それを恋と呼ぶのなら
何があったわけじゃないのに、体が熱くなる。それは突然の出来事で、僕は自覚することはなかった。
いつの間にかに季節が移り変わってたみたいに、いつの間にかに曇り空が晴れていたように。暖かで、柔らかな心地が胸を襲う。迫ってくる。ゆっくりと歩く兎を全力疾走で追いかける亀のように。追いつくことはないのだけれど、妙な焦燥感があるのだ。
熱くなったり、冷たくなったり、自分自身が制御できない。酔っ払ったわけではない、そもそも僕はお酒を飲んだことがないからよくわかないけど。でも、きっと、酔っ払うってこんな感じなんだろう。ふわふわして、無重力、無意識に鼓動は早く強くなっている。たぶん、そんな感じだ。
ふとした瞬間に幸せになる。ちっぽけなことに幸福を得るのだ。今の僕は幸せのハードル三十センチにも満たないのだろう。
きっと、幸せを感じない人は幸せのハードルが高すぎるのだろう。超えられないハードルに向かって立ち向かって、足を引っ掛けて、打ちひしがれて、転んでいくんだ。
ちっぽけなことで幸せを感じられるのならば、満たされるんだ。満たされない人は、ささいな幸せを見逃して、切り捨てているのだろう。
暖かくて、柔らかな。そんな心地を、自ら捨てている。それほどもったいないことはないと思う。
ささいな日常、フツウのシアワセ。
ちょっと目が合っただけでいい。挨拶だけでも交わせたらもっといい。
それだけのことで心臓は早鐘を打ち、体温は氷を昇華させそうなほど。
――それを恋と呼ぶのなら