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序章 第2節

「こんの…………… バッカもんがぁぁぁ!!!」


たっぷりと間を溜めた後に発せられた声は章太郎の鼓膜だけでなく部屋中を震わせる。


「いや、その…… すんません」


章太郎が弁解しようにも彼を怒鳴る人物の刺す様な目によって黙らされる。


何故こんな状況になっているのかと言うと…… 勿論昼間のあの事が原因である。


(まぁ確かにやりすぎちゃったと思うよ?でも、あそこで引いたらもっとめんどくさい事になりそうだったし……)


そう思いながらサングラス越しに俺を怒鳴る人物……


この人物こそ章太郎がお世話になっている建設会社の社長である


「ほんっとに! 何でこうお前は次々トラブルを持ち込むんだ!?」


「いや、そう言っても今回は俺は被害者……」


「馬鹿たれ! 百人以上の骨を折っておいて被害者もへったくれもあるか!? 担当した警部さんがお前を知っている人じゃなきゃお前も豚箱行きだったんだからな!?」


「うう、すんません……」


完全に意気消沈している章太郎を見ると彼は息をつきながら椅子に座りなおす。


「……いいか? お前ももう昔みたいにヤンチャできる年じゃねえってのはわかっているよな? 今のお前には守らなきゃならん奴らがいるだろうに…… もう少し考えて行動しろ」


「……はいっす」


さっきの激しい口調とは異なり穏やかなそれで章太郎に話しかけると、力なく章太郎は答えた。


「まぁまぁ、あなたそこら辺でいいじゃないの?」


章太郎の後ろから柔らかい声がした。


二人が後ろに視線を向けると、扉を開きながら社長と同じくらいの年代の女性がいた。


「お前……」


「章太郎君だって反省してるんだし…… それに今回は人助けの延長でこうなったんでしょ? 警部さんたちも穏便に済ましてくれるって言ってるわけだし……ね?」


そうやって彼女…… 社長の奥さんが社長をなだめると今度は章太郎の方を向く。


「章太郎君も、この人気持ちわかってあげてね? この人も私もあなたたち家族―― 勇馬君や安寿ちゃん達の事を思っているんだから…… 」


「社長、奥さん…… ご迷惑をおかけしました」


彼女のその言葉に対し章太郎は頭を下げて答える。


「ほら、章太郎君も反省しているんだし今日はこの位で……ね?」


「ん…… まぁいい。 ちゃんと考えて行動しろよ?」


「わかりました」


章太郎が言い終えると同時に外からキーンコーンと時報が流れる。


「さっ5時になったことだし…… 章太郎君も仕事が終ったのよね? だったらもうあがりなさいな。 今日は安寿ちゃんを迎えに行くんでしょ?」


奥さんの言葉を聞くと章太郎は気がついたように慌てて腕時計で時間を確かめる。


「やべ、もうこんな時間…… 社長、奥さん失礼します!」


改めて二人に頭を下げるとそのままドタバタと章太郎はその場から走り去った。


「あいつは…… もう少し落ち着きというものを持たないのか?」


「仕方ないでしょ? 章太郎君って家族の事――特に安寿ちゃんに関しては一生懸命じゃない」


「そりゃわかってるけどな……」


社長は椅子に座りながら煙草に火をつける…… がいささかその顔は何処か疲れていた。


「先生達が亡くなって4年、章太郎がここに入社して3年。それからずっとあいつはあの子達の面倒を見てきたんだから一生懸命になるのもわかるけどな…… 全くたいした奴だよあいつは、俺が21の時なんてもっと適当だったしな」


