君との秘密
ねぇ、君は今何処にいますか。
ぼくと同じ空を見ていますか。
夏がもうすぐ秋にかわる頃、君は言いました。
私、追われているの。
ぼくの頭には、夏の終わりを告げるひぐらしの声、そして澄んだ君の声が響いていました。
夕暮れの教室、ぼくと君だけの世界。
ぼくは少し黙ってから、何故とだけ返事をしました。
私の話、信じてくれるかしら。
君は言いましたね。
その時まで、ぼく達はただのクラスメイトでした。しかしながら、ぼくは君を意識していました。
君の長い黒髪が、深い瞳の色が、他の女子達とは違った、中学生とは思えぬ妖艶さから目が離せなかったのです。
沈む夕日が君の顔を照らし、長い睫毛の影で、君の瞳の色は一層深くなっていきます。
なんと、美しいことでしょう!
思わず、ぼくは息をのみました。
ぼくは君に見とれて、声が出せずにいたのです。
この時間が永遠ならば、そう願いました。
そんなぼくを嘲笑うかのように、ああ無情にも下校のチャイムが鳴り響いたのです。
帰ろうか。
そう言う君に、現実に戻ったぼくは、ただうんと答える他ありませんでした。
くしくも明日は休校日、ああ君に会えないのか、ぼんやり考えました。一体、さっきの君の言葉は何だったのだろう。
帰り道、ぼく達の帰宅路は別方向です。
じゃあ、ここで。
ぼくが言うと君は、
うん、またね。
あの、さっきの話だけど、あなたに聞く気があるなら、今夜ここにきて。
誰にも言ってはだめ。
君はそう言って、ノートの切れ端にメモした地図をくれました。
君は覚えているでしょうか。
これがぼく達二人にできた、初めての秘密。二人だけの秘密であることを。