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黒が惡って誰が決めた  作者: RicØ
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旅のはじまり編~1話~

眩い光が消えたのを感じ、目を開くと、次に、目に飛び込んできたのは多くの人であった。


「…此処は一体…どこだ?」


 彼女が、小さく呟くと静寂に包まれていた辺りの人々が一斉に悲鳴を上げる。


「黒髪、黒眼の男…ま、魔族だ。ま、魔王の仲間だ!!」

「聖女様ではなく、ま、魔族が現れたぞ、しかも男だ…!!」

「ひぃっ、い、命だけはお助け下さい…」

「し、失敗じゃ。召喚術は失敗したんじゃっ」


 周りは騒然としており、とてもだがまともに話が出来る状態じゃないように見える。


 翼には、一切状況が理解出来ず多少の苛立ちと焦りを覚える。しかも、男に間違えられているようだったが、そちらは良くある事なので気にしない。

 

女にしては、中性的で綺麗な顔立ちに加え、低めのアルトボイス。現在の格好も、黒のワイシャツに黒のジャケットを羽織り、黒のスキニ―パンツに黒の編み上げショートブーツだ。

 髪はショートで、身長も女にしては168㎝とそこそこ高く、胸は邪魔という理由だけでサラシで潰してある。

 学校は服装自由のため、大抵この格好で通っており女子にモテまくりだ。


さながら、男装麗人のような恰好をしているため間違えるのは当たり前であり、むしろ一発で女と見抜いた人はいないと言う位であった。


 黒より深い漆黒の髪に、漆黒の瞳を持つ翼は、言葉の通り上から下まで、全身黒で一色である。しかし、どうやらそれが不味かったようだ。


「あんなに、全身黒に身を包むなんて、ま、魔王の仲間に違いないっ」

「そうだ、大人しくしている今の内に殺せ!」

「どうせ、悪い奴の仲間だそれがいい」


――――コロセ、コロセ、コロセ、コロセ


 どこからともなく、コロセというコールが地響きのように湧き上がる。

 最初の一言以外、沈黙を貫いていた翼だったが、周囲の異様な雰囲気に身体がふるりと震える。自分は何故か殺されそうになっていると瞬時に理解し、逃げ出そうと試みる。


 出来るだけ冷静に周りを見渡すが、出入口はどうやら自分のいる場所から一直線先の扉一つだけのようだった。

 そこに辿り着くには目の前の多くの人の間を通り抜けねばいけない。万事休すか。


「っな、男が逃げようとしてるぞ!誰か捕まえろ!」

 駄目元で、翼は駆け出した。脚には自信があるため人と人の間をするりするりと上手くすり抜けていく。

 (みな)、捕まえようと躍起になって冷静さを欠いているため単純な動きになっているのだ。


扉はもう目の前というところまで来て、脚が進まない。

 後ろを振り返ると、一人の逞しい男の腕に手を捕えられていた。

 (おもむろ)に、腕を引き寄せられた反動で首からかけて懐の中に大切に仕舞っていた、母の形見のネックレスが表へ顔を出す。


「離せよっ!」

 翼はもがいてみるが、所詮女の力では、男の力強い腕からは抜け出せなかった。


「落ち着くんだ、お前達。」

 翼の言葉を無視したまま、腕を捕んでいる男が発言すると、皆一同に黙る。無視されたことに腹が立ち、男を下から睨み上げるように見据える。

 すると、男はよくよく見ると、まるで童話に出てくる王子様のような姿形をしていた。

 美丈夫な顔立ちに、褐色の肌を持ち、金色の髪は後ろで束ねられ、剣を帯刀し、切れ長の瞳は海のように優しい蒼で、淀みなく輝いていた。思わず翼は、一瞬の間見惚れてしまった。


「勝手に召喚術を使い呼び出しておき、尚、魔族や魔王の手下だと決めつけ殺すなどというのは些か勝手が過ぎるとは思わないか?」

 男は、他の者達と違いとても冷静に、その場にいる大勢の人に向かって語りかける。


 「勇者様…しかし…」

 初老のお爺さんが口を挟もうとする。

 

 「冷静に物事を見るんだ、長老、それに村人達よ。この者の首に光るのは聖女の証である”光石(こうせき)”のように見えるが、違うか?それに、この者から闇の力は感じ取れない。”聖剣”もこの通り反応せず、形を変えていない。確かに、魔王は黒髪黒眼かもしれないが、奴もそうだから魔王の仲間と考えるのは些か浅慮だと俺は思うが。」

 翼の胸元で月のように光輝いている石と、己の持つ聖剣を示しながら語る内容は、驚くほど的確な状況判断のように思える。


「あ、あれは光石?まっ、まさか!!」

 長老はありえないというように翼からネックレスを奪い取ろうとする。


「汚い手で触るな!此れは母の形見だ。お前等が好き勝手触っていい物じゃない!!」

 翼は初めて大声を上げ、触ようとした長老の手を、捕まれていない方の手で、荒々しく跳ね除けるとネックレスを大事に握りしめる。


「母の形見…まさか、そんなはず…。いや、しかし…確かによく見れば、に、似ている!!伝説の聖女ヒカリ様に…!!」

「なんで…あんたが母さんの名前を知ってるんだ…?」

 翼が怪訝な顔をして、長老と呼ばれる老人を見る。確かに翼は、幼い頃より母に顔立ちがよく似ていると言われていた。しかし、母はハーフで栗色の髪に、灰色の瞳で雰囲気も翼より可愛らしい感じであったため、直ぐには気づかない人も多いのだ。


 

 そんな中、突如、ふわりと舞う風と共に音もなく一人の男が現れた。

 全身白い神父のような恰好をした、銀髪の長い髪に菫色の瞳持ち、口許の黒子が妙に色っぽい美人という言葉がよく似合う男だった。


「やはりですか。恐らく貴方様は、ヒカリ様のお子ですね。…女性ではなく男性であった事は少々誤算ですが、聖女様の血を受け継いでいるのであれば左程問題はないでしょう。」

 翼の手を取り優しく微笑みかけ、そう告げる神父(仮)。


「記録者様!?記録者様が現れたぞ!?では…本当にあの黒を持つ者が聖女様のお子なのか…?!」

 

 しばらく治まっていた喧騒が、またザワめき立つ。



「全く騒々しい。…此処では、何ですので別の場所でゆっくりとお話しを致しましょう。」

 騒ぐ村人達を凍てつくような冷たい瞳で一蹴にすると、記録者と呼ばれていた男は指を鳴らし、いつの間にか豪奢な部屋に移動していた。勇者と長老も連れて。



翼と勇者と記録者と長老が集うこの部屋でこれから一体何をしようというのやら。

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