【8話】ハレの夏祭り ~後編~
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「野山君、天使捕獲作戦は順調かね?」
大きな機械が置いてある倉庫の中で戸塚が野山に聞く。
機械を萩原に付いてもらいながらいじっていた野山が振り返りながら言う。
「はい。順調ですよ。いつでも捕獲できます!」
「ふむ、それは頼もしいことじゃな。」
野山の返答に戸塚は満足そうにうなずいた。
「戸塚先生、次の夏祭りでも別の天使が来る可能性がありますが捕獲班も夏祭り会場で待機させますか?」
野山が提案する。大方のめぼしはついていそうな顔だった。
「いや、神社の祭りで騒ぎを起こすと面倒なことになりかねんからな。やめといたほうがいいじゃろう。
神様からバチが当たるかもしれんしな!」
提案を却下した後、戸塚は冗談を言って笑う。
「そうですか……。わかりました。」
野山はいつもなら常に攻めに出る戸塚が慎重な意見を出したことに少し驚いた。
「じゃが、作戦の実行日は次の花火大会なのじゃろう? その時はしっかり頼むぞ。」
「はい。わかってます。」
おそらくここで下手なことをして、すべてが崩れ落ちることを避けるためなのだろうか。大きな計画がすぐそこに迫っているからこそ、計画を実行する前に一度深呼吸をして確実に一つの計画を成功させなければならない。2つの計画を同時に進めて、2つとも失敗で終われば元も子もないのである。それならば1つの計画に集中するのも妥当な判断だった。
「これで完成でいいのですか?」
野山はそばにいる萩原に質問をする。
「そうですね。これで完璧でしょう。」
「ありがとうございます。萩原さん。」
機械の手直しも済んだようだ。
「ついにできたな。この機械はな。実はわしの提案なのじゃよ!」
2人の様子を眺めていた戸塚が自慢げに話した。
「そうなのですか!?」
萩原は驚く。
「よくこの機械が頭の中に浮かびましたね……。」
野山も驚きを隠せないでいた。
「わしの頭をなめてもらっては困るぞ。」
そういって戸塚は盛大に笑った。
「天使が協力してくれたらこんな機械を作らなくてもよかったんじゃがの。まぁ、仕方ないわな。」
一般民に対してろくに説明をしてないため協力もなにもないのだが、と2人は思ったが何も言わないでおく。
「手枷と足枷使わなくても、天使を気絶させておけばいいのではないですか?」
萩原が聞くと戸塚は大袈裟に肩をすくめた。
「天使の力はどうしたら引き出せるかわからんからな。気絶させると治癒能力がでないかもしれんし、なによりこの機械は激痛を引き起こすからどう暴れるかわからんのじゃよ。」
「な、なるほど。」
激痛が襲うということをさらりといってのけた戸塚に、萩原は少し引き気味に返事を返した。
▽▽▽
「次はリンゴ飴を食べよう!」
夏祭り会場のリンゴ飴を売っている屋台の前で砂川が元気な声で言う。
「まだ食べるの!?」
川島が片手に食べかけの綿菓子を握りながら驚く。
「まだ綿菓子残ってるよー。」
奈々も同じく片手に綿菓子を持っている。
3人そろって先ほど綿菓子を買ったのだが、川島も奈々も驚くスピードで砂川が綿菓子を食べきってしまっていたためリンゴ飴を見て目をきらめかせている砂川の手には、綿菓子の棒が残っているだけだった。
「2人とも食べるの遅いぞ! 片手がふさがってお金が払えないのなら私が買ってこようか?」
「そういうことじゃないから。 そんなに食べたいなら買ってこれば? 私たちはここで待ってるから。」
砂川の不思議な解釈でリンゴ飴が追加されそうになった状況を川島があきれつつも回避する。
「まじか!? いいの?」
砂川は大喜びだ。
「いいよー。」
「ほらほら、いってらっしゃい。」
笑顔の奈々と微笑を浮かべながら両手で肩を押してくる川島の反応で砂川は大急ぎでリンゴ飴を買いに行った。
「美波ちゃんすごく楽しそう!」
走っていく砂川を見て奈々も嬉しそうに言う。
「うん。ホントだよね。」
川島も同意した。そのまま2人顔を見合わせて笑う。
リンゴ飴の屋台は混雑しており砂川が買う頃には2人とも綿菓子を食べ終えていた。
「おまたせ!」
人混みをかき分けて砂川も戻ってきた。
「とりあえず座れる場所探さない?」
川島が提案する。夏祭りが始まってから歩き続けたので奈々の足もくたくただった。
「いいな!」
リンゴ飴を食べながら砂川も同意する。
「神社のほうだと人も少なくなるから座れそうだね。」
という奈々の提案により神社方面に歩いていく。
神社の近くは予想以上に混雑していたが境内の中はそこまで混雑してなかったので、休憩用においてある椅子に座った。
「射的倒れなかったなー。残念だ。」
「前はもっと倒れやすかったよね。」
砂川が少し残念そうにしゃべる。奈々も同意した。
「それは戸塚たちがまだ小さかったからだよ。あの屋台のおじさん相手が小さな子供だと弾が当たってすこしずれた商品を直すふりをして商品を落とすもん。」
「そうなの!?」
「うそ、聞きたくなかったー。」
川島が言った言葉に奈々は驚き、砂川はショックそうに肩を落とした。
「そのおじさん優しいな~。私も子供のころにもっと高価なゲーム狙えばよかったな~。」
「それはたぶん落としてもらえない。」
冗談交じりの砂川の言葉に笑って川島が否定した。
「このお祭りの人は子供には優しいからね。いろいろおまけでもらえるよ。」
「わたし金魚すくい子供の時したけど何ももらえなかったよ~。」
「あのおばさんはあまり優しくないからね~。」
「わたしも子供の時に射的やっておけばよかった。」
奈々のエピソードに川島が答えた。
「やっぱり人それぞれなんだな。」
「まぁ、そうだね。」
「あ、ごめん。私そろそろ帰らないと。」
時計を見ると20時をまわったとこだった。
「理奈ちゃん帰るの?」
「うん。門限厳しいんだ~。」
奈々が問うと川島は申し訳なさそうに謝る。
「いやいや、気にするなって。」
リンゴ飴を食べ終えた砂川が言う。
「ありがとう。じゃあまたね!」
「ばいばい。」
「またな!」
門限の時刻が迫っているのか川島は大急ぎで帰っていった。
「戸塚どうする?」
砂川が聞く。帰るかどうかという問いかけだろうと思えた。
「うーん、わたしも帰ろうかな。」
「そうか。じゃあ解散ということで。」
「わかった。じゃあね。」
「じゃあな!」
夏祭りはあらかた回ったので奈々も砂川も解散する。
帰路につき電灯はついてるが暗い道路を進む。ここからはバスで奈々の家の最寄りのバス停まで移動するのだ。
静かなバス停で奈々は帰るバスが来るのを待った。