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一章『青の騎士』 第一節 

パチパチと木々が音を立てて燃え盛る中、それとは異なる轟音が当たりに響き渡る。


それと同時に辺りの木々がなぎ倒され、黒い影が弾かれたように飛んでいく。


その黒い影の正体は黒い武者の人型…… しかし、人間ではない。


腹部に裂傷が走り、腕が千切れているのに気にするそぶりを見せないのは果たして人と呼べるのか? ………答えは否。 


事実、黒い武者は斬られても血を流すことなく戦闘を続行している事から見ても人ではないと言えるだろう。


そんな人形ひとがたが数十体、この轟音の主にジリジリとにじり寄っていくが……


「っ!!」


その身を砕かれながら数体まとめて薙ぎ払われていく。


流石に人形も原型がなくなるまで破壊されれば動きを停止するらしく、辺りを良く見れば動いているものよりもはるかに多くの人形が大地に倒れていた。


地に伏せるその中の一体が立ち上がろうとしたその時――


ゴシャリと鈍い音を立ててと頭を叩き割られる。


その頭を潰したのは銀に輝くハルバード。


刃の中心を青い宝玉で飾られたそれは人の手では余るほどの重圧を醸し出していた…… が、重圧の大半はその使い手から発せられていた。


黒の人形が和を思わせるのなら、その使い手は西洋…… 重厚な騎士を思わせるものだった。 青の宝玉と同じ色のフルプレートの甲冑で身を固め、背には紋章を記されたマントをはためかせる騎士…… それが先ほどから響く轟音とこの重圧の原因である。


「……」


青の騎士は得物から伝わる手ごたえから息の根を止めたのを確認すると、すぐに他の人形を得物で薙ぎ払おうとするが………


「――っ!?」


力が抜けたようにその場に片膝をついてしまった。


よく見ると騎士の鎧は所々傷が目立っており、なにより肩が激しく上下していた。


己の得物を杖のように突いているところからも騎士の疲労具合が見て取れる。


勿論―― それを見逃す人形ではない。


これを好機と考えたのか青の騎士の背後に一つの黒い影が飛び掛る。


「っ!?」


騎士は殺気を感じ一瞬で反応するのだが…… 疲労のあまり身体が動かなかった。


このままでは、武者の刃が騎士の身体に突き立てられるのも時間の問題だろう……






その時だった。






「どいてえええええええええええええええええ!!?」


涙交じりの怒声が行き成り響いたと思うと。


黒い何かが飛び掛った武者を巻き込み、そのまま音を上げて木に衝突したのだった。


その光景を見て呆気にとられるながらも騎士は、何が起こったのか確かめるため黒い何かが止まった辺りをまじまじと見る。


そこには……


「大丈夫っすか!!? って、手が千切れてるぅぅぅぅぅ!!?」


両手で白いタオルを巻いた頭を抱え、サングラスから滝のような涙を流す黒い何かの正体だろう男が……


「きゅ、救急車!? 救急車ハリィィィィーアァァァァップゥゥゥゥ!!?」


一人叫んでいたのだった――






………

………

………






(やっ、やっちまった……)


男―― 章太郎は酷く混乱していた。


それもそうだろう、自身の運転したバイクで人を撥ねてしまったのだ…… それも見るからに相手は重傷………


頼りになる相棒は――


「きゅぅ……」


自分の肩で眼を回している。


携帯を使って警察ないし救急車を呼ぼうにも耳から伝わるのは――


『おかけになった電話番号は――』


という無機質な声だけだったのだ。


「って、ここ異世界だったあああああああ!!?」


自分の現状に目の前が真っ暗になった章太郎は――


(どうしてこうなった………)


と数時間前のことを思い出していた。






………

………

………







「ここが、異世界か? ……って寒!? 」


光の扉を抜けた章太郎が呟く…… が、いきなり肌を刺す寒気に身を震わせる。


先ほどまで夏真っ盛りの世界にいた章太郎はいつものタンクトップ姿…… この格好ではいくら章太郎でも、吐く息が白い今の気温では堪えるだろう。


章太郎は寒さに震えながら腰に吊るされた小ぶりのポーチを開く。


そこには何本かのカプセルが詰められており、章太郎はそこから『衣服』と記されたカプセルを取り出した。


そして、カプセルのスイッチを押し光が照射されると…… 今まで何も無かったところに鉄製のロッカーが並んでおり、それぞれ『夏物』・『冬物』とかかれた紙が貼り付けてあった。


