序章 第3節
最初に書いときます作者はサ○ラ大戦が好きです…… というよりも愛しております。
肉じゃが
ほうれん草の胡麻和え
金平ゴボウ
豆腐と油揚げの味噌汁の上デザートに手作りのプリンという、作った人物からとても連想できない家庭的な夕飯が終了して暫く経った園宮家では今何をしているのかというと………
「兄さんいつまでもテレビ占領しないでよ!」
「ハッハー! 先にとったほうが勝ちなのだ!」
「なにそれ!? それこそ安寿の教育に悪いよ!?」
「馬鹿野郎! これはな? チャンネル争いという戦争を通して、世間の厳しさや行き着いた先の勝利、そして争う事のむなしさを学ばせるという俺的教育方法の一つなんだよ!!」
「余計たちが悪いよ!? それに兄さん的教育法って今までまともな物なんて一つも無かったじゃないか!」
「何だと!? 『いじめられない百の方法~やられる前にヤレ~』や『クラスで頂点を取れ!!~これで君も一番だ!~』とか『章太郎様のお料理教室~一撃必殺!愛のレシピ!!~』と『サイホウ~アナタノココロヲヌイツケタイ…~』……… など等の俺の教育がまともじゃないって言うのか!?」
「お料理教室と裁縫の副題含めて全部有害すぎるよ!? 一体兄さんは安寿をどうしたいの!?」
「美月さんレベルのヤマトナデシコ?」
「何故疑問系!? ヤマトナデシコなら家事系以外いらないじゃないか!?」
「そこはお前あれだよ…… 貞淑な中にも激情を潜め、夫を立てながらも自分の我を通すという新世代のヤマトナデシコを目指すには全部必須じゃないのか……?」
「わからなくなってるよね!? 自分で言ってて訳わからなくなってるよね!? その『?』が自信の無さを物語ってるよ!?」
「……人の揚げ足を取るような男に俺は育てた覚えはないぞ?」
「そもそも兄さんが原因じゃないか!!」
「けんか……?」
「HAHAHA すまん勇馬少し言い過ぎたな?」
「HAHAHA いいんだよ兄さん。たった三人だけの家族じゃないか」
「HAHAHAHA」と笑いあう二人を見て安寿は………
「みんななかよし♪」
とニコニコ笑うのであった。
………
………
………
「お風呂洗っといたからね」
タオルで髪の毛をガシガシと拭きながら、勇馬はリビングでゲームに興じている章太郎に報告する。
「おーう、悪いな。こっちもあっこは寝かしといたからな」
声だけで返す章太郎。
「いいよ別に、兄さんはいつも安寿と入ってくれている上に相手もしてくれているんだし…… ってまたそのゲームやってるの? 確か『桜花大戦』だっけ、この間クリアしたんじゃないの?」
「この間クリアしたのは無印のPS2(プレイサターン)版だ。んで今やっているのがSSの2をプレイ中なのだ」
プレイ中と言っているわりには少しもコントローラーを握らない章太郎、そのためかテレビ画面にはさっきから同じ映像と音楽が流れ続けていた。
そんな章太郎を不思議に思いながら勇馬は尋ねる。
「えーと…… さっきから何も進んでないんだけど……」
「いや良いんだよ、今日はOPと音楽を楽しむ日だからな。 本格的に始めるのは明日からだ…… 来月の今頃にはⅤまで終って今度はPSPの1・2が祝20プレイ目を向かえる予定だ」
「アア、ソウデスカ」
(そういや、兄さんこのシリーズに関しては廃ゲーマーだっけ……)
実際、章太郎は最新機種や格ゲーからRPG、勿論ギャルゲー等様々なソフトを所持しているのだ。
しかしどんなことがあろうとも古い機種を捨てようとはしない。
過去に勇馬が聞いて見た所………
(桜花が出来なくなる)
との一言でバッサリだったのだ。
そんな勇馬を尻目に章太郎は嬉しそうに………
「そして最近なぁ、あっこがこれに興味を持ち始めてな…… 先達としては嬉しい限りなのだが何からプレイさせたらいいのか迷っててな?」
「………ホドホドニシテネ?」
(違うよ兄さん…… 安寿はゲームに興味じゃなくて、兄さんがやってるから興味を持っているんだよ………)
勇馬は米神を押さえながらそう心の中で思った。
ちなみに余談であるが安寿のお気に入りのキャラは、3に出てくるモブキャラの恰幅の良いメカニックマンらしく安寿はこのキャラが攻略できない事を残念がったらしい…… むしろ攻略できたら趣旨が別のゲームになってしまうが。
そんな様子の章太郎に勇馬は「はぁ」と一息ついてから
「兄さん、話があるんだけど……」
と再度声を掛けた。
