旅のはじまり編~3話~
――――目指すは、魔王城。三人は東に向かい歩きだした。
「なァ、これからしばらく共に旅をするんだし、あんた等の事、少し教えてくれよ。」
しばらくは無言で歩いていた三人だったが、沈黙に耐えられなくなり、翼が話を切り出す。
「えぇ、私めの事で、ツバサ様が知りたい事でしたら何でもお答え致しますよ。何が知りたいのですか?」
キリューは、快く答える姿勢を示す。
「俺も別に答えられる範囲内であれば、構わないぜ。」
レオンも無言に飽きていたのか、話に乗ってくる。
「そうだなァ。じゃあ、先ずはレオンに質問。レオンは、勇者ってことだけど、あた…“俺”みたいに親が勇者だったとかなのか?それにその聖剣って奴は闇の力という奴を感じ取ると姿を変えるのか?」
翼は、一人称を“あたし”と言ってしまいそうになり、慌てて言い直す。旅立つ前の話の中で気になっていた事を問う。
「いや、勇者の選出方法は世襲制ではない。簡単に言うと、聖剣が扱えれば誰でも慣れる。そもそも、聖女に関しても先祖代々、伝承されてきたものにすぎないから俺からは何とも。俺は、まだ25だから50年前の魔王がいた時には生まれていなかったしな。長老は前代聖女…ツバサの母親を実際に見たことがあるようだったが。…話が逸れたな…聖剣についてだが、魔族の持つ闇の力に反応を示し、その姿形を変える。剣も、戦闘態勢に入ると言ったような感じだ。聖剣は特殊な剣で、闇の力を持つ者以外は切っても切れないようになっている。」
レオンは、第一印象では寡黙なタイプかと思っていたが、どうやら違うようだ。質問の答えを真摯に語ってくれた。
「へぇー。なるほど。ちゃんと答えてくれてありがとな!」
思いの外、真面目に答えてくれたことが嬉しくなり、レオンに向かってにかっと微笑む。
「いや…他にもあれば遠慮なく聞いてくれ。」
レオンは初めて見る翼の陽だまりのような無邪気な笑顔に、何となく顔を背ける。
「レオン?…次は、キリューだな。村人達があんたの事、記録者って呼んでたけどって記録者って一体何なんだ?それに、何で初対面の俺に好意的な訳?」
翼は、レオンの態度に首を傾げながらも、キリューに対し気になっていた点を問う。
「すみません…その事に関して話すと長くなってしまいますので、また今度でもよろしいですか?」
キリューは、口元に手を当て、悩む素振りを見せると、一瞬悲しそうな表情をした気がした。しかし、すぐに困ったように微笑みながらそう答える。
この話題は、どうやらキリューにとってあまり好ましくないようだった。
「答えたくない事を無理やり聞き出す趣味はないよ。ごめんな、答えづらい事聞いちまったみたいで。」
翼は、人の気持ちには聡いため、もしかしたら地雷だったかもと感じ取りすぐに謝罪する。
「いえ、いずれ必ずお話致しますので少々お待ちいただけますか?」
「あぁ、勿論。キリューが待ってほしいというなら、何時までも俺は待ってるよ。」
翼は、顔の晴れないキリューにわざと約束な?と悪戯っ子のような笑顔を向け雰囲気を明るくするように振る舞う。
「…今、お答え出来る事が一つだけございました…何故、最初から好意的かというと―――貴方がとても魅力的な方だからですよ。」
翼にのみに聞こえるように顔を近づけ耳元で艶やかに囁く。色香に充てられ、翼は顔を耳まで真っ赤に染め硬直する。キリューはその様子に満足そうに微笑むとツバサの頬を一指し指の腹で一撫でしてから離れる。
「ツバサ、此奴、実は、相当いい性格してるから気をつけろ。」
その様子を見ていたらしいレオンがキリューを親指で指しながら翼にアドバイスを送る。
「レオン、貴方にだけは言われたくないのですが…今は特別気分がいいので見逃してあげましょう。」
―――なんだかんだ、三人の間に穏やかな空気が流れ始めたところで、それをぶち壊す、爆弾発言が突如レオンより投下された。
「そういえば、俺からも一つ質問なんだが、何故ツバサは男のフリをしているんだ?」
翼は思わず固まりレオンを凝視する。
「な、なんのことだ?」
冷や汗が頬を伝うのを感じながらしらばっくれる作戦を取る。
「俺も見た目では気づけなかったが、最初に腕を掴んだ時に気づいた。ツバサ、お前女だろ?」
レオンの瞳は確信を持っていたため、こうもあっさり見破られるとは思っていなかった翼だが、降参と言うように両手を上げ、諦めの姿勢を示した。
「よくわかったな。俺…“あたし”今まで見破られたことなかったんだけど。」
一人称を通常に戻し、見破った事への賞賛を送る。
「なるほど…女性だったのですね。勘違いしており申し訳ございませんでした。」
キリューは驚くかと思いきや、何処かで違和感を感じていたのか一人納得していた。忘れずに、謝罪の言葉も送ってくる。
「ごめんなさい、その、騙すつもりはなかったんだけど…これには深い理由があって…」
「「深い理由…?」」
二人して仲良くハモリきょとんとした顔で続きの言葉を待つ。
「その…お、女だとどうしても聖女様って呼ばれそうだろ?どうしても、そんな寒い呼び名で呼ばれたくなかったんだよ。」
「ククッ、そんな理由だったのか。面白いな、“聖女様”」
「クスッ、なるほど、“聖女様”は恥ずかしがり屋なのですね」
「なぁ、絶対わざと言ってるだろ、二人共。お願いだから止めて下さい本当に!隠してた事は謝るからさ。…ホント“いい性格”してるのな。」
三人は誰ともなく一斉に笑いだす。
翼は、笑いながら、この先レオンとキリューとなら上手くやっていけるような気がしていた。
三人の笑い声は、いつしか空の彼方に吸い込まれていった。
これにて旅のはじまり編終了です。
次回は、新たな出会いがあるかも?