「上着、上着ぃ~と……」


鼻歌を歌いながら『冬物』ロッカーを開けるとそこから黒いダウンジャケット取り出し着込む。


最初はナイロンの冷たさにビクンと反応しながらも、すぐに羽毛が体温を吸収して温かさを保ってくるのを感じた章太郎は初めて辺りを見回す。


辺りは枯葉を散らす木、木、木…… なんも変哲も無い冬の森の光景であった。


(意外に普通だな)


霊術なんて未知なものがあるため、もっとファンタジーに満ち溢れていた世界を考えていた章太郎は少し肩透かしをくらいながらも、サングラス越しに冬の夜空を見上げる。


勿論空を見上げても月が二つあるわけでもなく、元いた世界と変わらない月が一つ夜空に浮かんでいた。


「やはり…… 不思議なものだなそれは」


ロッカーをカプセルに収納した章太郎の足元からバディの声が届く。


「不思議って…… 俺にしてみりゃ霊術の方が不思議で仕方ないけどな。 だけど何で不思議なんだ? お前って俺の記憶を持っていたんじゃねえの?」


「記憶は確かにあるが、それはお前の記憶であって私のものではない。 その上、私は誕生したばかりだからな…… 私にしてみれば眼にするもの全てが新しいものばかりなのだ」


「へぇ~」と言葉を漏らす章太郎を尻目にバディは辺りを見回すと――


「転移は成功したようだな」


と確認するように言う。


確かに、さっきまでいた板張りの道場から夜の森に移動しているのだ転移自体は成功したのだろう…… しかし、章太郎は疑問に思っていたことがあった。


「なぁ、バディ…… 聞きたい事があるんだが?」


「どうしたのだ?」


自分の肩に乗る相棒は首をかしげながら応じる―― その仕草は小動物を髣髴させるほど愛くるしい。


動物好きの者が見れば一瞬で陥落するほどの威力を放っていた。 


(…… こいつの外見のベースになったのって鎧竜だったよな?)


バディを見ながら、以前相対した鎧竜の姿を章太郎は思い浮かべる…… が、あの雄雄しい姿がどうなったらこんな姿になったのか検討がつかなかった。


本人? に聞けば何かしらわかると思ったが――


(って、違う違う。 聞きたいのはこれじゃなくて……)


軽く首を振り、改めて章太郎は尋ねる。


「寒いし、景色も変わったから転移したのはわかるんだけどよ…… ここどこよ?」


その言葉を聞いたバディは一瞬耳をピクリとさせそのまま沈黙する。


前もこのような問答をして、同じような流れになったのを思い出した章太郎。


(あっ、なんか嫌な予感)


こんな事を考えているとバディは沈黙を破り、発した言葉は―― 


「知らん」


だった。


(やっぱそういう流れなのね……) 


ほんの数日前と同じ返答に米神を押さえる章太郎。


「だが、心配しなくていいぞ」


章太郎のそんな姿をよそにバディは告げる。


「? どゆこと?」


「道場内で力場の調節をしている時にな最初の利用者の霊力…… つまり、お前の兄弟のものだな。 その残照を覚えておいたのだ、これを追って行けば必然的に目標までたどり着く」


