家人の日記
家人の日記
某月3日
妹が帰って来た。
父親が死んだことで、生活費が減った。保険が降りるまで贅沢は出来ない。
車どころか、バイクも買えない。
でも、妹と一緒に暮らせるのが嬉しい。
母も喜んでいるようだ。
某月8日
最初は人見知りしてた妹も、だいぶ懐いてくれた。
「お兄ちゃん」と呼ばれるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
某月10日
友人から本を預かった。ラテン語で書かれた本だ。
貴重品らしいので、家族の手の届かない所に仕舞うことにする。
某月13日
妹は元気が良い。むしろ良すぎるかもしれない。
朝起こしてくれるのは良いが、ダイブするのはやめて欲しい。
たしかに、遅刻が減ったのは認めるが・・・・・・・。
某月15日
植物園に妹と行った。
課題の資料集めだ。妹はおまけ。
植物園にいくと言ったら、ついてきた。
予想外に楽しんでる様子だ。作業のために、相手をあまり出来なかったのが悔やまれる。
某月18日
ラテン語の講義を選んだ。
特に理由は無い。
某月21日
人見知りが災いしてか、妹には友達が少ないようだ。
外に遊びに行くことがあまりない。
家の中では元気なのだが、外に出ると大人しくなる。
人のことをどうこう言える立場ではないが、なんとかしてやりたいものだ。
某月23日
月末にはバイト代が出る。生活費に回すべきだろうが、やめた。
次の休みに、遊園地に行こうと、妹を誘ってみた。
喜んでるようだ。
一食抜く程度で、この笑顔が見れるなら安いものだ。
某月24日
休日に、妹と遊園地にいくことを友人に話した。
笑われた。
写真を見せたら一転して、ついて来る風に言ってきたが、きっぱり断わった。
某月1日
明日は遊園地。チケットは用意した。フリーパスもだ。
だが。誤算が一つ。
バイト先からヘルプが入った。
仕方ないので母に代わって貰うことにする。
友人のD。サボッた訳が、くだらない理由だったらタダじゃおかない。
某月9日
妹が死んだ。
某月10日
母も死んだ。危篤状態にあったので覚悟は出来ていたが……辛い。
父の保険金もおりた。当面、生活費に困ることも無い。
それに破格の賠償金もおりるはずだ。
これでバイトする必要もなくなった。
某月11日
友人に誘われ飲みに行くことになった。
だが、断わるつもりだ。そんな気分になれない。
某月12日
友人が居なくなった。
アレからそのまま失踪したらしい。
預かった本はどうしたものか?
某月13日
ラテン語の講義が役に立った。
・・・・・・予感があったのかもしれない。
某月23日
妹が還って来た。
某月24日
妹は相変わらず元気だ。
友達が少ないのも、外出をあまりしないのも幸いだった。
某月26日
妹の反応が悪くなってきた。ろれつが回らないようだ。
某月28日
電気工事があった。
停電。これは致命的かもしれない。
某月29日
隣から臭いと苦情が来た。
さっそくホームセンターに行くことにする。
某月30日
久々に妹の「言葉」を聞いた。
不覚にも涙がこぼれた。兄の威厳が台無しだ。
某月31日
隣が騒がしい。
飼い犬が居なくなったらしい。
庭に血が残ってたため、大騒ぎしている。
妹が――――のか?
某月2日
中華だか漢方だかで、体の悪いところを直す方法を聞いた。
なんでも、悪い部位と同じ部位を食べると良いらしい。
肝臓ならレバー。足なら豚足。目ならマグロの目玉。と言った具合らしい。
―――――深く納得した。
某月4日
再び、ろれつが回らなくなった。
それと、防腐剤にも限界があることを知った。
某月6日
そろそろ終わりのようだ。
ふと、窓から外を見た。
とおりを歩く人々の姿。元気そうに歩く姿。
親子連れ。友達同士。恋人たち。どれも楽しそうだ。
視線を逸らす。これ以上は見ていられない。
妹はすでに、妹の面影しか残っていない。
決断の時が来た。
某月7日
元気に庭で遊ぶ妹を見るのは久しぶりだ。
やはり獣と人では質が違うらしい。
いい笑顔だ。この笑顔のためなら、片腕くらいなんてことない。
某月10日
熱が引いたようだ。
痛みにも慣れた。
妹は無邪気に笑っている。
某月15日
言葉を聞きたい。だが、それは無理。
松葉杖を注文した。明後日には届くだろう。
届く前に、外の用事をなるだけ済ましておこう。
某月18日
気候のせいか、それとも足りないのか、サイクルが縮まってる気がする。
車椅子を買うつもりだったが、間に合いそうに無い。
外出も今日限りだ。
某月22日
これが最後の日記となると思う
妹がこれからどうなるか分からない。
自分にはもう何も出来ない。
妹は笑っている。
本当に笑っているかは分からない。
分からない。
どうすれば良いのか、分からない。
どうすれば良かったのか、分からない。
某月23日
も ―― ちど
女未 ノ ―― 二 お 口 ちゃ― と よ ―ん― ―谷欠 か―― た ○
某月25日
お兄ちゃん。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい――――――――――でも、お兄ちゃん。美味しかったよ・・・・・・。
某月28日
かゆうま ってか? ワロスw
某月29日
―日記はここで途切れている―