学院長
入学式のあった日の夜。俺は風魔法[飛翔]を使い、今後のことを相談するため、ある場所へと向かっていた。
「お、見えてきたな。‥‥‥‥それじゃあ、突撃しますか!」
そう言って、俺はある部屋の窓へと体当たりする。
ガッシャーン
「おらぁ!」
そんな掛け声とともに、窓から侵入‥‥もとい、特攻した訳だが‥‥
「‥‥アンタは毎回毎回‥‥そんな入り方しか出来んのかえ?」
「まあまあ、そうカリカリすんなって婆ちゃん。」
「誰が婆ちゃんじゃ!この見た目で婆ちゃん言うなや!」
今回、俺が向かい‥‥いや、特攻した部屋は、この学院で一番偉い人の部屋。つまり、理事長室だ。
「そんな事よりも‥‥コレだよコレ!」
「ん?ああ、その事かえ?」
理事長はいつもと変わらず、幼女の容姿で、着物を羽織り、独特のしゃべり方をしている。
「そ・う・だ・よ?何で俺の部屋に他の人入れちゃうわけ?危うくキレてバレるところだったんだよ?」
「くっくっくっ。お前さんをキレさす程の逸材じゃったか‥‥」
「あれ、どこのお嬢様だよ‥‥人の話をまるで聞きやしねぇ。」
俺が出したのは、さっき、俺の部屋に侵入してきた、あの女の持っていた紙だ。
「お前さんの方がよっぽどカリカリしとるわい。」
「うるせぇよ‥‥他に空いてる部屋ないのか?」
「スマンのぅ‥‥あいにく、今年は新入生が多くての。空き部屋が一つもないのじゃ。」
「なんでよりにも寄って俺の部屋なんだよ‥‥」
「ゴチャゴチャとウルサイのぅ‥‥そこしか空きがなかったじゃから仕方が無いじゃろう。諦めて、その娘と一緒に過ごすんじゃな。」
マジかよ‥‥俺の精神が持たねぇぞ‥‥ってそんな事よりも‥‥
「なぁ婆ちゃん。」
「なんじゃ?イツ‥‥晶?」
「俺、今日その娘に魔法決闘申し込まれたんだが‥‥」
「‥‥‥‥受けてないじゃろな?」
俺は反射的に目をそらした。
「‥‥‥‥どうするんじゃ?」
「‥‥どうもこうもねぇよ‥‥負けたら、何でもいうことをきかされる権利だぜ?勝たなきゃいけないだろうよ。」
「‥‥ほうか」
「そこで婆ちゃんに頼みがあるから来たんだ。」
「‥‥言うてみぃ」
「この決闘、婆ちゃんの魔法で隠蔽してくれない?」
「‥‥確かに‥‥アテの固有魔法ならそれも出来るがな‥‥」
魔法には二つの種類がある。一つは属性魔法。主に、八個の属性からなる、基本的な魔法である。そして、もう一つが、固有魔法だ。これは、個人が持つ魔法で、生まれながらにして、持っている魔法である。属性魔法とは違い、様々な効果を生み出せる。
理事長の固有魔法は[偽装魔法]。対象の認識などを欺ける魔法だ。
「お主‥‥風魔法だけで、勝てるじゃろ?」
「‥‥まぁね‥‥バレた?」
「はぁ‥‥じゃあ、偽装の方はなしということでいいかの?」
「‥‥ああ、押しかけて悪かったな。あとは自分で何とかするわ」
「ホンマにのう。今度来る時は、ドアから来るのじゃぞ?さもないと‥‥」
「うっ!?わ、分かったよ‥‥だから、その指をこっちに向けないでくれぇ!」
あの魔法にやられたらヤバイ!俺は危険を察知して、元来た道‥‥空を飛んで戻ったのだった。
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「‥‥あやつも昔から変わっておらんのう‥‥柏原樹よ。」
あとに残されたのは、そんな幼女(見た目)の呟きだけだったーーーーー