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序章 第5節

「ヲイ……」


一人の咀嚼音が響く中、章太郎が口を開く。


「なっ何?兄さん」


「俺は良いっていったさ…… それは認める。 認めるけどよぉ……」


「これはないだろうが!!」叫びながら章太郎が指差した先には――


夕飯をほぼ一人で平らげたさっきの女性がいた。


冷めても衣のサクサク感を失わない厚切りとんかつ――計四枚


サトイモと大根の味噌汁――鍋半分以上、


付け合せのオクラの胡麻和え――作り置き全部


十合以上炊いた白米はお釜の中には殆ど残っていなかった。


かろうじて安寿の分だけは確保できたが…… 彼女は大食らいの男二人の分を一人で食してしまったのだ。 


(今日はカップメンだな……)


目の前の光景に米神を揉みながらそんな事を考える章太郎。


「…… ごちそうさま」


彼女は満足したのか箸をおく…… ただ、それだけなのに高貴なオーラを醸し出していた。


(良いとこのお嬢さんか?)


あれだけ食べたのに食い散らかした様子も見せず、それどころかお椀にご飯粒一つ残っていないところや彼女の尊大な口調は章太郎にそう思わせるには十分であった。


「美味だった…… 久々に満ち足りたぞ。 そういえばまだ名を名乗ってなかったのう? 妾は代々『覇将』の血筋に仕える龍人族が直系の姫―― 白姫しらひめという、以後見知りおけ」


食後に安寿が淹れた緑茶を啜りながら彼女は満足そうに言う。


「……そりゃどうも」


今夜の食事を食べられて苛々している章太郎は不機嫌に返す…… が彼女は何故かその態度に目を光らせると勇馬に向かい――


「主様…… この包丁人の腕は認めるが、いささか礼儀が成っていないのでは?」


と告げるのであった。


「「は?」」


行き成りの言葉に章太郎と勇馬は聞き返すが、二人を尻目に彼女は話を続ける。


「特に先ほどからこの使用人の妾に対する視線…… それに妹君に女中の真似事をさせる等、龍人の姫である妾や主様方に対して不敬であるとしかいいようがないだろう? ……勿論主様は別だぞ? なにせ主様は妾の……」


どことなくピンクの雰囲気を漂わせながら彼女は勇馬ににじり寄るが……


「ヲイ、コラ待てや」


章太郎がそれをさせない。


「なんじゃ? 今から主様との睦み事だというのに…… 空気を読まぬ使用人じゃのう」


彼女は行き成りの声に苛立ちを含めながら章太郎に向き直る


「空気を読まんのはお前だろうが!? ガキがいる前で盛ってんじゃねえぞ!?」


その様子に頭に#を作り声を荒げる。


「おおこれは失礼を、妹君の前ではしたない所を見せてしまいましたな…… 申し訳ありませぬ」


「あ、うんいーよ」


章太郎の傍らで茶を啜る安寿に謝罪すると、「フン」と鼻を鳴らしあからさまに違う態度で


「その諫言感謝するぞ使用人」


とあまり豊かとはいえない胸を張りながら彼女は言うが…… 少しも感謝しているように見えない。


「それのどこが感謝しとるんじゃ!! それにさっきから使用人、使用人言いおってからに…… 」


「ん? お主、主様に使える使用人ではないのか?」


「違うわ! このコスプレ女が!!」


「こすぷれ? よくわからぬ言葉を使うのう…… どこの言語じゃ?」


「ぬおおおおおおお!?」


両手で頭を抱え、怒りのあまりに声が出なくなる章太郎と頭に?マークを浮かせる彼女―― 勇馬はその光景と自分の服の裾を涙を目に溜めながら引っ張る安寿を見て一息つくと………