「ふふ、それをあの子の前で言ってあげなさいよ? 喜ぶわよ」


「言えるかよ、そんなのあいつが調子に乗るだけじゃねえか」


紫煙を吐き出し照れくさそうに社長は答えると、外から聞こえるバイクの音に気がつき窓から覗き見る。


そこにはサイドカー付きのゴツイ黒塗りのバイクに跨りながら走り去っていく章太郎の姿がそこにあった。


「でも本当に仲良いわよねあの子達……」


それを見ながら奥さんは呟く。


「ん? そうだな…… 」


そう言うと煙草に口をつけ


「血繋がってないのにな…… 本当の兄弟みたいだよ」


紫煙を吐き出してながらそういうのだった。






………

………

………






「それじゃぁ今日も、みんなの将来の夢について発表してもらいましょう」


その声の後に「「「「「はーい」」」」」と元気良く子供の声が部屋に響く。


その子供の統一された服や部屋に飾られたおぼつか無い絵などを見るとここが幼稚園だということがわかる。


園児達それぞれバックを肩に掛けて集まり座っているのに対し先生が立っている事から今帰りの会の最中だということも見て取れた。


「今日は確か…… 」


「はい! はーい!」


「そうね今日は安寿ちゃんだったわね、それじゃ発表してください」


「はい!」と返事をしながら安寿と呼ばれた子供は前に出て行き教壇の上に立ち一息吸うと


「あたしのしょうらいのゆめは、すてきなおよめさんになることです!」


と大きな声で言うのだった。


「そうなんだ…… ねぇ誰のお嫁さんになるか教えてくれるかな? もしかしてこのクラスの男の子?」


先生のその言葉に園服姿の男児の様子が変わりそれぞれの反応を示す。


たとえば……


ジィィィ


と安寿を見つめたり。


「~~!!」


と何かに祈るように手を組んだり。


またソワソワと落ち着きが無いように体を揺らす子や


「あっ安寿タンは、もっ漏の嫁!!」


とハァハァ危ない息を出す園児もいた…… 最後のはおかしいがとりあえずスルーで。


その様子を見た先生は内心


(なんというか…… いくつになっても男って同じような反応するのね?)


と思いながら今度は安寿を見ると


(だけどまぁ…… この子なら仕方ないか)


と内心溜息をつく。


人形のように整えられた顔ではあるが、その瞳はクリクリとしてとても愛らしく。頭頂では光によって天使の輪が出来ているのが示すように肩まで伸ばされた髪はサラサラとしていた。 また膝や頬には怪我をしたのか絆創膏が貼り付けられているが、それ以外の肌はとても綺麗なものであり、絆創膏もお転婆さや愛嬌を倍増させている。


つまり何が言いたいのかというと。


(大人になったらすごい美人になるわね…… この子)


ということである。


しかし、安寿は男子の気持ちを裏切るように


「ちがいます!!」


と満面の笑みで答える。


すると男子は泣き崩れたり、天を仰いだり、逆に興奮する等様々なリアクションを取るのだった。


「?」


男子の気持ちなんぞわからない安寿は首を傾げる。


そんな男子に対して女子は……


「ほんとだんしってばかよねぇ」


「ほんとほんと~ あんじゅちゃんがうちのだんしをすきになるわけないのにねぇ」


「あんじゅちゃんは、おうじさまみたいなひととけっこんするにきまってるもんね」


「そうよ! 安寿ちゃんは私のお嫁――」


「「「「えっ!?」」」」


「―― わたしのおよめサンバきいてくれるっていったもん」


(これで女子にも人気があるから完璧よね…… 最後の子はやけに昔の曲が好きなのね)


そんな一種のカオスな空気を作り上げていたが外から


園宮安寿そのみや あんじゅ ちゃん お迎えがきましたよ~」


という声がかかった事によって空気が止まり、名前を呼ばれた本人は………


「章太郎ちゃんだぁぁぁぁ♪」


パアアと顔を喜色に染めて荷物を持って外に飛び出していったのだった。





「私にどうしろってのよこの状況………」


いまだそれぞれのリアクションのまま固まった男子と、それを冷たい目で見る女子を目の前にして先生は一人呟くのであった。






………

………

………





トントントン


ジャージャー


リズミカルに包丁でまな板を叩く音や具材をフライパンで炒める音が部屋に響く。


ここはとある家の台所…… というよりシステムキッチンである。


時間ももう5時半をまわっており、世間では母親達が夕飯の支度をしている時間でありこの家も例には漏れなかった…… が一つ異なる点があった。


それは……


「章太郎ちゃんおなかすいた~~」


「おう、もう少しで出来るから待っとけ」


「は~い」


台所に立っているのが見た目ヤクザのゴツイ男という点である。


男は可愛くデフォルメされた犬がプリントされたエプロンを身に着けており、その手先は慣れたように料理を行っているのを見てもこの男がこの台所の主と見てもいいだろう。


そして、その傍らにいるのが万人が可愛いと答える幼女であるため違和感が拭えない。


といっても、これがこの家――園宮家の日常的な風景なのだから仕方ない。


「お~い、あっこぉ もうそろそろ出来るから皿と茶碗出しておいて」


「わかった~」


あっこ―― 安寿はそう答えると戸棚に椅子を移動して器用に皿を持つ。


(もうそろそろだな)


