eat this! -devil to abnormal-
コメディって言っときゃ何でも許されるよね、的な。
R-15と残酷な描写は一応です。それを期待してる人が面白いような濃さではありませんが、なんか付けとかなきゃ気が引ける程度。
ではどうぞ、変な話です。
切り分ける。切り分ける。
とりあえず骨の継ぎ目で切り分けると大きさも良い感じだし何より爪が通りやすいので、それはいつもそうしてきた。
腕と脚はそれぞれ二つに切って手首足首からもう一つ切れ目を、それで合計12の塊が出来る。体の方は残しておくのがそれの流儀だった。切り分けるのが面倒だし、何より自分と似た所がたくさん見つかって気持ち悪くなってしまうのだ。
四肢をもがれた自分の似姿を膝立ちで見つめる。血は止めておいたので服が汚れる心配はない。少し臭いが付くのだけは免れないが、丁度『臨時収入』があった所なのでクリーニングと銭湯を利用しようと思う。それにとっては一週間ぶりの風呂であり、これで奇異の視線も少しは減るかな、と淡い期待を抱く。
長い爪で頬を傷つけるのも気にせず、似姿の髪を掻き上げる。もうどこを見つめようともしていない虚空に映るのは、闇夜に溶けそうな自分の姿。素敵に着飾ったゴシックロリータ調のドレスの、自分の姿。
「……あはっ」
奮発したのだ。『こすぷれ』に魅入られたそれは、ネット通販を駆使してその服を手に入れた。それにとって現在のネット通信網というものは複雑極まりなかったし、資金の調達はいつも通りだとしても銀行口座などというものには触れたことすらなかったのだ。協力者が現れなかったらどうなっていた事か、と身を包む服を遠慮がちにつまみながら至福の表情を浮かべる。
だが、今は、それより。
「いただきまぁす――」
目の前の12の塊に手をつけようとした、その時。
それの体を、一つの銃弾が貫いた。
「あぇ?」
それの体を豆腐のように引き裂き、闇の奥へ消えていく銀光。遅れて、忘れていたかのように血が噴き出す。
続いて二、三。音もなく飛来した弾丸が彼女の体を貫いていく。開いた穴を手で押さえ、その手もぼろ布のように引き裂かれていく。飛び散った肉片はこれもまた無音で炎上し、燃え跡すらなく消え去った。
「あ、はは? あれ、なんでだろう? なんでだろうな? はは、は?」
無音の銃弾に追い立てられ、夜闇に解け消える黒いドレス。それの顔は、瞳は、泣き笑いの形にゆがんでいた。
***
目の前におっぱいがあった。
さりとて形は悪くないが大きいわけでもない。そう、巨乳と言うのは憚られるが貧乳と断じてしまうには少し寂しい。かといって普通の乳略して普乳かと言うと、彼の中では釈然としないものがあった。ベッドで横たわっている彼の視線と正方向という事はその乳の持ち主も横になっていると言うことだが、一切型崩れせず張りのある姿はむしろ風格すら漂っている。そう、これぞ帝王級のおっぱい、覇乳。
「グレイテスト……!」
吐息のように呟き、はて自分は一体どこでこんな素敵なアダルトビデオを手に入れたんだろうかと寝ぼけた頭で考える。しかしその圧倒的リアルな存在感は画面の向こう側のものでなく、俺の家のテレビも3D対応になったかとさらに呆けた思考へと。
そのまま刻々と時は過ぎていき、覇乳発見から十秒が経とうとした時。
「う、うおおおぉぉお!?」
彼、森永 新次郎は凄まじい回転でベッドから転がり落ちた。頭を打った。悶絶した。
「な、なんだ何が起きたおっぱいをこよなく愛する俺の元についに乳神様が光臨しやがったかヘイカモーン!」
その悶絶の勢いのまま立ち上がり、両手でカモンとジェスチャーをする森永 新次郎、忙しい男であった。
しかし一度落ちついてみればおかしい事だった。頭を打った痛みとあの乳は夢ではありえないほどのリアルさを持っていたし、健全な高校生男子たる新次郎には女性相手に過ちを犯す甲斐性もない。いやむしろあの乳相手なら犯したいだが落ち着け俺、混乱した思考は収まらず悶々と首を捻る新次郎。