「とりあえず、静かにしろ!!」


と声を張る。


その裂帛は強烈なものである、それこそ食器が小刻みに震えたり天井に吊られた電灯が揺れていたりするほどである―― それを人間相手に使うのだ勿論……


「ひ!?」


「ん?」


必ず何らかのアクションを起こす ………章太郎の普通のリアクションに関しては仕方ないだろう。


未だに凍りつく彼女を尻目に、章太郎は頭に手を当てながら


「あ~ すまん、完全に頭に血が上っていた……」


勇馬に返すのだった。


「本当だよ…… 昔よりはまともになったけど、まだ沸点低いんだから」


「と言ってもなぁ、マジ切れしてない分ましだと思うんだけど…… 」


「当たり前だよ! 『兄さん』がマジ切れしたらこの家無くなっちゃうよ!!」


「え? 兄さん? 主様どういう……」


「むっ…… だからこそコンスタントに切れる事によってそれを回避するという方法をとっているんだろう!?」


「お主! 兄さんとは……」


「何だよそれ!? どういう理屈!?」


「主様! 妾の話……」


「馬鹿野郎!! 借金は小まめに手堅く返済するのと同じだろう!?」


「知らないよ!!」


「ええい! いい加減に妾の話を……」


「「うるさい黙ってろ!!」」


「ひぃ!?」


二人の言い争いに果敢にも割って入ろうとするもさっき以上の裂帛を喰らい彼女は口を噤むしかなかった。


そして、また殴り合いの喧嘩に発展しようとした時、とうとう最終兵器が起動しやっと話が進むのであった。






………

………

………






勇馬が安寿を寝かしつけ、章太郎はあらためて白姫の話を聞くのだったが………


「頭…… 大丈夫か?」


章太郎の開口一番はこれだった。


「失礼な!? 心配されるような事は言っておらん!!」


「…… 行き成り『救世主たる力を持った主に会うために異世界から渡って来た』って言われたら誰だって正気を疑うぞ?」


「何を言う! 妾は正気で間違った事は言っておらぬ!?」


「でもな~」


行き成り話されたおファンタジアな話に戸惑いながら額に手を当てる章太郎は勇馬に「お前はどう思うよ?」と話を振る。


「あ~ 兄さん、あながち作り話じゃないかもしれないよ」


「……へ?」


「いやね? 部活から帰る途中の事なんだけど、神社の方から違和感を感じてさ…… 『何だろうかな』と思って行ってみたら…… 空間が歪んで其処から光がさしたと思ったら」


「この子が居たんだよね」と話す。


しかし、その顔は『俺、何言ってんだろ』という色を表していた―― が割り切ったのか話を進める。


「それで極め付けがさ…… まぁ、その場を目撃した俺は当然呆然としたわけなんだけど、この子―― 白姫と目があった瞬間、頭に電撃が走った感じがすると同時に色々流れ込んできたんだよ」


「流れ込んできた?」


「………うん」と言ったきり勇馬は口を噤んで何も話そうとはしない…… その様子に痺れを切らした章太郎は内容を問いただそうと口を開くが


「よすのじゃ」


白姫に止められる。


「主様は妾の記憶をみたのじゃ。戦乱の世、人が争い、世は荒れ、獣魔どもが跋扈する世界と主様と妹君の御宿命…… 救世主となり天下を治めるというな」


「どういうことだ?」


章太郎は唯一事情を知るだろう白姫に尋ねる―― が


「お主が知る必要はない」


ばっさりと切り捨てられた。


「ちょい待て…… 何で俺が知る必要が無いんだ?」


言葉こそ静かではあるが章太郎の雰囲気は真逆―― ビリビリとした空気が出来ていた。


「関係無いからに決まっておろう」


だが、白姫はお構いなしに言い放つ。


「関係ないとはなんだ! 関係ないとは!! 俺はこいつ等の兄貴だ、関係ないわけがなかろうが!!」


「兄と言っても血が繋がっているわけがないのであろ? そのようなものになぜ説明をしなければならぬのだ?」


「っ!? てっ手前ぇ!!」


怒りに顔を歪めながら白姫に怒気をぶつける章太郎。 しかし、白姫は先ほどと異なり怒気を受けても踏みとどまり言葉を続ける。


「…… っ、そもそもこれは妾達の問題なのじゃ、お主をそのような事に巻き込むわけにはいかぬのだ」


「巻き込むって…… お前は勇馬と安寿に何させようとしているんだ!?」


「先ほども言ったろう…… 天下を治めていただくとな」


「天下を治める」その言葉に章太郎の脳裏にとある言葉が浮かび――


「戦争……?」


確認するように口に出す。


「左様。今、妾の国は動乱が広がっておる。 力を落としてしまった天皇家と将軍家――それに反して各大名は次代の覇権を握らんと力をつけ、国外からも不穏な空気が漂っておる―― 平穏だった国の未曾有の危機と言っても過言ではないだろう…… だからこそ主様たち…… 『覇将』と『姫巫女』の血を引くお二人の力が必要なのじゃ。 一番は先代様、英馬様と美月様がご存命なら良かったのだがな」