その説明を聞いた章太郎は気の抜けたように「…… まるで警察犬だな」と口に出す。


しかし、バディは憤慨する様子も見せず逆に「あながち間違いではないな」と肯定の言葉を章太郎に返す。


「いいのかよ、犬と同じ扱いで……」


「今の私の外見は限りなく獣に近いからな…… 別にどうと思わん」


「さいですか……」 


「まぁ、わかるといっても今は大まかな方向ぐらいだがな…… ふむ、こっちだな――」


何かを感じたのかバディは片手を挙げ、おもむろにピッと方向を示す。


それをみた章太郎は、自分の履く黒のニッカボッカのポケットに手を突っ込みそこから携帯電話を取り出し操作するのだが……


「ありゃ?」


「どうした?」


「いや…… な。 携帯に方位磁石の機能があったから使ってみたんだけど……」


そういって携帯の画面をバディに見せる章太郎。


携帯に映った方位磁石の針はクルクルと回ってその機能を働かせていなかった。


「駄目だなこれは…… 普通の奴は無いのか?」


「あると思うんだけど…… 探すのが面倒」


「……何故?」


「なんつーか、準備期間って結構短かったじゃん? だから荷物も結構、大雑把に詰め込んじゃったから……… 何処に何があるかわかんねぇ」


「ハッハッハッ」と白いタオルに包まれた頭に片手を添えて笑う章太郎。


それを見たバディは片足を額に当てて溜息を漏らしていた。


「まぁいいじゃん、いいじゃん? 方向はわかってんだから!」


「…… なぜここでバイクを出す?」


「へ? そっちの方が速く移動できるんじゃね?」


「森の中だぞ?」


「ああ~ 大丈夫、大丈夫。 こいつならどんな悪路でも走行できる上に故障してもパーツはちゃんと持ってきてるからな。なんとかなるべ!!」


「いや…… 普通に危ないだろう?」


注意するバディを気にすることなく、章太郎は『バイク』と書かれたカプセルからそれを取り出すと早速跨りエンジンを噴かしていた。


「よっしゃ! 準備は万端!! 待ってろよぉ…… 勇馬と安寿!! 兄ちゃんが今行くからな!!」


キラキラと希望に輝きながら章太郎はバディの指差した方向に叫ぶ。


そんな様子を見てバディは一息つき「やれやれ…」といった風に章太郎の肩に飛び乗るのだった――






………

………

………






(ここまでは、ここまでは良かった…… しかし、現実はなんと残酷な事か!)


涙をチョチョぎらせながら頭を抱えその場に蹲る。


(何か音がするからと言ってバイクの速度を上げた結果、大きく張った木の根でタイヤがバウンドし、一瞬宙に浮かんだと思ったら気がついたら人身事故…… 俺の馬鹿!!)


「すまねぇ、二人とも…… 俺はここまでみたいだ……」


「ヌオオ!」とその場で章太郎は苦悩の声をあげる―― 今彼の脳内では法廷で裁かれるところまで進行していたが……


「ここは…… って、馬鹿者! 上を見ろ!!」


「へ? 上?」


眼を覚ましたバディの慌てた声に反応し、間の抜けた様子で顔を上げる…… そこには――


身を固める鎧を半壊させながら刀を振り上げて襲い掛かる武者の姿があった。


「でえええええええええええ!? 生きてるぅぅぅ!? だけどやっぱり怒ってるぅぅぅぅぅ!? ま、待て!? 話せばわかる!! 今動いたらあんたもやばいんだから!? そんな物騒なもんしまって!? もっ、もちつけ!? じゃなかった、落ち着け!! 人類皆兄弟! ラブアンドピース! ラブアンドピィィィィスゥゥゥ!!」


「お前が落ち着け!! っ!? 来るぞ!!」


幽霊とかホラー、オカルト的なものがかなり苦手な章太郎…… 自分が轢き殺したと思っていた相手が立ち上がり自分に近づいてきているのだ。


まさにオカルトチックな光景にビビりながら章太郎は意味不明なことを口走り、バディは落ち着かせようと声を張り上げる。


しかし、武者は構うことなく章太郎に近づ――


グシャ!!


くことは出来なかった。


章太郎に襲い掛かろうとしていた武者は、飛来した『何か』にその胴体を破壊されその機能を停止したのだ。


「えっ!? へっ!?」


章太郎は混乱しながらも武者の残骸と飛来した『何か』―― 銀のハルバードとそれを投げた青の騎士を順に見る。


(これ…… 人じゃない?)


残骸を見た章太郎はすぐに気付く…… それもそうだろう血も出ない上に中身が空洞なのだアホでも気付く。


(助けてくれたのか?)


次に得物を投げた青の騎士を見る―― が


(後ろ!?)


