他人の日記
某月27日
幼馴染のSさんと飲みに行った。
仕事先も派遣先も同じだけど、課が違うので滅多に会えない。
こうやって飲みに行くのも、もう、何ヶ月ぶりだろうか?
最初はSさんの娘自慢や、俺の嫁さんのドジ話で盛り上がっていたが、後半、湿っぽくなった。
ここのところ、不可解な事件が類発してるからだ。
あまりにも不可解なため、世間には一切発表されていない。
正直な話。その一つに関わった俺から言わせても異常すぎて、今だに納得できてない。
死人が歩いた。
与太話や、偽装工作ならいざ知らず“本当に歩く”なんて考えられない。
だが、調べれば調べるほど、その“ありえないこと”を裏付ける証拠しか出てこない。
飲まなきゃやってられない と零すSに俺も同意する。
某月2日
遊園地で大きな事故があった。
事故……と表向きは成っているが、怪しい面が多く、テロの可能性があると本庁からお偉いさんが派遣されてきた。
検死作業も手が足りないので、応援を呼ぶことになった。
明日からはこの地獄のような忙しさも、少しは和らぐだろう。
某月16日
犯人が捕まった。
鬼畜趣味のゲームやマンガを多数所持したオタクらしい。
おまけにネクロフォビアまで発症してるときた。反吐が出る。
ただ、疑問点も多い。
上層部の動きが慌ただしく、関連事件のカルテを全部、本庁からきたお偉いさんに持っていかれた。
何が起こっているのだろうか?
某月18日
被害者の検死が終わった。
見るも無残な状態だったが、それはこの際どうでも良い。
問題なのは、推定死亡時刻が数時間前ってことだ。
ありえない。
それに、この子は先々月の事故で無くなったはずなのだ。
当然、とうの昔に火葬され遺体が残っているはずもない。
関連した葬儀屋、火葬場、病院を洗うことを、Sさんに薦めた。
某月18日
Sさんが辞職した。
なんでも重要な証拠品を紛失した責任を取らされたらしい。
一連の事件に娘さんが巻き込まれ、悲しみに暮れていた矢先のことだ。
明日は非番だ、家を訪ねてみよう。
某月19日
色々と話し合った結果。
Sさんに協力することにした。
某月29日
探偵業を始めたSさんに、一連の事件の資料のコピーを渡した。
危ない橋を渡っている自覚はあるが、引き返す気はない。
見返りもないのにバカなことをしてると思うが、ここで終わらせる訳にはいかない。
嫁さんには実家に帰ってもらった。
離婚も視野に入れている。様々な意味で、巻き込みたくないからだ。
某月4日
極めて信じがたい事だが、ソレを前提としなければ、一連の事件の解決は不可能だとSに諭された。
医学者として信じていたモノが崩れる音が聞こえた。
某月19日
Sが消息を絶った。
来るべき時が来たようだ。
元凶と思わしき“書”を手に入れた直後から連絡が取れない。
無駄だとは思うが、一連の事件を纏めた報告書と辞表を上司に提出しよう。
その後は、黙ってSの後を追うことにする。
妻よ。そして、まだ見ぬ息子よ。幸せにな。
某月20日
―日記は、昨日で終わっている―