「まっ待て! 何でお前が先生や美月さんのことを知ってんだよ!? それに『覇将』やら『姫巫女』やら…… わけわかんねぇよ!?」


「さっき言ったろう? 関係ないと」


初めて聞かされる事に章太郎は動揺しながら勇馬に目を向ける―― 勇馬はそれから逃げ

るように目を逸らした。


章太郎は気付いた


「知って…… いたのか?」


勇馬は全て知っていたと。


「…… 知っていたというより思い出したんだと思う」


重そうに口を開く。


「父さんたちが死ぬ前にこの話を聞かされたんだ…… 『自分達はこの世界の人間ではない』、『平和になった世界では、自分たちの力は強大すぎたため世界を渡った』、『いつか、もしかしたらあっちから使者が来るかも知れない』って―― もちろん俺も訳がわからなくなったさ…… そしたら母さんが手を振りかざして――」


「暗示じゃな、強力だが条件か時期が来れば解けるものだったのだろう」


「流石は先代の姫巫女」白姫が納得したように頷き…… 「主様」と勇馬に話しかける。


「そして今が『時期』なのですじゃ…… 早く準備をしましょうぞ? 確か道場があると言ってましたの…… そこで『世渡りの儀』をおこな――」





「黙りやがれ!!」





章太郎の怒声が響く。


「戦争だぞ! 人が大勢死ぬんだぞ!? そんなところにお前を…… ましてや安寿を行かせるわけねえだろ!!?」


「今更何を…… それに主様が来なければ民草がどれだけ命を落とすと思っているのじゃ!?」


「行かせない」という章太郎に白姫は怒気―― いや、殺気すら漂わせて声を張り上げる。


「そんなのそっちの都合だろうが!? 俺にとっちゃ見知らぬ人間がどうなろうと知ったこっちゃねえわ!!」


「貴様……!!」


一触即発な程に二人の間の空気が不穏になっていく。


「兄さん……」


水をさすように勇馬が口を開く。


「勇馬! お前も言ってやれ! このままじゃ――」








「兄さん、俺行くよ」








「は?」


章太郎は理解できなかった…… 酷く動揺しながら―― 


「何を言っているんだ?」


聞き間違いであって欲しいと願いながら再度口を開く―― しかし……


「俺行くよ」


真っ直ぐ視線を返しながら勇馬はそう言うのだった。


「なっなんで…… 運命って奴だからなのか!? 先生達にそう言われたからなのか!? 」


「違うよ」


「それじゃなぜ!!」


「俺にしか出来ない事だし…… それに――」


一旦言葉を切ると一息吸い勇馬は章太郎に向かい――


「兄さんの弟だから」


と言ったのだった。


「なにを……」と章太郎は口を出そうとするが勇馬に阻まれる。


「悲しい事があっても底抜けに明るくて俺たちを励ましてくれた兄さん……、人に騙されても馬鹿みたいにお人よしで人を信じる事を教えてくれた兄さん………、自分の信念や意地を貫ける強さを持ってていつも守ってくれていた兄さん……… 」