騎士の後ろに先ほどと同じ黒い武者の人形が近寄っているのを確認したのだ。


「っ! バディ!!」


章太郎は肩にいる相棒の名前を呼ぶ。


「正気に戻ったか!?」


「応よ! ……あの黒いのは人間じゃないんだな!?」


「ああ、生物の霊力を発していない! 青い方は生物みたいだぞ!」


「オッケー、把握した!!」


「助けに入るのか?」


「当たり前!!」


地面に突き刺さったハルバードを引き抜く章太郎―― それを片手で担ぎ上げると彼は………


「とぉつげきぃぃぃぃぃ!!」


騎士に飛び掛らんとする黒い武者に向かい走り出すのであった。


一方、章太郎を助けるために得物を手放した騎士は自分に迫り来る凶刃を防ぐ術は無かった。


万全の状態なら得物なしでもこの状況を切り抜ける事が出来たかもしれないが…… 数多の数の人形を葬ってきた騎士にはその余力は残されていなかった。


騎士は顔を下げることなく真正面から自分を刺し殺さんとする刃と対面する。


諦めたのか…… 騎士の矜持か……


死ぬのなら身体の正面の傷で―― と思われる程の気概を見せる。


だが騎士を嘲笑うかのごとく黒い影は、炎で妖しく照り返す白刃を振り上げ―― その身を宙に舞わした。


その影実に四つ…… 本当なら致命傷とも言える四つの斬撃が騎士の鎧に刻み込まれ、その命を散らす予定だった。


しかし、それは……


「とぉつげきぃぃぃぃぃ!!」


第三者によって予期せぬ結果に終るのだった。


「「「「!?」」」」


感情の無いはずの人形が一瞬それに反応する…… 


だが思っても無かった。


その一瞬が……


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


自分の体と飛び掛っていた他三体の身体を永遠に分断される事になるとは……


「………」


吹き飛ばされながらも、武者は光を映さないその眼で第三者の姿を見る。


そこに映ったのは、自分達を屠った巨大なハルバードを振り切った短躯の男が騎士の前で立ちはだかる姿だった――


「おい! アンタ大丈夫か!?」


男―― 章太郎は背中越しに目配せしながら騎士に離しかける。


「……」


騎士は表情こそわからないが一瞬呆けたような間をとった後、章太郎に答える様に首を縦に振った。


「よかった…… 目の前で自分の恩人に何かあっちゃあ、気分悪いからな―― ホレ」


顔を半分だけ向けながらニヤリと笑い、章太郎は手に握っていたハルバードを騎士に渡す。


「まぁ、お礼とか聞きたい事が色々あるわけだが…… とりあえず――」


「章太郎、来るぞ!」


バディの声を聞き章太郎が前を向くと先ほどと別の武者が森の陰からワラワラと集合していた。


「恩人の敵は俺の敵って事で――」


「こいつらをぶっ潰してからにするかねぇ!!」そういうと章太郎は頭のタオルを剥ぎ取る。


その代わりにポケットから取り出した黒地に赤文字が書かれた手拭を頭にキツク縛ると――


「よっしゃ…… かかってこいやぁ!!」


黒武者達に向かい咆哮するのだった。






………

………

………






(といったのはいいけど……)


「流石に多いか……」と一人呟く。


武者の数は五十近くまでその数を増やしていた…… そして先ほど章太郎が倒したモノとは明らかに違う身体や得物の大きさも一回り大きく、そのカラーも禍々しい黒と漆塗りの武者の人形がその中に混ざっていた。


(さっきのが足軽とかの下っ端だとしたら、こいつは実質的な指揮官…… 徒大将とかかねぇ?)


赤い徒大将―― 赤武者は腰の得物を引き抜くとその切っ先を章太郎に突きつける…… すると他の武者が一斉に章太郎に襲い掛かってきた。


「………っ!?」


青の騎士はその光景を見ると戦闘に参加しようと立ち上がろうとするが――


「大丈夫だ!!」


章太郎の声を聞いて動きを止めた。


「こんぐらいだったら何とかなる! だから、アンタは……」


「そこで休んでな!!」そう言いながら章太郎は迫り来る黒の集団に駆け出していく。


途中切りかかって来た一体の腕を掴むと、章太郎は獰猛に笑い――


「でええええりゃっ!!」


そのまま得物のように他の武者に叩き付けた。


倒れた武者の頭を踏み潰し、再生させないように追い討ちを掛けるのを忘れない。


こうして二体、三体と潰していく章太郎だが――


足元に数本の矢が突き刺さった。


「――っちぃ!!」


飛んできた方向に目を向けるとそこには弓を構えた数体の黒い弓兵の姿があった。


手に持っている黒武者の残骸では投げつけても致命傷を負わせられない、だからと言って放っておくのも面倒ということである。 


『あっちの世界』でごたごたに巻き込まれた時も光り物を使う輩に何度か遭遇しており、それによって章太郎に身体に傷が残っていたりする…… といっても章太郎に傷を負わせる人間と言うのは大抵が達人級かそれに近いレベルだったというのをここに記しておこう。