「う、なぁー……」
と、その時。横たわる乳の持ち主から寝言のような暢気な声が聞こえた。
この時になって初めて新次郎はその全体像を確認したのだが、まず目に付いたのはその女が全裸だと言う事実でもなく、背が自分と変わらないぐらいで女性にしては高いなという感想でもなく、その全体の美しいプロポーションでもなければ、あまりにも鮮やかな赤い髪と瞳でもなかった。
ただ、歯が凶悪だった。歯並びがどうのと言う話ではなく、明らかに肉食的な歯だった。人間の骨格にあの歯は明らかにおかしいんじゃなかろうか、とまで呆然と考え、そもそもそんな生物学的なことよりそんな人間が居る事自体おかしいと気づく。
普通の人間ならここで慎重になる所だが、新次郎という男はきわめて単純だった。目の前にある事象をあるがままに受け入れ適応していく稀有な才能を持つ馬鹿だったのだ。つまりは馬鹿だったのだ。
・全裸の女の子が俺のベッドに→スタンバイオッケー、さぁ立ち上がれ俺のバベル。
「不~二子ちゃー……あいででいがががちょ、マジ洒落になんねぇー!」
そんな訳で伝統のル○ンダイブを決めようとした新次郎は寝惚けた少女に腕を丸かじりにされた。
しかしこれは女の子のする事、普通なら新次郎も笑って許しておっぱい揉ませてという所だが今回ばかりは勝手が違った。なにせ肉食獣チックな歯であるものだから、がっちり肉に食い込んで血が滲むどころか骨ごとやばいんじゃねーのこの女どんな顎してるんだよ状態である。
とりあえず極めて常識的な判断により、枕元にあった目覚まし時計を口にぶち込んでその隙に腕を離すという方法で事なきを得た。人間サイズだったので牙が短くてよかった、と痛む腕をさすりながら真剣に安堵。
新次郎が隣の部屋から救急箱を取ってきた時、丁度目覚ましが鳴った。口に詰まった目覚ましの音量は凄まじいらしく、少女は曖昧に目を開き腕に包帯を巻きだした新次郎を見る。
「おひゃよう、ひいあひゃだにぇ」
「あぁ、おはよう。とりあえず話は署で聞こうか」
というわけで臨時詰問所となった新次郎家の一階食卓。少女が快活に叫んだ。
「わが名は灼王だよ! そんな事より腹減った!」
「そうか、俺もだ」
とりあえず日曜日の休日、しかも両親は海外出張という神の奇跡か悪魔の業かという感じにおあつらえ向きな状況なので話を聞いている。
「われは悪魔なんだよ! というわけで腹減った!」
「悪魔ってあれか? 魔界からパタパタやってくるあれか? ところで俺もだ」
「その認識は人間が作り出したイメージとわれわれのイメージ戦略の一環と言うことで腹減ったよ! 本来、悪魔っていうのは人間と契約して、願いを叶える代わりにエネルギー的なものを等価交換しちゃう寄生生命体なの腹減った! 聖書の方の悪魔って言うのは別に居るのかもしれないけど、お腹減ったし知ったこっちゃないよ!」
鋭い牙をむき出しに襲い掛かってくる灼王の動きに合わせてカップラーメン(丸ごと)を投擲する新次郎。包装すらそのままカップラーメンをバリボリ咀嚼すると、少しは腹が落ち着いたらしくまた座りだした。……全裸で。
起き上がったままあまりにもナチュラルについてきたので口を挟む余地がなかったのだが、灼王は未だ全裸である。かくいう新次郎も対面からおっぱい堪能御馳走様でしたなので偉そうな事は何一ついえないが、それにしたってこの状況には物申したい。家の中で全裸と言う露出プレイ一歩手前なのはそういう企画だと思えば楽しめるかもしれないがって違う。
「そういえばお前、服は? 悪魔は全裸が基本という裸族状態なのか?」
「違うよ! ちょっと服が燃え尽きちゃったので思い切って脱ぎ捨てただけだよ! ファッショナブルじゃなくてがっかりなのはわれも同じ!」
「ファッションだけの問題じゃねぇだろ! 丸出しが許されるのは子供までってのが日本の法律だよ! 最近は子供丸出しの方がヤバいって風潮だけどな!」