一言、一言、大事そうに勇馬は言葉を紡ぐ


「俺も安寿もそんな兄さんの事が大好きなんだ…… だから、兄さんが誇れるような人間になりたいんだ…… だから…… 俺行くよ」


涙目になりながら勇馬は章太郎に言葉をぶつけた。


勇馬の意思を感じると章太郎は俯き…… 


「安寿は…… どうするんだ?」


声を搾り出す。


「ごめん、兄さんにまかせっきりになっちゃうね……」


「馬鹿やろう……!」


二人にやり切れない雰囲気が漂う…… しかし――


「なりませぬぞ!? 主様!」


「なっ!?」


「えっ!?」


白姫の慌てたような声がそれを追いやる。


「先ほども妾が言ったように、あちらの世界は未曾有の危機…… もはや主様の力のみではどうしようもありませぬ!? 心苦しいのですが妹君のお力も必要なのです!!」


「安寿も連れて行く」白姫はそう言ったのだ。


「だっ、だけど、安寿は…… 」


さすがにそれはと言った様に勇馬は返す。


「お気持ちは解る! しかし、『覇将』と『姫巫女』の力は一対…… 妹君もお連れするしか――」






「ふざけんなよ」






説得しようとする白姫の言葉は静かに章太郎の声に消された。


「勇馬は男だ…… こいつが決めたからには認めるしかねえ―― だけどな! 安寿は別だ! あいつを連れて行くのは断じて認めん!!」


「そうだよ…… 安寿はまだ子供だぞ!? そんな子供を連れて行くわけにはいかないんだ!! 兄さんとここで暮らしていた方があの子の為なんだよ!?」


章太郎と勇馬の声が響く…… 


それを聞いた白姫は一瞬悲しそうな顔をすると―― 何かを覚悟した表情をして勇馬に近づき…… 


「御免!」


「ぐあっ!?」


勇馬の頭に手を添えると光が爆ぜると共に勇馬を気絶させたのだった。


「てっ手前! 勇馬に何を――」


「気絶させただけじゃ問題ない」


白姫は勇馬の身体を指先から出した丸い球体の中に入れ首飾りに収納した。


(実力行使か!?)


きっとこのまま安寿も連れて行くだろう…… 相手の行動からそれが読み取れた章太郎は安寿が眠る部屋へ続く階段の前で身構え……



(女を殴り飛ばす趣味は無えが!)


構えた左拳が一瞬ブレて白姫に襲い掛かるが――


(弾かれた!?)


白姫に届く前に見えない壁のようなものに邪魔される。


「無理じゃ、お主がいかに力自慢だろうと妾の障壁は崩せんぞ」


「っるせぇ!!」


叫びながら続けて左を放つ。


ダン


ダン


ダン、とコンスタントに音を立てて拳は壁に着弾する。


相変わらず壁に阻まれて白姫にダメージの色は見えないが、衝撃ぐらいはあるらしく一撃ごとに歩みを止める。


「唯の拳だと言うのにここまでの衝撃だとは…… 障壁が無ければ妾も危なかったぞ」


「はっ!? ビビッたんなら勇馬を置いてさっさと帰りやがれ!!」


「それは出来ぬ相談だな」


何処か余裕そうな顔で白姫は返す。


(その顔…… )


章太郎は大きく構えを変える――


自分の背中が見えるほど身体を捻り右拳に力を込めると………


(これを喰らってもしていれるか!?)


「だああああああああ!!!」


右拳を白姫に叩きつける。


ドゴォ!!


相変わらず右拳は壁に阻まれていたが、これまでのものとはあきらかに違う一発だった。


拳がめり込んでいるのだ―― まるでビニールの膜を突くように壁が拳の形をしながら内側に押し込まれていく。


「なんと!?」


これには白姫も表情を崩すが―― 壁の抵抗力に段々と自分に近づく拳の速度が遅くなるのに気付き安堵の息をつく。


しかし、この男は諦めていなかった。


「まだじゃあああああああ!!」


最後の一押しを受けて拳は一層勢いを増す。


「しまっ!?」


声をあげる前に自身の身体が宙に浮くのを感じた白姫―― そのまま彼女は……


「ぐぁ!?」


台所の壁を突き破り中庭に弾き飛ばされるのであった。


砂埃が舞う中、章太郎は中庭へ足を進める。


その姿はまさに鬼人という言葉が当てはまるだろう。


しかし――


「驚いたの…… 炎龍の火炎弾すら耐え切る妾の障壁を破壊するとは」


其処には、何食わぬ顔で白姫が立っていた。


「驚いたのはこっちだよ…… まさかアレを喰らって平気そうな顔をしているなんてなぁ」


章太郎の右拳は必倒の一撃である―― それを耐え切った彼女に章太郎は驚きの声をあげる。


「…… お主は一筋縄でいかぬ様じゃ―― だから」


「本気でいかせて貰うぞ?」白姫はそういうと瞳を閉じ集中し始める―― 空気が変わった。


濃厚な何かが白姫を中心に渦巻いている。


それが、ビリビリと肌を刺すのを感じながら章太郎はいつでも動けるように体を整える。


「この霊力の渦にも耐えるとは…… おぬしは一体何者なのだ?」


「はっ! こちとら生まれてきてからずっと唯の人間をやってるっちゅーんじゃ!」


「クククッ、まぁよい。どっちにしろこれで終わりじゃからの!!」


渦が一気に収束し、白姫の首飾りが煌き始める。


「我、龍族が白姫―― 我に従いし六竜の一…… 」


白姫が何かを呟くと同時に首飾り―― 正しくは首飾りの珠が光を一層強く放つ。


赤、青、緑、黄、白、黒―― それぞれ光る中で一回白い珠を手にとる―― が黄色の珠がより一層強い光を放っているのに白姫は気付く。


(何じゃこれは?)