しかし、いくら人間離れしていると言っても章太郎は『人間』…… 風邪も引くし、刃物で切られたりしたら血は出るし痛いのだ。


「斬られた時に筋肉に力を入れれば血は止まるけど…… 」と本人談ではあるが……


(できる事なら切られたくないし、射られたくないんだよなぁ)


と言うのが本音である。


(近づけば何とかなるけど……)


距離が開いている上他の武者が弓兵を守るようにしているためかなり手間がかかる。


(少し位貰っても仕方ないか?)


そう考えて突撃の姿勢を見せる章太郎…… しかし――


「私に任せて置け」


章太郎に肩にいたバディは言う。


「どうにかなるのか!?」


大上段で切りかかって来た敵の頭を左手で握りつぶしながら章太郎は答える。


「ああ…… 見ていろ!」


そういうとバディは一瞬眼を閉じると次の瞬間「カッ」と見開き――


「『鋼の槍』!!」


と言い放つ。


すると弓兵の足元の大地が盛り上がり、そこから鋼色した金属が弓兵の胴体を一斉に貫いたのだった。


「なんじゃそりゃぁ!?」


戦闘中だが大口を開けて驚く章太郎…… しかし、その手は休むことなく武者に攻撃を加え続けている。


「鎧竜の使う霊術だったらしくてな…… 転移の準備中に思い出して使えるようにしておいたのだ」


「ってことは…… 元々、鎧竜の技って事?」


「そういうことだ…… まぁ、お前が倒した奴は知性が無かった分霊術が使えなかったみたいだがな?」


「……使えたら確実に死んでるっちゅーんじゃ!!」


「違いない! ……まぁなんにせよ、これで相手が少し遠かろうが心置きなく攻めれると言う事だ!」


「オーケー ……離れた奴は任せた!!」


「応!」


黒の集団を一人と一匹が蹂躙する。


一体は顔を握りつぶされ――


一体は殴り潰され――


一体は胴体に穴を開けられ――


一体は得物代わりにされた挙句、原型がなくなるまで振り回され――


それを繰り返しているうちに黒い影はその数を減らし…… 指揮官だろう赤武者だけが残った。


「さて、残るはあいつだけだな?」


手をパンパンと払いながら章太郎は大刀を振り上げて向かってくる赤武者を見る。


重厚そうな外見に反してその動きは俊敏と言ってもいいだろう。


「『鋼の槍』!!」


先手必勝―― バディは走ってくる赤武者へ霊術を放つ。


重い衝突音が轟く。


赤武者は行き成り出てきた障害物に対応できず、腹部を強打した後仰向けに倒れた。


しかし、これで決まったわけではない。


さっきまで黒武者の腹にどてっぱらを開けていた槍は赤武者のそれを貫く事は出来ず、鎧に大きな凹みをつけるだけだった。


「流石に雑魚とは違うようだな」


それを見たバディは呟く。


しかし、その顔はどこか余裕であった。 


「それじゃ、後は頼むぞ章太郎?」


「えっ!? 俺!?」


行き成りバディに丸投げされ戸惑う章太郎。


「当たり前だろう? 今の私の最大攻撃でも仕留め切れなかったのだ…… この中で一番の破壊力を持つだろうお前に止めを任せるのが当然だろう」


「………ったく、しょうがねぇ!! あちらさんもやる気みたいだしな!」


両手で自分の頬を軽く叩き気合を入れ、立ち上がってきた赤武者に視線を向け――


「最初から全力だ、この野郎ぉぉぉ!!」


間合いを詰めて自分の間合い―― 『弾丸チャージ』に入れる所までつめる。


幸い、相手も近接武器…… 章太郎が間合いに入るにはさほど問題は無かった。


「だりゃ!」


間合いに入ると同時に章太郎は爆発的に加速し、真っ直ぐ赤武者に突撃する。


「……」


赤武者は激しい緩急に対応できず大刀を振りかぶった姿勢のまま――。


「ぶっとべぇぇ!!」


肩から突っ込んできた章太郎に吹き飛ばされる。


その衝撃はバディの『鋼の槍』の比ではなく、先ほどの衝突が軽自動車同士ならこれはまさにダンプカーと軽自動車の激突を思わせるものだった。


いや―― 章太郎自身小柄であるため、ダンプカーとは言えない…… 見た目は軽だが重量と頑丈さとエンジンがダンプカーといえるだろう。


そんな存在にフルスピードでぶつかった軽自動車はどうなるか? 


