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【6話】とある狩人の事情

 萩原は完全治癒能力研究・開発チームに入ったのは最近であった。

 入る前はある会社の開発者だった。


 そのころ、天使の研究をとある病院が行うにあたり、医学分野だけでなく電子機械を使用することは避けられなかった。医学分野にあたっては優秀な人材がそろっていたが、科学分野に関係する人材が少なかった天使チームは機械に強い人材が必要になった。天使チームとしては優秀な人材がほしかった。が、その時に出ていた情報は少なく、科学者にとっては天使という人物を誘拐してその人物に作った機械を使う、ということだけだった。非人道的な行動である、と誤解されてもおかしくない状態であり、そして誤解をされた。


 「人材は集まったか?」


 「いえ、それが少数の科学者しか加入してくれないようです。」


 天使チームとしてはとても困った展開になった。天使を誘拐したとはいえその能力が手に入らなければ意味はない。人材の確保を優先したかった科学チームは各工業系企業からの人材を求めることになった。

 そして勧誘は萩原のところにもやってきた。年間休日、給与、福利厚生、それらはほぼ文句ない状態であった。しかしやはり引っかかることがある。内容であった。


 天使という存在を探し、見つけた場合は天使を研究施設に連れてきて能力の研究をする。


 この内容は萩原にとっては、噂程度の存在を求め行動し、さらに見つけたら見つけたで誘拐するという風にとれたのだ。非人道である。萩原もそう判断を下した。しかし、拒否の返事をはっきりすることはできずにいた。天使の能力が魅力的だったからだ。

 天使が持つ能力は誰もが知っている。治癒能力、萩原はその能力が非常にほしかった。小学2年生の息子が病気だったのだ。


 萩原拓翔、それが萩原の息子の名前だった。元気に育っていた拓翔が病気であることが判明したのは1年くらい前であった。 

 萩原にとって聞いたこともない病気で即座に入院が必要だと言われた。医者からは、治療を受ければ完治をすることも望めると説明を受けたため、萩原は必死に稼ぎ、そして妻である美乃利は必死に看病する。拓翔は必死に病気と闘っている。

 そんな時に天使チームの勧誘が来たのだ。もし天使チームに入れば天使との接触も期待できるかもしれない。さらには福利厚生の中に天使の能力が得られた場合、その能力を必要とした人物が親族にいた場合は優先して能力を使用することができる、というものがあった。

 萩原が天使チームに参加するか迷っていることは美乃利も聞いていた。2人きりで長い間話し合ったこともあった。しかし結果的に美乃利は萩原自身が決断したほうがいいという判断を下した。萩原自身の問題だからだ。


そうやって迷い続けた萩原に天使チームに加入する決断をさせたきっかけがあった。

 拓翔の病状が悪化してしまったのだ。今まで治療に使ってきた薬の効果は低くなってしまった。

 

 医者からもどうなるかわからないと言われた。 

 病院の廊下で萩原は加入することを美乃利に伝えることにする。


 「俺、治癒能力研究開発チームに参加することにする。」


 「それって天使狩りに入るってこと?」


 「うん。」


 美乃利は天使狩りと呼ぶ。呼び称が早く広まったのも本名が長すぎることが手伝っていると思われた。

 

 「それであなたはホントにいいの?」


 「あぁ、いい。仕事内容はまだよくわからいけど給料は今よりもいいし。何より天使と接触できるチャンスはここしかないと思うんだ。」


 「うん。わかった。なら私は反対しないよ。」

 

 「ありがとう。」


 「そのこと、拓翔に言うの?」

 

 それは萩原の迷ったことだった。一応伝えたほうがいいのだろうか。しかし、変に心配をかけることになるかもしれないと思っていた。子供であるからこそ自分のことをよく見ていると思っている。何にも言わないのもよくないと思うが、伝え方を間違えると負担をかけてしまいそうな気がする。


 「簡単に伝えるつもりではいるよ。」

 

