第33話「評価されない仕事」
# 第33話「評価されない仕事」
朝の教室に、硬い靴音が響いていた。
第三探索者育成学園、一年生実技棟。
壁際には訓練用の剣や盾が並び、教室の中央には今日の実技試験で使う模擬戦用の装備が整然と置かれている。
神代悠斗は、自分の席からそれらを眺めながら、膝の上に開いたノートを閉じた。
「今日の実技、模擬戦だってさ」
隣の席で桐谷健吾が、いつもより少し大きな声で言った。
「模擬戦か。ようやく俺の出番って感じだな!」
「健吾、盾を持つだけで勝てると思わないことね」
東雲紅葉が、机に頬杖をつきながら笑う。
「持つだけじゃねえよ。相手の攻撃を受け止めて、仲間が動ける時間を作る。それが盾役だろ?」
「分かってるじゃない」
「おう。俺だって毎日考えてるんだぜ」
健吾が胸を張る。
その横で、月城美鈴は腰に装着した訓練用の剣を確かめていた。白石凛は試験要項を読み直し、九条レオンは教室の出入り口や窓の位置を何気なく確認している。
いつもの六人だった。
ただし、今日はいつもの観察実習とは違う。
試験の評価項目には、はっきりとした基準が並んでいた。
攻撃の命中率。
防御動作の正確さ。
反応速度。
魔力制御。
制限時間内の目標達成度。
どれも探索者として必要な能力だ。
悠斗も、それ自体に異論はなかった。
ダンジョンの中では、敵に攻撃を当てられなければ倒せない。攻撃を避けられなければ傷を負う。判断が遅れれば、仲間を危険にさらすことだってある。
問題は、評価項目のどこにも、採集士としての仕事が見当たらないことだった。
「……まあ、そうなるよな」
悠斗は小さくつぶやいた。
「何が?」
紅葉が顔を向ける。
「いや。今日の試験、俺が普段やってることは点数になりにくそうだなって」
「採集対象の特徴を見つけたり、情報を整理したりすること?」
凛が試験要項から目を上げた。
「ああ。敵を倒す試験なら、俺が周りを見てても直接点にはならないだろ」
「評価項目に入っていないなら、基本的にはそうでしょうね」
凛は淡々と答えた。
「ただし、評価されないことと、役に立たないことは別よ」
「分かってる。分かってるけどな」
悠斗は肩をすくめた。
「点数にならないと、成績には残らないんだよ」
その言葉に、美鈴が剣から手を離した。
「それは……そうね」
美鈴は少し考えてから、続けた。
「でも、試験の目的が戦闘能力の確認なら、戦闘能力を評価するのは間違っていないと思う」
「だな。俺もそれは分かってる」
悠斗はうなずいた。
別に、戦闘試験そのものに文句があるわけではない。
自分の苦手な部分を知る機会は必要だ。採集士だからといって、危険な場所で身を守る技術が不要になるわけではない。
ただ、これまで続けてきた観察や記録が、今日の試験では評価の外に置かれている。
それが、少しだけ気になった。
膝の上のノートには、昨日までの記録がまとめられている。
観察した事実。
情報の出どころ。
判断した理由。
分かっていないこと。
次に確かめること。
どれも、実技の採点表には書かれていない。
悠斗はノートを鞄にしまった。
「ま、やれることをやるしかないか」
そのとき、教室の前の扉が開いた。
「全員、装備を持って訓練場へ移動しろ!」
鬼塚蓮司の声が響く。
「今日は模擬戦形式の実技試験だ。普段の訓練の成果を見せてもらう。得意分野だけでなく、苦手分野から逃げるなよ!」
生徒たちが一斉に立ち上がった。
悠斗も席を立つ。
今日の自分にできることは何か。
その答えは、まだ見つかっていなかった。
◇
訓練場には、六つの模擬戦区画が設けられていた。
それぞれの区画には、攻撃役と防御役、そして補助役を想定した標的が配置されている。
生徒たちは数人ずつに分かれ、決められた課題をこなしていく。
「今回の試験では、指定された相手を制限時間内に無力化することを目標とする!」
鬼塚が説明した。
「ただし、無茶な攻撃は減点だ。訓練用の装備だからといって、相手の安全を無視していいわけではない。防御や回避を含め、正確な動作を評価する!」
鬼塚は採点表を確認し、続けた。
「評価は原則として個人ごとに行う。仲間の援護を受けた場合も、自分が何をしたかを説明できるようにしておけ」
悠斗は説明を聞きながら、区画の様子を眺めた。
模擬標的は、簡単な動作パターンに従って移動する訓練用の魔導人形だ。一定の間隔で前進し、近づいた相手に向かって腕を振る。
攻撃のタイミングを覚えれば、対処は難しくない。