答えは勿論…… 大破   のはずだが――


「はりゃ? 結構頑丈だねぇ」


赤武者はかろうじて原型を留めていた。 


………といっても腹部には亀裂が入り、腕と足はひしゃげ、得物の大刀も半ばから折れてしまっている状態である。


対する章太郎はピンピンしており、取り出した煙草に火をつける程の余裕を見せていた。


「気を抜くな章太郎!!」


そんな章太郎にバディは叱責を飛ばす。


「ああ~ すまん、残心…… というより――」


「とどめ忘れてたわ」そう言って章太郎は煙草を咥えたまま、赤武者に近づくとその腕を取り――


「ちぇりゃあ!!」


その場で一回転二回転し遠心力をつけると赤武者を上へ投げ飛ばした。


上に飛ばされた赤武者はある程度まで行く引力に従い、物凄い速度で地面に近づいていく。


このまま叩きつけられれば赤武者も唯ではすまない―― しかし、章太郎の攻撃はまだ終っていなかった。


「いくぞぉぉぉ……」


一撃必殺の右を腰溜めに引くと章太郎は大地を蹴り、落下してくる赤武者を向かえるように加速すると――


「打ち抜けええええええ!!」


右拳を突き上げた。


落下の力と迎える力…… そして章太郎の馬鹿力で最高潮まで高まった破壊力を持つ右拳は、赤武者の鎧を轟音と共に砕いていく……


『ミサイルアッパー』その姿が迎撃ミサイルの用であったため、あっちの世界で誰かが名づけたのだ…… 章太郎は顔を真っ赤にして否定する。


「必殺技とか名前とか…… 背中が痒い!!」というのも本人談。


本来ならこの技…… 軍用スーツ等の耐久力が高い相手に放つものである。


勿論、相手は人間であるため手加減しないとかなり危ないのだが…… 幸い今の相手は人形―― その上、白姫に負けたフラストレーションが溜まっていた章太郎はフルパワーで叩きつける。


哀れ赤武者は原型を完全に無くし…… 唯の鉄屑になってしまったのである。


「よし! 俺、絶好調ぉぉ!!」


「どうだコンチクショオオ!!」とガッツポーズを決める……… と――


「まだまだ余裕、余裕ぅ!! 後三体ぐらい出てきても問題ないぜぇぇ!!」


と余計な事を口走ったのだった。


「馬鹿者!! 今そんなこと言った――」


バディが章太郎を何かに気付き叱責しようとするが…… 


バサバサという茂みの音で遮られる。


その音にビクっと反応すると章太郎はゆっくり其方を見る―― 


そこには―― 今倒した赤武者と同系統の武者が5体居たのだった。


おまけに…… さっきよりも明らかに多い黒武者達を引き連れてである。


「え~と…… ごめん、フラグ立ててた?」


「ダンタイサンイラッシャ~イ」と頬を引きつかせながら章太郎はバディに話しかける。


「フラグというものはよくわからんが…… あれだな、お約束という奴だな」


「デスヨネー」(うわ~ めんどくせぇ事になってきた…… 倒せない事は無いけど一気に来られたら流石に一撃ぐらいもらっちまうか?)


内心こんな事を考えながらも「やるしかないな」と章太郎は気合を入れなおし攻撃の準備にかかる。


だが――


「………」


その肩を青い鎧を纏った手が引き止める。


「あっ、アンタ…… 大丈夫なのか?」


いつの間にか騎士がそこに居たのだ。


回復したのか激しかった肩の動きは緩くなっていたのだ……


「でもアンタ動ける状態じゃ…… あれ?」


章太郎が何かに気付く。


それもそうだろう、あれだけ傷ついていた騎士の鎧が現在進行形で修復していってるのだ。


(…… これも霊術って奴か?)


