表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編小説

ある男の回想

作者: 斎藤康介

独り言が書きたかったのです。

設定に意味はありません。

「遅れてすみません。講義が長引いたもので。

 この後、バイトがあるんであまり長居はできないんですけどいいですか?

 すみません。

 アイスティー……ミルク、以上で。

 それで『吉村一輝』についてですよね。

 初めに訊いておきたいんですが、吉村が何かしたんですか?

 話訊きたいって言われてから昔の友達に吉村のこと訊いてみたんですけど誰も連絡先とか知らないし、ほらこんなこと訊かれることなんて普通じゃないじゃですか。

 ほら最近嫌な事件が多いですし。

 その中に自分の知り合いが関係してるなんてあまり気分のいいことでは……。

 別に何の容疑者とかではないんですか?

 ……そうなんですか、分かりました僕の知ってることでよければお話します。


 吉村とは中高校が同じでした。

 同じといってもクラスが一緒だったのは中学時代に二年間だけ、高校では一緒になったことはありません。

 印象ですか……そうですね、大人びてるというか、落ち着いた雰囲気がありました。

 でも付き合いにくいとかそういうことじゃなくて、吉村の家って古い家柄らしくて、そういう歴史みたいなものが自然と身についてるような感じでした。

 女子には人気ありましたよ。

 顔もよかったし、頭も悪くなかったですし、何より強かった。

 これは噂なんですけどね、中一の時に自転車盗んだとかなんだとかといって、三年生にいちゃもんつけられたらしいんです。

 それでどこか連れて行かれそうなんですけど、逆に全員を倒したって話です。

 その時は結構な話題になって、三年生が包帯を巻いてるのを見たとか、実際に喧嘩を見たとか話が広がったんですけど、結局は本人が話さないし学校でも話題になることを避けたいみたいな感じで本当のことは分からないですけどね。

 流石に暴力事件の噂が流れた後は話しかけにくかったですけど、もともと気さくな性格でしたしすぐにもとの何事もない感じ戻りました。

 ああ、あと授業中によく空を見てました。

 一度、吉村があまりに空ばかり見て授業を聞いていないんで先生に注意されてたことがありました。


 高校の時は、先ほども言いましたがクラスは同じではないので詳しいことは分かりません。

 入学当初は同じ中学校出身、僕らの代は男子三人しかその高校に進まなかったんで、一緒に帰ったりしましたけどクラスに慣れてくると自然と話すことが減りました。

 その後一時期、吉村、学校に来てなかったときがあったみたいで、いつからだったから、確か七月なのに雪が降ったころだから高二の夏かな。

 知らないですか?

 僕らの住んでた地域、夏のなのに雪が降ったときがあったんですよ。

 結構な数のテレビが来て取材してました。

 僕もインタビュー受けたんで覚えてます。

 丁度テスト期間中で、気になって勉強が手に付かないって冗談で言い合ってました。

 たぶんあの時くらいからです。

 その後、久しぶりに姿を見たのが高二の終わり頃。

 びっくりしましたよ。廊下ですれ違ったんですけど、全然雰囲気が変わって。

 髪はボサボサ、何よりも目が違ってました。

 目に奥行きがないっていうか、平らな皿みたいなんです。

 死んだ魚みたいな目ってああいうこと言うんですね、きっと。なんだか声かけ辛くなって話しかけずにすれ違いました。その後のことですか、三年には進級してましたよ。

 たぶん補習とか受けたんでしょうね。

 でも校内で姿を見かけてもいつも一人でした。卒業はしてるはずです。けど卒業式は来てないんじゃないかな。

 もう一度訊きますけど本当に吉村がなんかしたとかじゃないんですよね?大丈夫なんですよね?

 ……わかりました。

 こんな風に吉村のことを思い出すと、中学校の時にあった三年生を倒したって噂は本当だったんじゃないかと思えてきます。廊下ですれ違った時に見た目は普通じゃなかった。

 すみません。そろそろバイトに行かないといけない時間なんで…。

 ご馳走様です。

 失礼します」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