旅のはじまり編~2話~
記録者が翼をソファーに座らせ、その向かい合わせに三人が腰を下ろす。
「まず初めに自己紹介といきましょうか。私めは、記録者、キリュー・レントフルと申します。気軽にキリューとお呼びくださいませ。」
「先程は手を掴んですまなかったな。俺は勇者、レオン・ハルシオスと言う。よろしく頼む。」
「数々の非礼を村人達を代表し、深くお詫び申し上げます。わしは、さっきの村人達の長老をしておる者ですじゃ。」
順に自己紹介されるが、長老の態度が先程と打って変わり恭しくなったことに翼の頭に疑問符が飛び交う。
「“俺”は、ツバサ・クザキという名だ。此処は何処だ。母さんを知っているのか?教えてくれ。」
翼はわざと、三人に合わせファーストネームを先に言う。そして、普段の一人称は“あたし”を使っているが、女とばれたら“聖女“とかいう寒い呼び名で呼ばれる恐れを考え、わざと“俺”を使い、このまま男で通すことにした。
「その事に関して、私めが一から説明致しましょう―――」
―――キリューの話を要約すると、以下の通りだ。
此処は翼の住む世界とは異なり、異世界であるということ。
そして、50年ほど前この世界には、魔王が君臨していた。その際に前代勇者と共に魔王を倒し、聖なる光で世界を救ったのが、信じられないことに翼の母――久崎 光であるということ。
光は、現在、翼の持つ光石を肌身離さず身に着けていたという。
しかし、平和は長くは続かず、3年程前に魔王が再び蘇ったというのだ。
そして、今回再び召喚魔術により聖女を召喚し、また聖なる光で魔王討伐を願い出るために翼は呼ばれたということだった。
ついでに、黒に怯える理由も教えてくれた。魔王を直接見たものは少ないが、黒髪黒眼に全身を黒で身を包んでいるという情報が出回っているため、黒をその身に宿す者に対し、この世界の多くは怯えと憎しみを抱いている者が多いとのことだった。全く黒髪黒眼が当たり前の、日本人にとって迷惑極まりない話である。
話を聞いて、翼は正直腹が立った。
そんな危ない事に昔、母が巻き込まれていたという事実に。そして、自分達の世界の事なのに自分達は指を咥えてみているだけで異世界人である無関係な翼に魔王討伐を乞うという自分勝手なこの世界の人々に。
絶対に手なんか貸したくないと思ったが、母の言葉を思い出し直ぐに思い直した。
―――『困っている人には必ず手を貸しなさい。決して見捨ててはいけないわ。それが例えどんなに悪い人でも、困った時はお互い様なのだから。』
それが、母の口癖だった。母は言葉の通り、この世界の者達に喜んで手を差し伸べたのであろう。
それと同時に疑問な点もあった。
もし、この話が本当であれば50年前では母は生まれていない事になる。しかし、自分によく似た、しかも、形見の光石と呼ばれているこのネックレスを身に着けて、更に、母と同じ名前を持つ女なんて世界に二人といるはずがない。
恐らく推測するに、こちらの世界と自分の世界では時間軸の歪みがあるのではないだろうか。自分が戻った時の時間の進み具合がどうなってる事やらと翼は、頭が痛くなる。
さてどうしたものかと考えるが、こちらの世界では一人で生きてく術も伝手も知識もない。それに、やはり母の教えもあり、困っている人を放っておくのは性に合わない。選択肢は初めから一つしかないのだ。
「…話は、わかった。まだ不可解な点はいくつかあるが、俺で良ければ手を貸そう。只、一つ条件…というより、お願いのようなものだが、出来るだけ早く事を片付け元の世界に帰りたい。」
特に元の世界で待っている人間がいるという訳でもないのだが、今年、受験生のため、あまり長く学校に行かないという訳には行かなかった。それに、時間軸の歪みの影響がどの程度出るのかが分らない今、早めに帰るに越したことはないだろう。
「ありがとうございます、ツバサ様。…勿論、その条件呑ませていただきます。まさか、無理とは宣いませんよね、勇者レオン。」
有無を言わさぬ威圧感を含む、挑発したような声でレオンに問う。
「あァ。誓おう。俺が、最短で魔王城までツバサを導くと。」
「様をつけなさい、この愚か者。私も記録者として同行させていただきますのでこの武骨者と二人きりということはございません。ご安心ください。」
レオンが、翼を呼び捨てにした瞬間キリューが嗜めるように言うが、直ぐに翼は、二人に様付なんて別に必要ないと伝えた。
この二人の雰囲気から察するにもしかすると以前からの友達…知り合いなのかもしれない。
長老も涙を流しながら翼に感謝の意を伝えてきた。ツバサを見る瞳の奥には、未だ黒への怯えや憎しみを宿していたが、あえて気づかぬフリをした。
魔王城まで一緒に旅をしてくれるらしい、レオンとキリューにそれらの感情が一切見られない事がまだ救いである。
キリューに至っては何故だか分らないが、翼に対し、一線置いてはいるものの、初めから好意的のように見える。
至急で長老に用意してもらった数日分の食糧や水と茶色いローブをもらい受け、村人に会いまた面倒事になる前に三人は早々に村を出て、旅立ったのだ。
―――物語は始まった。黒は一体、正義か悪か。それを決めるのは自分自身。
旅が始まりました。
次からは、イケメン二人と旅に出ますのでお楽しみに!