そう考える章太郎に騎士は指を三本立てる……


「指?」


「いや、三分程持たせろと言う意味だろう」


章太郎は「?」を浮かべるがバディは意味を解したのか章太郎に伝える。


騎士は一回頷くと得物のハルバートを構えて集中し始める。


「そうか…… 章太郎!」


「え? 何!?」


「騎士殿が大技を放つからそれまでこの場を守る!! いいな!?」


「っ! おっおう!!」


よく見ると騎士の周りに青い霊力が集まっており非常に強い力を放っていた、赤武者達もそれに気付き騎士に襲い掛かろうとするが――


「おっと、やらせんよぉ!!」


章太郎に阻まれるのであった。






………

………

………






(なぁバディ!?)


(どうした!?)


(あの騎士さん? 大技使うって言ってたけど霊術なら結構厳しいんじゃないの!?)


(そうだな、騎士殿の纏っているのは『水』の霊力…… 辺りが炎と木々に包まれたこの力場ではかなり分が悪い…… だが)


(だが?)


(あの騎士殿…… かなり強い霊力を発している。 本人の素質と力量も高いが、何より宝珠の質がかなり高いものだと見た―― 章太郎、左から来たぞ!!)


「あぶねっ!?」と左からの斬撃を前転することで回避し、お返しと言わんばかりに手ごろな黒武者の足を握りその身体を斬撃の主に叩き付ける。


(んじゃ、この状況どうにかなるのか!?)


(さぁな、後数十秒経てばわかるだろう。 まぁ状況は好転出来るだろうと思うが……)


(そうか…… ならもう少し頑張りますかね!!)


敵の攻撃を裁きながら念話で話しかける二人…… さっきの黒武者の時と異なり口を開いている暇が無いための念話である。


たかが三分、されど三分…… 今の章太郎たちにとってはこの三分が長く感じていたに違いない。


先ほどの戦闘と異なり武者達は、自分達だけではなく騎士の方にも向かっていくのだ…… 後ろに向かわせないために前線を張る章太郎達の肉体と精神の疲労は蓄積していく。


流石の章太郎も少しばかり疲労を感じているのか額を汗で輝かせていた。


といっても、ものの三分足らずで黒武者を半数以上、赤武者達を撃破とは言わないがそれぞれ鎧に亀裂を負わせているのは流石だろう。


一方、騎士はその身に多大な霊力を溜め込んでいた。


最初は微弱だった青い光も今は強い色を放ち鎧やハルバートに纏っている。


騎士は今集中していた――


自分の命がかかっているのもあるが、その上目の前で自分を守る男の命も自分の双肩に乗っているのだ。


絶対に切り抜ける。


その思いに同調したのか、ハルバートの宝珠が一際強い輝きを放つと――


「………!!」


その身に纏った霊力を輝かせるのであった。


「っ!?、 章太郎準備が出来たみたいだ下がるぞ!!」


「応!!」


霊力の煌きを感じたバディは章太郎に伝えると二人はそのまま騎士の後ろまで下がる。


その後を追いかけて武者達も後に続く…… が時は既に遅かった。


「よし…… んじゃ後は任せた!!」


騎士の後方に移動した章太郎がその後姿に声をかける。


その声がトリガーになったのか、騎士は内包した霊力を一気に解放すると同時にハルバートを高く振り上げる。


一気に開放された霊力は一瞬霧散したかのようにみえたがすぐにある一点―― ハルバートの刃の中心である宝珠に集まっていくと、宝珠の青い輝きが一層強くなる。


まるでブラックホールに吸われていくように集まる霊力を吸収する度、宝珠の光は増していきそれがピークに達した時――


「『Mascaret』!!」


声と共にハルバートを振り下ろした。


(今、声が…… ってなんじゃこらあああああああ!?)