しかし、個体ごとに動き出す間隔がわずかに違う。腕を振る角度にも差があり、反応の仕方を見誤れば、訓練用とはいえ衝撃を受けることになる。
「神代。お前は第三区画だ」
「はい」
「まずは基本動作を見せてもらう。目標を確認し、攻撃を避け、指定された位置まで接近してから一撃を入れろ。制限時間は一分。開始位置からの移動も評価対象だ」
「分かりました」
悠斗は訓練用の短剣を受け取り、指定位置に立った。
向かいには魔導人形が一体。
その脇には、移動の目印となる白線が引かれている。
周囲の生徒たちが見守る中、開始の合図が鳴った。
魔導人形が前進する。
悠斗は一歩、横へずれた。
腕が振られる。
その動きに合わせて距離を詰め、指定された位置まで移動する。
人形の胸部にある標的へ短剣を当てる。
「そこまで!」
笛が鳴った。
悠斗はすぐに距離を取り、短剣を下ろした。
「攻撃動作は合格。回避も悪くない。ただし、接近する際の足運びが少しぎこちないな。相手の動きに意識を向けすぎて、足元への注意が薄れている」
「はい」
「次はそこを意識しろ」
「分かりました」
鬼塚は採点表に記入した。
悠斗は指定位置に戻る。
結果は、可もなく不可もなく。
採集士としての能力は関係なく、今の自分の戦闘技術だけを見れば妥当な評価だった。
それでも、少しだけ引っかかる。
魔導人形が動き出すまでの間隔。
腕を振る角度。
接近する際に足元へ注意が向かなかったこと。
そうした情報は、頭の中に残っていた。
次に同じ相手と戦うなら、動きを予測しやすくなるだろう。
しかし、採点表に書かれるのは、あくまで今回の動作だった。
情報を集めたこと自体は、評価されない。
悠斗はその事実を、胸の中で整理した。
役に立たなかったわけではない。
ただ、今の試験が測ろうとしているものとは違う。
それだけのことだ。
◇
試験は順番に進んでいった。
美鈴は正確な剣筋で標的を捉え、健吾は安定した姿勢で攻撃を受け止めた。
紅葉は魔力の出力を調整しながら、指定された標的だけを狙う。凛は補助役として、決められた手順を守りながら味方の状態を確認していた。
レオンは無駄の少ない動きで標的の死角へ回り込み、短時間で課題を終えた。
それぞれが、自分の得意分野を発揮していた。
「みんな、順調だな」
悠斗が言うと、健吾が盾を肩に担いだ。
「まあな。俺は防御の安定性が前より良くなったって言われたぜ」
「私も魔力制御は悪くなかったわ。攻撃の威力はまだ課題だけど」
紅葉はそう言って、手のひらを見つめた。
「私は手順の正確さを評価されたわ。けれど、状況が変化した場合の判断は別に確認する必要があるみたい」
凛は採点表の写しに目を落とした。
「今回の課題は、あらかじめ決められた状況への対応が中心だったからな」
レオンが言った。
「実際の探索では、何が起きるか分からない。決められた手順を守るだけでは足りない場面もある」
「だからこそ、まずは決められた動作を確実にできるか確認する。そういう試験なんでしょうね」
美鈴が答えた。
六人とも、試験そのものには納得していた。
悠斗だけが特別扱いされるべきだとも思っていない。
むしろ、採集士だからといって戦闘訓練を避けていたら、いざというときに自分も仲間も守れなくなる。
それは父の右脚を見て育った悠斗が、誰よりもよく知っていることだった。
だからこそ、次の指示を聞いたときも、素直にうなずいた。
「続いて、二人一組での連携課題を行う!」
鬼塚が声を張る。
「攻撃役と補助役に分かれ、標的を無力化しろ。今回は連携動作と個人の技術を別々に評価する!」
生徒たちが組み合わせを確認し始めた。
悠斗は補助役に回された。
相手の動きを見て、攻撃役が安全に接近できるように声をかける。それ自体は、普段の探索でも必要になる仕事だ。
開始の合図。
攻撃役の生徒が標的へ接近する。
悠斗は魔導人形の足の動きを見て、声を上げた。
「次、右腕が来る! 一歩下がってから左へ!」
攻撃役が反応する。
振り下ろされた腕を避け、その隙に標的へ接近した。
「今だ!」
短剣が標的に当たる。
課題終了。
連携は成功した。
「よし!」
攻撃役の生徒が笑顔を見せた。
悠斗も小さく息を吐く。
今のは、うまくいった。
魔導人形の動きを観察し、次の行動を予測し、相手に伝える。
自分が直接攻撃するよりも、こちらのほうが役に立てる場面もある。
そのことは、以前から分かっていた。
しかし、鬼塚が採点表を見ながら告げた言葉は、悠斗の予想どおりだった。