「ん、何だ? バイトの話なら却下だぞ」
ゲームの電源を切りながら勇馬に体を向ける章太郎。
対する章太郎の言葉を聞くと息を吐きながら口を開く。
「またそうやって言うんだから…… 生活費とか小遣いとか兄さんに全部兄さん任せって言うのは正直心苦しいし…… 暇があるときぐらいバイトして兄さんの助けになるかなと思って……」
「馬鹿たれ」
章太郎は勇馬の頭に軽く拳骨を落とす…… といってもじゃれあいみたいな物であるが。
「学生は学生らしく保護者のすね齧って生きていればいいんだよ…… 実際、家計がそんな切羽詰まってるわけじゃないしな」
「でも……」
「大丈夫だ、商店街の人たちやご近所さん、社長や奥さんがいつも気にかけてくれているんだから早々破綻しないって…… 貯金だってほら、お前を大学に行かせてあっこを育てる余裕ぐらいあるんだからよ」
「………」
「何気にしてんだ? ハハッお前は真面目に考えすぎだっつーの! 俺がお前のときなんて先生達の脛を堂々齧っていたんだぞ! だからお前らもそうする権利があるんだよ」
「だってその貯金って…… 兄さんが大学にいくため―― 」
「シャッラープ! この話はここまでだ!」
勇馬は強引に話を遮られると悲しそうに目を伏せる。
その様子を見た章太郎は深く息をつくと続けて口を開いた。
「でもまぁあれだな。 お前がこの話をするのも10回以上だしいい加減俺も応対すんのも面倒になってきたことだし……… まあこれも社会勉強だと思えばいいわな」
「っそれじゃ――」
「ただーし!」
顔をあげる勇馬の顔に人差し指を向けそのまま振る。
「勉強や部活に支障をきたさず体を守れよ? お前は唯でさえ頑張りすぎるんだからな?」
「………兄さんに言われたくないよ」
「フッフーン 羨ましかったら俺レベルのパワフリャーになることだな!?」
力瘤を作りながら章太郎は言う。
「ハハ、頑張ってみるよ……」
「期待しないが、まぁ頑張れ…… 話ってそんだけか?」
ひと段落したところで章太郎は勇馬に他に何かあるのか聞いて見ると、勇馬は言いづらそうな顔になる。
「え、えーと……あぁ~ うん、まぁその相談みたいなものなんだけど」
「何だ? 二次元における女体の神秘とどこを殴れば一発で沈めれるか位ならすぐ答えられるぞ?」
「何でそうなる…… 笑わないでよ?」
「おう」
「実は……」
………
………
………
「あー話をまとめるとだ、最近夢を見ると?」
「うん」
「それは、全部同じ内容だと?」
「うん」
「何もない空間でお前と安寿がいて白い光が降りてくると?」
「うん」
「んで、白い光は何かを喋っていて最初は良く聞こえなかったけど最近ははっきりと聞こえるようになったと?」
「うん」
「そして昨日、はっきり聞こえたと?」
「うん」
「『汝らは選ばれし者なり、いづれ来たる災厄に抗う力を手に入れるだろう』と言われた後豪華な城みたいなところに飛ばされたと?」
「う、うん」
「あっこもそれっぽいのを見たと?」
「う…… うん」
「………」
「………」
「………………」
「………………」
沈黙が続く中、章太郎はスッと立ち上がると勇馬の近くに移動し肩に手を置く。
しかし、その表情は憐憫と同情と落ち着きを持っていた。
「勇馬……」
「兄さん?」
不気味な程優しい章太郎の雰囲気に勇馬は首をかしげる。
「いいんだ…… 何も言わなくていいんだ…… それは、そう一過性の風邪みたいな物なんだ」
「え、ちょ」
「お前ぐらいの年頃はそういうものにあこがれるものなんだよ…… 今はまだ出ていないけど自分にはすごい力が眠っているんだとか、 学校の窓ガラスを割ってみたくなったりとか、俺もそうだったから気にすんなよ…… な? だけどそれにあっこを巻き込んじゃいけないぞ? あいつはまだ純真なんだから…… 」
「いや、なにを……」
「そう…… ただの厨二――」
「あんたに話した俺が馬鹿だったよ!!」
こうして、園宮家の夜は更けていく……
本来だったらこの話も兄弟の馬鹿話になったはずだっただろう。
朝になれば全員が起きて朝食を食べ、仕事や学校に行き、夜に兄弟の笑い声が響くそんな日常に埋もれていつしか忘れてしまい……
いつか、三人が大人になったとき「こんなこともあったね」という笑い話になる筈だった……
そう「筈」だったのだ。
章太郎も
勇馬も
安寿も
知るはずも無かった。
これが、物語の幕開けの予兆になると知るわけが無かったのだ――