一瞬聞こえた声に反応しても、章太郎はすぐ目の前に広がる光景に心の中で叫びを上げる。


ハルバードが振り下ろされた瞬間溜められた霊力が水に変換され武者達に襲い掛かったのである。


…… 問題はその規模である。


鉄砲水といってもまだ足りない波濤が武者だけでなく、前方で燃え盛っていた木々全てを飲み込み、押しつぶしてしまったのだ。


騎士の前方を見渡せば水に濡れた大地と根元から折れた木、そして元は武者だったろう残骸が広がっていたのだった。


Mascaretマスカレット』―― フランス語で潮津波、海嘯の意味を持つこの技はその名前に負けない威力があることをここに示した。


「……」←意味が判ってない


「『海嘯』か…… 見事な威力だな」←意味が判ってる


目の前で起きた光景に呆然としながら章太郎呆然としバディは呟く―― が


「………」


無言のまま地に倒れる騎士の姿が眼に入ると慌てて近づくのであった。


「ちょっ、大丈夫か!?」


そう言って章太郎は騎士を仰向けにして上体を起こし兜の口元に耳を寄せる。


(呼吸は…… してる―― が……) 


呼吸音を確認してもどこと無く苦しそうに見えた章太郎は、少しでも楽になるようにと騎士の纏っている鎧を外そうとするのだが……


(……止め具が無い!?)


その場で「?」と「!」を浮かべる章太郎。


頭の中では緊急時の病人の対応の手順を思い返しているのだが、流石に鎧を着た人間の応急処置方法なんてあるわけが無い。


「バディ! どうにかならんか!?」


自分の手に負えないと思った章太郎は肩にいるバディに切羽詰ったように尋ねる。


それを聞いたバディは「少し見せてみろ」と言うと騎士の様子を診はじめる。


「とりあえず鎧だけでも脱がしてやりたいんだけど…… 止め具が無くて――」


「止め具が無いのは仕方ない。 これは霊力で編まれたものだからな、これを解除するには本人の意思か霊力切れを待つのが一番だな。 というより今の騎士殿が霊力切れで気絶しているのだ」


「時間が経てば解除されるだろう」バディがそう言い終えると騎士の身体が淡く光り始めると一瞬で鎧がその姿を消した。


「ブッ!!?」


章太郎は鎧の主を見て噴出す―― 何故かと言うと。


「おっ、おおお―― おんなぁ!?」


騎士が横たわっていた場所には女性がいたのだ―― 健康的に見える小麦色の肌、少しウェーブのかかった流れるような紫銀の髪、スラリとした長い手足に瞼は閉じられているが凛々しい印象の目元を始めた整った顔立ち…… 


それらを総合すると彼女はとんでもない美人と言えるだろう。 


「あわわわわわ……」


目の前の美女を見て顔を赤くさせながらうろたえる章太郎。


何故かと言うと…… 彼女の格好である。


スラリとした手足どころか、キュッと締まったウェストにヒップ、そして彼女が女性である事を示す巨大と言ってもいいバスト―― それらの大部分が章太郎の眼で確認できるのだ。


勿論、きわどい所は青い布らしきもので隠れているのだが……


(なんやねん! このエロ水着は!?)


という章太郎の思考のように、先ほどの重厚な鎧とは真逆の装備なのであった。


(おっ、俺にどうしろと!? というよりこの図を誰かに見られたら今度こそ警察行きだろ!?)


女性と言う点だけでも章太郎の余裕は無くなると言うのに、彼女の格好がそれに拍車をかけていた。


(とっ、とりあえず俺のジャケットを…… )


自分の着ていたジャケットを脱いで女性に着させようとして、彼女を抱き起こそうとするがピタリとその動きを止めてしまう。


(さっ、触れない……)


別に章太郎は潔癖症と言うわけではない―― 唯、「半裸の女性に素手で自分が触れていいのか?」と思ってしまったのだ。


(いや! これは人助け…… だから仕方が無い!!)


しかし、今は緊急事態…… 女性の救護と自身の名誉がかかっていると自分に言い聞かすと、章太郎は彼女の背に手を入れそっと抱き寄せる――  のだが……


「なっ!?」


その振動で女性の母性がたわわに揺れるのを確認してしまったのだ…… こうなっては、初心ドウテイの章太郎には荷が重すぎた。


頭に湯気が立ち上りそうなほど顔を赤らめると――


「………………………」


章太郎は考えるのをやめ…… るわけにもいかず。


「バディ……」


「どうしたのだ?」


「…… 俺の代わりに服を着させてやってくれんか?」


傍らにいる相棒に服を着せるのを手伝って貰うのであった。


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