している。さらに言えば着ている服もかなり大胆でヘソも出ている。足に関しては言うまでも無い。

 これが戦闘中でなければ、相対する敵でなければ口説き文句の一つでも出せるが今はそれどころではない。


「ワハェン、ディデ、ヨォウ、シオムーエ? ン? シァン、べェ、ウンデェステオオデ?」


 疑問を投げかけるかのように目を向ける銀髪エルフ。俺はもしかしたら話が通じるのではないかという淡い期待を込める。

 他のメンバーは全員無力化されているが、裏を返せば誰も殺されていないということだ。わざわざ非殺傷武器である木刀で戦っているのがその証拠だ。俺は時間稼ぎへの一縷の望みをかけて話をしようと口を開こうとした。


「シャドウランス!」


 言葉が喉に出かかったところで子供の高い声が聞こえ、同時に目の前の銀髪エルフに大量の黒い槍が襲い掛かる。

 声がした方向に目を向けるとそこにはフーバーが膝をついて手をこちらに差し伸ばしている。


「クソ、不意打ちでも効かないか……」


 今の魔法は最後の力を振り絞って出したのか、追撃の魔法をさらに出そうとしたところでフーバーはまた地面に倒れる。


「ルィテェアルルヨ、インテェロロゥぺテ、ムーエ!」


 俺が目線を戻すと、黒い槍を撃ち込まれたにも関わらず銀髪エルフは平然とそこに立っていた。二、三本では済まない魔法の槍の嵐を木刀一本で全て叩き落とした……らしい。


「イ、テハォウガハテ、テハァテ、イフィンイスハエデ。テエンアシィオウス」


 まだ抗う力が残っているのを理解し、銀髪エルフはトドメを刺しに行こう歩き出す。


 俺はその背中に銃口を向けた。


「おい待てよ!」


 銀髪エルフは気怠げに俺の方を見る。後で相手をしてやるから大人しくしてろと言いたげだ。


 しかしそれは了承不可能だ。敵対していたとはいえ、せっかく分かり合えそうであったフーバーにわざわざトドメを刺させるわけにはいかない。

 なんとか足止めしなければならない。フーバーを助ける為には無論のこと、勝つ(・・)為にも時間を稼ぐ必要がある。なので、俺は精一杯の虚勢を張ることにする。


「どうしたよ? まさか文字通り、話に横槍を入れられて怒ってんのか?」


 見たままの光景を嫌みたらしく言ってみたが、その効果は絶大であった。


 瞬間、頭で理解する間も無く、銀髪エルフは俺に対して全力の前蹴りを入れてくる。俺は反射的に防ごうとし、身体の正中線を守ろうと銃を盾にする。

 銃の中心に蹴りは命中し、金属製の部品をたわみ軋ませ真っ二つにへし折る。

 俺の身体は銃を緩衝材にしたお陰か蹴りが体に当たる前に吹き飛び、ゴロゴロと長く転がっていき倒れるルチアの背中に衝突する。


「うッ……」


 当たったときに小さなうめき声をあげていたので気を失っているだけのようだ。無事に生きてることに俺はホッと安心する。


 安心したのも束の間。全身に強烈な怒気を当てられ俺は身構える。


「アロェ、ヨォウ、ムーアケインガ、ムーエ、ア、フオオル? ケィルル、ヨォウッ!」


 髪を逆立て、瞳を爛々と赤く輝かせて銀髪エルフは俺に怒りの言葉を叩きつけてくる。

 何に怒り狂ったのかは分からないが、矛先がフーバーではなく俺の方に向いたことに関しては良かったとは言える。


 問題は銃という最大の武器を無くした俺が奴に対抗できるかという点だ。


「……」


 俺は二つに分かれてしまった銃を地面に置き、代わりに倒れているルチアの手から剣を拾い上げる。

 手に馴染まない感触に俺は歯噛みしながら片手持ちに構える。


「強く握り過ぎ、弱過ぎ、固過ぎ……って、どう握ればいいんだっつーの」


 ルチアとの剣術稽古を思い出し、全く参考にならなかったことも思い出す。

 こんなことならば短剣道をタケさんに習い、もう少し剣術に理解を示せば良かったと過去の自分を恨みつつ、俺は初めての剣で最大の強敵に挑むこととなった。

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