「ふっ、われは人間の法になど縛られない! 生まれた時から今まで、全裸で居ることに躊躇いもなければポイ捨て上等で公務執行なんて妨害しちゃうよ!」
「な、なんて悪魔……!」
カップラーメンを食い終えて、立ち上がろうとする灼王。気配を察し、カップラーメン(とんこつ)を放り投げる新次郎。和やかに会話しながらも水面下の戦いは続いていた。というか、続けなければ新次郎は今度こそ腕を食い千切られる確信があった。
新次郎は馬鹿で、ついでにおっぱいが大好きである。だが、だからこそ思う。このままでいいのかと。剥き出しおっぱいはそりゃまぁ嬉しいが、それが目の前にあり続けるだけでは味気ない。大トロも食いすぎると胸焼けするのだ、あっさりした味わいや大人の味わいブレンディーも欲しいのだ。
「……よし、服を着せよう!」
「お、おー? われに服をくれるんなら大歓迎感謝祭だよ! なんたって、われは灼熱と暴食のコスプレ悪魔! 人間の一番の発明は衣服で、二番は演劇から連綿と連なる様々な物語、第三にそれを組み合わせた事を評価したいね!」
灼王の目が輝いた。新次郎は引いた。
「とりあえず私に服を着せたいという事は、そういう契約だと解釈させていただくよ! さっきのお食事分のエーテルを使い、いまから私は早着替え可能素敵アイドル状態! さぁ、契約に従い私の服装を述べよ!」
「ば、バニーちゃんッ!」
まくし立てられて反射的に叫んだ新次郎だった。目の前に居る灼王が、ほんの瞬きの瞬間にバニーガールの姿に変わっていた。超エロかった。
隠し切れない獰猛な歯はともかくとして、体型はやけに完成されているのだ。まぁ、さっきのように食事分を手軽に利用出来るなら太ることはないだろうが、それにしたって美しい。しかも網タイツにハイヒールである。素敵である。
「う、うおおぉぉう!? ふ、踏んでください! そして是非ともローアングルバストを!」
思わずテンション上がって叫んでしまう新次郎だった。念のためにもう一度言うと、馬鹿なのだ。
「素敵に変態なようで嬉しいよ! うん、これならわれの契約者に相応しい! さぁ、貴方とわれでエンゲージ!」
そんな新次郎の頭を冷やす単語が返ってくる。
契約。
「け、けけけ契約って悪魔との契約? う、嘘ぉ、そのバニーさんを見納めに俺の魂がデッドエンド!?」
「うぅん、違う違う。われが奪うのはあくまでエネルギー! われに言う事聞かせたら、供物を食べさせるか貴方から直接エネルギーを頂く事になるよ! 後者の場合、われとしばらく専属契約! 付きっ切りで傍に居てあげるから、いっぱい契約していっぱい食べさせて!」
説明を聞き、三つ目のカップラーメン(しお)を放り投げる新次郎。ばりごり食べる灼王を見つめながら、大仰にうなずく。そして
「やだ」
と一言。灼王は露骨に眉にしわを寄せ、カップラーメンの粉まみれの口をべろんと長い舌で拭った。
「な、なんでだよぅ? われは凄い事沢山できるし、エッチぃ事にフル対応だよ! そう、諸々の都合でここに書けないあんな事やこんな事まで!」
「書くってなんだよ。いやそうじゃなくて、確かに一家に一台奴隷少女は男のロマンで全世界男子が絶対に一度は考えるはずの事だが、それにかかるリスクとコストがね。付き従われちゃ色々と面倒だし、親の仕送りは……十分とはいえ、趣味にかける金をお前に使わなくちゃいけない。そう考えると、俺は遠慮したい気持ちマックスだ」
割と真面目な理由だった。
しかし動じず、先ほどの新次郎を真似るように灼王は大仰に頷いた。そして、朗らかな笑顔で
「まぁ、貴方の意思とかわりとどうでもいい!」
なんかすっぱりと言い切った。反論を重ねようとする新次郎だが、その耳を何かが掠める。
弾丸だった。
「え、え、ちょ、えええぇぇ!?」
音もなく飛来した弾丸はそのまま壁にめり込んだ。慌てる新次郎を追い立てるように、続いていくつも壁に穴が出来ていく。
