戦いの後で‥‥
「何も見えません!中で何が起きているのでしょうか!」
シン‥‥‥‥‥‥‥‥
観客は静まり返っていた。
どちらが勝ったのだろう。
その事が観客の頭の中を占めていたのだろう。
「‥‥‥‥っ!霧が晴れてきました!‥‥あっ!1人が起きていて、もうひとりが倒れております!さあ‥‥勝者は‥‥‥‥‥‥え?」
ハリマは疑問の声を出してしまう。何故なら‥‥立っているのは‥‥
「ふぅ‥‥勝てたか。」
落第生の晶だったのだから。
全生徒が思っていただろう。この決闘、勝つのは遠藤遥香だと。SランクがFランクなんかに負けるわけがないだろうとーー
「おーい。ハリ‥‥なんちゃら〜。勝者コールはまだなのか〜?」
晶の言葉で、ハリマの飛んでいた意識が戻ったのか、勝者のコールを叫ぶ。
「‥‥‥‥っ!?し、勝者!Fクラス、晶ァ!まさか、まさかの展開だァ!誰がこの事を予想したでしょうか!まさかの展開に、生徒達も総立ちだぁ!」
ブゥーーーー!!!
(総立ちか‥‥‥‥ある意味な。)
生徒たちは確かに総立ちしていた。‥‥‥‥晶へのブーイングで‥‥
そうして、良くも悪くも、晶の名前は学院中に広まることとなったのだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
遠藤は夢を見ていた。いや、過去の記憶とでもいうべきだろうか。
『お母さん!お父さん!』
父親と母親が目の前で倒れている。自分は体が動けない。
『ごめんな‥‥お前の父さんと母さんを助けられなかった‥‥』
急に後ろから声がかけられた。振り向くとそこには、全身黒ずくめの男が立っていた。
『う、うう‥‥‥うわぁぁぁぁん!』
私は泣き叫んだ。両親を亡くした悲しみで、殺した相手が憎くて、私の心が壊れそうだった。その時ー
男が私をあやすように抱きしめてくれた。その男の顔は、なんだか、泣いているように見えた。
『‥‥ゴメンな‥‥本当にゴメンな‥‥』
何度も、何度も、男は私に謝った。そして、私が泣き止むと、こう言った。
『‥‥お前は強く生きろ。両親の分も強く生きろ。でも、苦しい時もあるだろう。その時は、俺の名前を呼べ。そうすれば、俺はどこにいても、お前を助けてやる。いいか?俺の名前はーーーー』
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「う‥ううん‥‥‥‥」
遠藤遥香が目覚めたのは、病室のベットの中だった。
(あの時の夢‥‥なんで今頃‥‥)
「‥‥っ!私は‥‥」
(そうだ‥‥あの時‥‥彼の声が聞こえた瞬間‥‥私は‥‥)
自分は負けたのだ。その事がひしひしと伝わってくる。
その時、病室の扉が空いた。そこから入ってきたのは‥‥‥‥
「お、目覚めたか。大丈夫か?」
遠藤を倒した相手‥‥藤城晶だった。
「っ!貴方!何をしたの!Fランクが‥‥落第生が!Sランクに勝てるはずない!ましてや八属性得意の私に‥‥」
「おいおい、何慢心してるんだよ。」
「‥‥慢心?」
「そう、慢心だ。なんで霧が発生した瞬間に、風魔法を使わない?風魔法じゃなくてもいい。最低限、自分の体を守ることぐらいはしてもいいだろう。例えば[火の鎧]とかな。」
「っ!」
そのとおりであった。霧が発生した瞬間、彼女は何もしていなかったのだ。いや、何も出来なかったという方が正しいのだろうか。瞬間的な状況の変化、それが彼女の思考を止めていたのだから。
「Fランクだから勝てない?Sランクだから負けることがない?ハッ!笑わせてくれるね。そんなもん、アテにしてられるか。戦い方なんて、いくらでもあるんだよ。定石通りの戦い方なんて、すぐに見破られて終わりなんだよ。」
「‥‥‥‥‥‥」
遠藤は、最早、何も言い返すことが出来ないと言ったように、晶の言葉を噛み締めていた。
「‥‥ああ、それと、掛け金の話だけどな。」
「っ!」
そうだった。この決闘は、ただの決闘ではない。互いに1度だけ、何でも命令できる権利を掛けて、戦っていたのだ。
「‥‥何でも命令するといいわよ‥‥何が望み?私を下僕にする?それとも、私のしょ、処女を奪う?上等よ!何でも言うことをー」
そう言って服を脱ぎ出した遠藤に、晶は、
「は?何を早合点してるんだ?」
「‥‥え?」
「俺はまだ何も言ってないぞ?なんで服を脱いでるんだ?欲求不満か?」
「っっっっ〜〜〜〜!」
遠藤は顔を赤らめながら、服を着直す。
そして、遠藤が服を着直し終わるのをみて、晶が言った。
「いいか?俺がアンタに命令するのはーー」
「‥‥‥‥‥‥」
「ーー俺と一緒に寮で暮らしてくれないか?」
「‥‥え?」
(‥‥それって‥‥彼とクラスっていうことだから‥‥つまり‥‥同棲‥‥‥‥)
途端に遠藤の顔が赤くなる。
その様子を見た、晶は慌てて修正する。
「うん、何を勘違いしてるのかは知らんが、俺が言いたいことは、俺を寮から追い出さないでくれっていうことだぞ?」
「‥‥え?」
「いやいや、もうソファで寝るのも腰が痛いしさぁ‥‥ベットで寝たいんだよ‥‥だ・か・ら、これからヨロシクな!遠藤!」
そうして、晶は手を差しのべるのだった。