今まで何度も竜召喚を行っていたが一つの竜がここまで主張する事は珍しかった。


光竜こうりゅうを呼ぼうとしたんじゃが…… )


自身と最も相性のいい白玉を掴んでいたが一旦それを離し、黄玉を握り天にかざす。


「出でよ! 鋼の王―― 鎧竜がいりゅう!!」


「なっ!?」


サングラス越しからでも感じる強い光。


暫く強く輝いていたが徐々に光が収まっていく…… そして完全に収まった時其処には――


「ハ、ハハ…… 何だよこれ……」


体長は六メートル位だろうか、身体は鱗というより黒い体毛に覆われているが四肢や尾、頭に金属の様なもの張り付いている、相貌は赤く輝いており章太郎をじっと見ている。


竜というには鎧を着た獣に近いが…… その存在感は圧倒的だった。


「やはり、世界が違うからか本体は呼び出せんかったか……」


額の汗を拭きながら白姫はそう呟く。


「これで、全開じゃないってのか?」


「そうじゃ、本体ならより大きくより強靭なんじゃが…… それでも十分な強さを誇るからのう―― しかし、お主が相手じゃ念のため妾も攻撃に参加しようぞ」


白姫はそう言いながら右手に火を灯し、左手にパチパチと帯電し始めた。


(クソッタレが!!)


その光景を見て章太郎は悪態をつく。


(でっかいのが前衛で、あの女が後衛といったところか…… めんどくせえなあ、おい!!)


やるしかない。


覚悟を決めた章太郎は身を小さくするように構えて足に力を入れる。


先手は白姫たちからだった。


鎧竜がその名に合わぬスピードで章太郎へ一気に詰め寄ったのだ。


「GIIIIAAAAAA!!!」


「日本語でおKぇぇぇぇ!!」


肉食獣を思わせるスピードのまま鎧竜はその爪を章太郎へ振り下ろすが、間一髪章太郎は前転でその場を離れる。


チラリと今まで自分がいた場所を見ると、其処には三本の爪あとが残っていた。


(うわぁ…… マジ?)


その惨状に少し引いていると今度は違う方向から敵意を感じる。


「くらえぃ!!」


白姫が火炎放射器が可愛く思えるくらいの炎を放ったのだ。


「ちぃぃぃぃ!!」


体制を崩していた章太郎はそのまま炎にのみこまれるが…… 


「熱いわこんちくしょおおお!!」


右手を払い炎から飛び出してきたのだった。


「何度も聞くが…… お主本当に人間かえ?」


「何度だって答えてやるさ!! 21年間人間やってましたが何か問題でも!」


(さっきの霊力といい妾の炎弾といい普通の人間が耐え切るとは思えないんだがな)


そんな事を白姫が考えていると、今度が章太郎が近くにいた鎧竜に左拳を放つ。


だが――


「堅っ!?」


頭を狙ったらそれを覆う金属に弾かれてしまう。


(鎧竜って言ってただけはあるか!)


間髪いれずに鎧竜は身体を反転させ、金属をつけて重くなった尾で章太郎を横に凪ぐ。


「ぐほぉ!?」


手をクロスして受けたとはいえ直撃した章太郎はピンボールのように弾き飛ばされた。


「GAAAAA!!」


鎧竜は直に追撃で右手を振り下ろすが


「GIA!?」


己の爪が二本の腕によって止められているが判ると驚いたような鳴声をあげる…… がそのまま押しつぶさんとして体重を乗せようとする。


「舐めんじゃねえぞ…… 」


しかし、この男に力勝負で挑むのは――


「畜生がああああ!!!」


愚の骨頂だった。


筋肉が異常なほどに肥大して鎧竜の爪を押し返していく。


そして、完全に体制が逆転すると章太郎は懐に潜り込み――


「おりゃああ!!」


腹部に右拳を叩き込んだ。


「GYAN!?」


鎧竜はあまりの衝撃にたじろぎ一歩下がる…… しかし、それはアウトだった。


「よっしゃあああ!!」


サングラスをキランと光らせると章太郎は一気呵成に右拳を撃つ。


ドゴォ!


ドゴォ!!


ドゴォ!!!