 「そう。」


 その会話のあとに拓翔の病室へ入る。


 「パパ。」


 萩原の入る気配に反応して拓翔が呼ぶ。

 元気だった拓翔も今ではやせてしまっている。顔色もあまりよくなく、今でも辛そうである。それでも萩原が入るとわずかに笑顔が浮かんだ。

 萩原は笑顔を浮かべてベットの横の椅子に腰かける。後ろから美乃利が来ているのも気配でわかった。美乃利はベットの横にある簡易ベットに座った。


 「拓翔、パパな。お仕事を変えることにしたんだ。」


 「パパ会社辞めちゃうの?」


 「そうなるね。でもね、パパすぐに違うところで頑張るからね。」


 「どんなお仕事?」


 「パパね、天使っていう人たちを見つけて病気の人たちを治してください、ってお願いする仕事をするんだ。すぐに拓翔のとこにも来てくれるからね。」


 「パパすごい!」


 「あぁ! パパ頑張るから、拓翔も頑張るんだぞ。」

 

 そういって拓翔の手を握る。


 「うん。」

 

 少しだけ元気に拓翔は頷いた。



    ◆◆◆



 「ようこそ。萩原君。わしは戸塚という。」


 天使チームに加入し、一番に話しかけてきたのが戸塚という白髪の老人であった。


 「よ、よろしくお願いします。」


 少し緊張気味に答える。


 「さっそくじゃが、そなたに頼みたい仕事があるものでな。そなた電子機械は使えるか?」


 「はい、ある程度は使えます。」 


 「それならいいのじゃ。早速手掛けてほしい機械があってな。少し移動する。ついてきてくれ。」


 「わかりました。」


 萩原は案内された通りに行く。駐車場から車に乗り込み、少し車で移動すると大きな倉庫が見えてきた。


 「大きい倉庫じゃろう。あの倉庫はわしらが使用している。」


 大きい倉庫の近くに車を止めて倉庫の入り口に近づく。

 入口の前で戸塚が振り向いた。


 「ひとつだけ言いたいことがある。今から見ることや、そなたに頼むことはそなたにとっては慣れないものになるかもしれぬ。それはなぜか、そなたの今までの日常とは全く違うものになるからじゃ。わしらが手掛けていることは一部の人間からは非人道的行為だと言われている。それはそなたも知っているじゃろう。わしらが天使狩りなどと言われているからな。しかしあながち間違ってはいないのじゃよ。わしらがやろうとしていることは誘拐じゃ。しかし、それは大勢の人々を救うことにつながるのじゃ。時にはこんな犯罪的行為をするのは嫌だと、思うことはあるじゃろう。しかしできるだけ心を鬼にしてほしいのじゃ。大勢を救いたければ少数の犠牲は必要じゃ。と、いっても殺すわけじゃないのじゃがな。それだけはわかってくれ。頼んだぞ。」


 「……わかりました。」


 萩原のその言葉を聞いた戸塚は小さくうなずくと倉庫の中に入る。萩原も中に入った。

 

 「少ないが隠さずにすべてを案内する。」


 そういって案内されたのは4畳くらいの小さな部屋が3つある場所だった。中にはベットと簡単なテーブル、工事現場などにおいてある簡単なトイレがあった。


 「ここに天使を入れるのじゃよ。まぁ、監禁するということじゃな。脱走されると困るのじゃ。」


 「そうですか。」


 最初から想像以上なものを見せられた萩原は驚きで簡単な答えしか返せない。


 「何日くらい監禁されるのです?」


 「それはまだはっきりせんな。まぁあまり長期的にはしないつもりじゃ。この部屋何か足りぬか? そうか、風呂か! それはいま注文しているところじゃよ。」


 ニコニコして戸塚が言う。そういう意味ではないのだが、と萩原は思う。


 「そしてこれがそなたに手掛けてほしい機械じゃよ。」


 そういって見せられた機械は大きな機械だった。


 「ある程度は作ってあるが仕上げがまだなのじゃよ。一週間くらい前に病院から半分持ってきてな。ようやく全て揃ったとこじゃ。この機械で天使の能力を吸い取るのじゃよ。」


 地面には足枷と手枷と数本のコードがついたヘルメットが転がっている。


 「この機械の配線を頼みたい。設計図は置いてあるでな。なかなかややこしいが頑張ってくれ。」


 「わかりました。」


 そういって萩原は機械の配線をしていく。

ただ、拓翔を救いたい、その一心で。



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