「た、助けてええぇぇ!」
「よし、契約了解withカップラーメン一杯分!」
次の瞬間、新次郎の体は空中に投げ出されていた。数瞬後、剥き出しの白い腕に抱き止められてかなり際どい胸の谷間にジャストタッチする。生きててよかった、とか思う暇もなく急発車。
どうやら灼王によって何らかの力が働いたらしい事は分かるのだが、どこをどう走っているのか分からない。上下に揺れる胸を拝みながら、新次郎は状況把握に努める。結果、乳が素敵と言うことしか分からなかった。
「どどどどうしよう!? ていうか何が起こってるの!?」
「われの敵! 悪魔を取り締まる組織に罠にはまってみたいで、その組織の悪魔に追われているよ! われに衣服をくれたのがあの子なら、燃やしたのもあの子だね!」
「お前かー!」
後ろから銃弾が何発も飛んでくるが、何やら灼王の体に触れた時点で発火して燃え落ちている。もう何が起きても気にしない覚悟を決める新次郎だった。こういう時、細かい事を考える性格じゃなくてよかったと心底思うのだ。
「というわけで、死にたい? 死にたくない!? どっち、どっち、さぁどっち!」
「お、俺の意思が関係ないってのはこの事かー! く、くそぅ……確かに俺はお前の言うとおり、ちょっと嗜好がおかしいかもしれない。でも、それでも善良なる一般市民なんだよ! こんな事に巻き込まれたりするのはごめんだ!」
「知ったこっちゃないよ!」
「悪魔ああぁぁ!」
そうこうしている内にどうやら隠れる場所を見つけたようで、新次郎を下ろす灼王。ただの路地なのだが、この場所が何らかの条件を満たしているようだ。そうじゃないと家の中まで入ってくる不思議弾丸をかわせるはずがない。
落ち着き、深呼吸。すると、灼王が顔を寄せてきた。物騒な歯並びに、思わずのけぞる。
「もぉしわれと専属契約する気になったら、唇にちゅうだからね! さぁ、一般倫理を捨てて悪魔にすがるにはもってこいのシチュだよ!」
「えぇっ、俺のファーストチッスが! 出来るならおっぱい舐め回す方がいい!」
「んー、受け渡しにはそれなりの大きさの穴同士が最適だからねー。それとも、私のケツを舐めな! とか言われたい?」
「うわちょっとゾクっときた俺ってばマゾッ気あるのかもしれん」
とりあえず状況を考えると、あの弾丸に対抗するためには灼王を使うしかないだろう。狙いが自分ではないのだから離れればいいのかもしれないが、離れてる途中で撃たれそうで怖い。というかそもそも、灼王と関わっただけで殺されると言う可能性だって無きにしも非ずなのだ。生存確率は、契約した方がグンと上がるだろう。
あと、おっぱい的に契約した方がいいと覇乳を見たおっぱい神が言っていた。
「う、うす。じゃあ契約……します。や、優しくしてね……?」
「げっへっへ、生娘でもあるまいにぃ、という訳で!」
まんま襲い掛かる肉食獣のように真下から顔を激突させる灼王。普通なら歯をぶつけてしまうと言うか灼王の歯だと洒落にならない所だが、どういうわけか普通に唇を合わせていられる。唇が触れ合うだけの、軽い動作。
……出来心で舌入れてみた。
「いひゃひゃぎぃあがっ!? いぶがやべばぼっ!」
長い舌で絡めとられ、根元から歯で切断されそうになった。突き飛ばした。
「どうしてやめるの? 君もといご主人様にはひと夏のアバンチュール! われにはホモサピエンスのタン一丁前! そう、これぞ等価交換!」
「命と等価でたまるか! うわっ、血ぃ盛大に出てるぞいだいいだいいだい!」
「あぁっ、鉄分その他がもったいないよご主人様!」
口から血をだらだら流す新次郎に、もう一度唇を重ねる灼王。喉をごくごく鳴らしてるのはきっと気のせいだと思いたいけど意識が遠のいていく新次郎だった。
そんな訳で、一通り吸血兼止血を終えた灼王は後ろに倒れた新次郎を抱きとめ、壁に腰掛けさせた。
「うふふぅ、過剰摂取過剰摂取! 追い払うだけのつもりだったけど、過剰に仕事しないと申し訳がたたないなぁ!」