と音の間隔はあいているがそれでも強力な一撃が鎧竜の腹部に入れられているのが判る。


このまま決着がつくかと思われたが……


「やらせんぞ!?」


白姫が何かを放つ。


「今度は何…… やべぇ!?」


放たれたそれを確認すると章太郎は必死で飛びのくと― 少し遅れて雷撃がその場を焦がした。


(今、あ奴……)


白姫が何かに気付く。


(弱点か!?)


もしそうならこの形勢を逆転できるかもしれない。


形勢は信じられないことに章太郎に向いていたのだ―― 


(人の身でありながら最弱状態といえ鎧竜を圧倒するとは…… )


一瞬、白姫の脳裏に


(こやつならあちらの世界に連れて行っても……)


と浮かぶがすぐ捨て去る。


(ならぬ! こやつは無関係…… 妾らの都合に巻き込むわけにいかぬ! それに…… 主様が望んでおらぬ!!)


安寿の力は必須の為、勇馬の意に反し連れて行くしかないが章太郎は別である。


(主様と記憶を繋げた時飛び込んできたのじゃ…… 主様がいかにこの者を大事に思っているのかを!!)


できる事なら一緒に居させてやりたい…… しかし、白姫の立場と世界の情勢がそれを許さないのだった。


(だからせめて……)


誤解されても、悪者なってもいいそれしか出来ない自分を不甲斐なく思うしか白姫にはできなかった。


一方章太郎は……


(やっべー 超やべー)


確実に消耗していた。


それもそうだ今まで戦ったことの無い相手……


気の抜けない戦闘……


そしてなにより……


(電気使えるなんてよおお!?)


自分の一番の弱点…… 電撃を相手が使えるからである。


章太郎はほぼ弱点は無い。


打撃はよっぽどのもので無い限りダメージを負わないし。


刀剣や銃弾相手でも素人相手なら致命傷を負った事が無い。


炎や氷でもそうだ…… しかし、電撃だけには弱かった――


何故かは本人も判らない…… 気付いたらそうだったのだ。


それこそ、コンセントの電気だけで身体がしびれるほどなのだ。


(こりゃロープレの鉄則をするしかねえ……)


狙いを白姫に定めて――


(後衛から潰す!!)


その場から駆け出した。


章太郎が動いたのを見て白姫と鎧竜も行動を起こす。 


章太郎の矛先は真っ直ぐ自分に向いていると判った白姫は、その射線上に鎧竜を滑り込まそうとするが――


(遅い)


章太郎の足の遅さに気が抜けそうになる…… が


(じゃが、あ奴の事じゃ…… 何か策があってのことだろう…… そうでなければあの足の遅さで先手を取ろうとは考えないだろうて)


考えを改め、気を入れなおす。


前に説明したように章太郎の武器は人間離れした頑丈さと膂力である。


その反面か恐ろしいほど鈍足である、普通に走れば足の速い小学生に負けるほどなのだ。


そのためか、章太郎の戦い方は基本足を止めての殴り合いか取っ組み合いがメインであり得意なのである。


しかし……


(あと少し……!)


章太郎にはもう一つ得意な戦い方がある――


(後一歩……!!)


それは――


「っ! いまじゃあああ!!」


白姫までの距離が約五歩になったところで章太郎の身体は一気に加速する…… いや加速と言うよりも爆発している。


まるで何かが爆ぜたような彼の足跡がそれを物語っている。


今の彼は全身が一つの銃弾になったような状態である。


弾丸チャージ――


このダッシュからの体当たりを見た人間の誰かは知らないがそう呼んだ。


その勢いのまま自身の身体をぶつけ、とどめに最大威力の右拳を炸裂させるのだ。


「くううらあああええええええ!!!」


章太郎が雄たけびをあげて白雪に襲い掛かる。


本来なら、章太郎の鈍足さに気の抜けた相手は、行き成りのギアチェンジに対応できずそのまま被弾するしかないのだ。 


しかし、白姫は冷静だった。


(やらせん!!)


自分を障壁ごと確実に必倒しようとする脅威を目の前にしてとても冷静だったのだ。


黒玉を掴み闇竜あんりゅうの力を一時解放――


そして、鎧竜と自分の場所を確認し――


影を使って入れ替える…… それを章太郎が飛び込んでくる一瞬で行ったのだ。


(何!?)