エプロンで手を拭いながら章太郎は時計を見て、最後の家族が帰ってくるのを予測する。


「ただいまー」


予測すると同時に玄関から男性…… 少年の声が家に響く。


「おにいちゃんおかえり~」


その声にいち早く反応した安寿はタタタと声の主を探しにいく。


「ただいま安寿。 兄さんは?」


「章太郎ちゃんならご飯作ってるよ~」


そんな会話が廊下から聞こえ足音からこっちに近づいているのがわかる。


「おう、お帰り勇馬」


テーブルに料理を並べながら章太郎は少年に声を掛ける。


「うん、ただいま兄さん」


するとそこには勇馬と呼ばれた少年が台所の入り口に立っていた。


彼の名前は園宮そのみや 勇馬ゆうま


少し着崩されたワイシャツに緩く締められたネクタイには学章が記されている。といってもそれが不恰好に見えないのは少年のその秀でた外見だろう。 全体的にシャープな体格は章太郎よりも10センチ以上高く、サラサラとした黒髪と涼しげな目鼻立ちはザ・美少年

といっても過言ではないだろう。


「やっぱし外は暑いね」


勇馬はそういいながら冷蔵庫を開き牛乳をパックごと口に付ける。


「あっ馬鹿! ラッパ飲みはやめろってコップを使えコップを!」


「え~いいじゃん別に」


「何を言ってやがるあっこや俺も飲むんだからな! それにあっこの教育上よろしくないんだよ!」


この年頃の子供は決まって家族の真似事をしたくなる。


特にそれが近くにいる兄ならなおさらである。


「うるさいなぁ母親じゃないんだから……」


「当たり前だ。 英馬先生と美月さんの墓前でお前らをちゃんとした大人にするって誓ったんだからな!」


お玉を突きつけながら章太郎は言うとリビングに飾ってある写真を目を移す。


そこには小学生の勇馬とまだ赤ん坊の安寿…… そして二人の男女がたっていた。


メガネを掛けた勇馬に良く似た男性が園宮そのみや 英馬えいま


黒髪で柔和に微笑み安寿を抱いた美人の女性が園宮そのみや 美月みつき


この二人の両親である。


「大恩のある先生方に代わってお前とあっこを育て上げるのが俺の使命なのだ!!」


写真を見ていた章太郎はサングラスと同じ幅の涙を出しながらお玉を握りながらそう叫ぶ。


このときなぜかバックで荒波が見えたが…… 気のせいだろう。


「だというのにお前は……」


再びお玉を勇馬に突きつけると叫んだ。


「運動勉学共にパーフェクツで見た目も極上な上に性格も良くて学校じゃいつも女の子にキャーキャー言われて一日平均4回以上告られるのは当たり前…… ってどんなイケメンリア充野郎じゃぁぁぁ!?」


「そんなん知るかあああ!!」


「違うだろ!? 色々違うだろ!? 普通はお前はどうしようもない駄目学生でいつも学校の美人の先生に迷惑をかけているんだ! そしてそんなお前をどうにかしたいと考えた美人先生は頼りがいのある兄である俺に相談してそこから恋が始まる……… て感じじゃなきゃ駄目だろうがあああ!?」


「うるせぇ馬鹿兄! そんなの兄さんの妄想じゃないか!? それよりなんだよそれ! そこら辺にあるネット小説にある内容みたいじゃないか!?」


「いいじゃん!? 別に夢見たっていいじゃん!? 俺ネット小説大好きだもん!!」


「見た目ヤクザが『もん』ってつかうな! 気持ち悪いだけだよ!!」


「ヤクザじゃないもん!! 普通の男の子だもん!!」


「どこがじゃ!? 見た目ヤクザの癖して料理、掃除、裁縫大好きその上サブカル大好きの家事万能ヤクザ型オタクの癖に!!」


「っき、きしゃまぁ~ 言ってはならん事を言いおってからに!! 表でろや!!今日こそ泣かす!!」


「よっしゃあ! 父さん譲りの剣術で今日こそあんたを越えてやる!!」


「ゆうううまあああああああ!!!」


「にいいいいさああああああん!!!」


馬鹿らしい話からヒートアップした馬鹿二人を止める手は普通は無い。本来なら気が済むまで喧嘩させるしか方法が無いのだが…… 


「けんか…… なの?」


最終兵器が起動した。


「「え?」」


衝突する前にその声の発生源に目を向ける馬鹿二人。


そこには……


「けんかだめ……」


「いや、あっこ。これはな喧嘩じゃなくてな…… なっ勇馬!?」(必死)


「そっそうだぞ安寿! 喧嘩じゃなくてだな…… 」(必死)


「おにいちゃ…… ヒック 木刀もって ヒック しょうたろちゃ うぅ てぶくろつけぇ」


安寿がそう指摘すると二人はそれぞれの得物を放り投げ………


「「マジですみませんでした」」


仲良く土下座をかまし…… やっと園宮家の夕食が始まるのであった。


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