***
彼女は悪人に協力する節のあるマナー無き悪魔を狩る悪魔ハンターであり、彼女自身もまた悪魔だった。不特定多数の上層部と専属契約した組織の一員であり、絶対服従として任務をこなす戦士だった。
そんな彼女の前に現れたのはバニーガールだった。笑うしかない。
そう、もう彼女にはどうすることも出来ない。もう笑うしかない。自分の銃は通用しなかった。ならどうしろと言うのだ。契約によって服従する自分にとって任務は一つ一つが不退転、逃げることは許されない。
彼女は力なく笑いながら四肢を切断された。手首と間接でそれぞれ三つ、合計12に分断された自分の部品を見ていると、バニーガールの顔が自分の顔をのぞきこんでいる。
お洒落に手鏡を覗き微笑む女性のように、瞳に顔を映して気分の悪くなるような笑顔を浮かべている。ねぇ今どんな気持ち? そんな言葉が耳を掠めるが返事はしない。ただ、痛みの消える時を待って荒い息を整えようとしている。
そして彼女の体は燃え尽きた。計12の部品を残して。灼王という悪魔に殺された。
***
「おはよう! 良い朝過ぎて涙が出るね!」
新次郎はいきなりの大声に叩き起こされた。
朝、である。ちなみにベッドである。声をかけたのは、未だにバニーガールの灼王だ。
「え、あれ? どうなったの……って、体が動かないどうしよう!」
「あっはっは、お腹減ってる状態であそこまでエネルギー渡したからだね! 古来より悪魔に『魂とられて』死んじゃうのは身に余る願いを込めた人か、虚弱体質の人だから! 悪魔を操る唯一の条件は魔法でもなく儀式でもなく、よく食べてよく寝てよく運動して健康な体を作ることなの!」
凶悪な歯並びもむき出しに、ニコニコ笑う灼王。あぁなんか取り返しの付かない領域に居るんだな、と感じて暗澹とした気持ちになる新次郎。
「というわけで、過剰摂取分のエネルギーはまだ残っているから、われにたくさん命令するといいよ! 今のご主人様は頭の中で考えるだけで命令できる、専属契約状態だからね! 今日一日は、きちんと面倒見ちゃうよ!」
「え、じゃあ……」
言うが早いか、新次郎は腹が減っていることに思い至った。しかし普通の料理を出すのなんて出来るのだろうか、いやそれ以前にいきなりポンと出てくると食べ辛い。やっぱりここは調理を任せよう。
そう思った瞬間、灼王の服装が変わった。裸エプロンだった。超エロかった。
「ははっは、相変わらず良いご趣味だよ!」
「うおおおぉぉ! その布一枚の聖域に顔をうずめさせてください!?」
そんな小芝居をしているうちに、暗い気持ちはどこかに吹っ飛んだ新次郎だった。最後にもう一度言うなら、馬鹿なのだった。
もうなるようになれ、リスクはあってもお得だろうおっぱいとか。あぁでもエロい事してくださいって言う度胸ねぇや俺――ベッドに横たわったまま思考が回る。そのうちに灼王はキッチンへ向かった。
そこで、思い至る。
「そういや、冷蔵庫にゃ俺一人分ぐらいしかないと思うんだけど! お前、どうすんの!」
大声で呼び掛けると、返ってきたのは意外な返事。
「大丈ブイって奴だね! われは自分の朝御飯くらい調達してるよ!」
調達と言うと自分が倒れている間に何か買ってきたのだろうか、と首を傾げる新次郎。
彼は知らない、昨日の顛末を。彼は知らない、自分が契約した悪魔が同属すら食らう悪食だと言う事を。彼は知らない、結局その悪魔にとって人間はわりとどうでもいい存在だと言うことを。
こうして、大きな爆弾を抱え込んだ新次郎の新生活が始まった。
「さぁ、もっとわれにお願いして、われを満腹にするといいよ!」
変態ラブコメ第四弾と言いたかったけどラブがありませんでした。てへ。
……そんな訳で、連載出来そうな無駄設定を沢山考えつつも短編に落とし込みました。もっと色々バトルっぽい設定あったんですが全部切って。結果、ただおっぱいおっぱい言ってる話になりました。