章太郎が気づいた時はもう遅く、すでに白姫が入れ替わった後だった。


「チィ!」


舌打ちしながらそのまま身体をぶつける。


「GYANN!?」


鎧竜は衝撃に耐えれずその身を宙に浮かせ後方に弾かれてしまう。


後方に飛んでいく標的確認すると同時に章太郎は再度加速し―― 右腕を振り上げその勢いのまま――


「貰ったああああ!!」


身体ごと突貫するように右拳を撃ちぬく。


拳はメリメリと音を立て鎧竜の身体にのめり込み…… その名前の特徴である鎧を破壊しつくすのであった。


「G…… A」


白目をむいて倒れる鎧竜…… 暫くするとその身体が黄色の光になって消えていったのだった。


光は章太郎をすり抜け白姫へと向かう。


一瞬その光景に見とれていた章太郎だがすぐに気を取り直して、白姫に視線を向けた。


「まさか…… 圧倒するだけで無くて倒してしまうとはな」


白姫が口を開く。


「ハンっ!! 伊達に鍛えちゃいないさ! どうする?これでお前の前衛はいなくなってが!?」


「それでも妾は…… やらねばいけないのじゃ!!」


「その意気やよし! 大丈夫だ殺しはしねえ!!」


言い終わると同時に飛び込んでいく章太郎…… 今回は最初から右腕を振り上げている。


対して白姫は障壁を展開して待ち構える。


(無駄だ! そのまま――)


「撃ち抜く!!」


言の葉と共に章太郎は拳を振りぬく。


拳はさっきとは異なり勢いよく障壁を崩していく。


そして――


「獲ったあああああ!!」


完全に崩れた―― 後は拳が白姫を打ち抜くだけだ。


「まだ終らぬ!!」


迎え撃つように両の手を拳に向かい出す白姫。


白姫の細腕で章太郎の豪腕を受けるのはどう考えても無理だろう。


章太郎は勝利を確信した。


しかし、章太郎は気付いていなかった―― 白姫の手の中にある白玉を……


鳴神なるかみ


拳が手を破壊しようとする時、白姫は呟く―― すると拳は手を弾き飛ばすことなくピタリと止まり……


「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」


章太郎の身体を雷撃が走った。


稲妻とも思われる極太の雷光は脳天からつま先まで章太郎を打ち抜いていた。


「が…… は…… 」


雷光は静まりパチパチと帯電している章太郎は黒くなった顔からこれまた黒い煙を吐き出し…… 


トサッ


膝を突き――


ズン


その身を大地に横たえた………






………

………

………






「終ったか……」


(賭けだった…… あと少し手を出すのが遅れていたら倒れていてのは妾だっただろう)


白姫は横たわる章太郎を一瞥し息があるのを確認すると…… 家に向かい歩き始める。


ガッ


足に感じる違和感。


それを確かめるために目を向けると―― 章太郎だった。


「意識が…… あったのか?」


白姫は言う。


それも仕方ない、いくら章太郎が頑丈とはいえ弱点だろう電撃を一般人なら即死レベルで打ち抜かれたのだ。


驚いている白姫を章太郎はうつ伏せになりながら見上げる…… 同時に足を掴む手にも力が入るが先ほどの力強さは感じられなかった。


「ダノム…… ヅレデガナイデグレ」


雷撃の効果で麻痺してるのか、回らぬ舌で章太郎は哀願する。


「アイヅラバ、 ガゾグナンダ…… オデノ、ガゾグナンダ…… 」


先ほどまで烈火のように苛烈だった男が――


「フタリダゲノ…… ガゾクダガラ…… ダノム」


弱弱しく頼みかける。 


「ヅレデがナイデグレ……」


白姫は瞼を閉じ…… 章太郎の頭に手をかざすと――


「っ…… すまぬ」


震える声で微量の電流を流すのだった。


「アッ」


今度こそ意識をなくしたのかその顔を地に伏せる章太郎。


それを白姫は瞳に何かをためながらその場を去っていった………





………

………

………





翌日、園宮家の前では人だかりが出来ていた。


その中には警官も混ざっており、近くにはパトカーも止まっていた。


近所の通報で来た警官たちだったが全くをもって状況がわからなかった。


何かに壊された台所――


鋭利な刃で切りつけられたような跡や焦げている跡のある中庭――


そして、いなくなった兄妹――


これらの事を聞こうと残った男に話を聞こうにも、その男は――


「安寿ぅ…… 勇馬ぁ……」


大火傷を負いながら、いなくなった妹のベットでの前で男泣きに泣いていたのだった………


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