「攻撃役、命中と回避は合格。補助役は声かけのタイミングが良かったが、今回は補助動作そのものの評価項目が少ない。連携への貢献は記録しておくが、個人技術の点数には大きく反映されないぞ」
「はい」
悠斗は返事をした。
成功した。
攻撃役の生徒も、危険な動きを避けられた。
それでも、自分の点数は大きく伸びない。
それは、試験の仕組みとしては理解できる。
補助役の働きを正確に測るには、もっと多くの条件をそろえなければならない。同じ相手、同じ攻撃、同じ距離で、補助の有無によって何が変わったのかを比べる必要があるだろう。
今回の課題だけでは、悠斗の声かけがどれほど結果に影響したのか、厳密には判断できない。
鬼塚は、貢献を記録すると言った。
完全に無視されたわけではない。
けれど、主要な点数にはならなかった。
悠斗はその違いを、ノートに書きたくなった。
ただし、今は試験中だ。
鞄の中のノートを取り出すことはせず、頭の中だけで整理しておく。
確認できたこと。
連携課題では、観察と声かけによって相手の回避を助けられた。
まだ分からないこと。
今回の成功が、どれほど自分の判断によるものだったのか。
次に確かめたいこと。
条件をそろえた訓練で、観察情報の共有が結果にどう影響するか。
そこまで考えたところで、悠斗は少し苦笑した。
「……試験を受けながら、試験の研究してどうするんだよ」
小さな声でつぶやく。
もちろん、研究すること自体は悪くない。
ただ、今はまず自分の点数を上げなければならないのだ。
家計は待ってくれない。
探索者としての評価も、卒業後の進路も、いつかは現実の生活につながってくる。
役に立つことと、評価されること。
その二つが同じなら、こんなに悩む必要はないのに。
◇
試験終了後、六人は訓練場の端に集まった。
「悠斗、さっきの声かけ、助かったよ」
連携課題で組んだ生徒が、通りすがりにそう言った。
「いや、うまくいってよかった」
悠斗は軽く手を振った。
礼を言われるのは嬉しい。
実際に役に立てたのだと分かれば、なおさらだ。
それでも、採点表に記載された点数を見れば、今日の結果は決して高くないだろう。
「納得できない?」
美鈴が隣から尋ねた。
「いや。試験の基準は分かる。戦闘の試験で戦闘能力を評価するのは当然だしな」
「なら、何が気になるの?」
「……自分が何をすれば評価されるのか、まだよく分からないんだ」
悠斗は正直に答えた。
「戦闘が苦手なのは分かってる。だから訓練する。でも、採集士としての仕事をどれだけ頑張っても、別の試験じゃ点数にならない。じゃあ、俺は何を目標にすればいいんだろうって」
美鈴はすぐには答えなかった。
彼女は剣を扱う者として、努力の結果が動作や命中率に表れることを知っている。
だからこそ、悠斗の悩みを簡単に否定することはできなかった。
「評価の基準が違うなら、目標も分けて考えればいいんじゃないかしら」
口を開いたのは凛だった。
「戦闘能力を上げたいなら、戦闘試験の点数を目標にする。採集士として成長したいなら、採集の精度や判断の正確さを目標にする。ひとつの試験で、全部を評価してもらおうとするから難しくなるのよ」
「なるほどな……」
「もちろん、採集士としての能力が実際に役立つことを示す必要はあるでしょうね。自分で有用だと思っているだけでは、他人には伝わらないから」
凛はノートを取り出した。
「たとえば、あなたが観察した情報を使って、採集の失敗が減った。危険な場所へ近づかずに済んだ。あるいは、持ち帰った素材の品質が上がった。そうした結果が記録できれば、評価する材料になるわ」
「でも、結果が出たからって、全部が俺のおかげとは限らないだろ?」
「ええ。だから、情報の出どころと判断の理由を記録するのよ」
凛は当然のように答えた。
「私たちが今まで続けてきた方法でしょう?」
悠斗は目を瞬かせた。
そうだった。
昨日、鬼塚に教わった記録方法。
観察した事実と、判断した理由。
分からないことと、次に確かめること。
それは、ただスキルの変化を記録するためだけのものではない。
自分たちの行動が、どんな情報に基づいていたのかを後から確かめるためのものだ。
「……そうか。評価されないなら、評価できる材料を残せばいいのか」
「ただし、結果をよく見せるために記録を変えてはいけないわ」
「分かってるって」
「念のためよ」
凛は眼鏡を押し上げた。
「都合のいい結果だけを残せば、あなたが最初に決めた記録の意味がなくなるもの」
「はいはい。事実と推測は分ける。分からないことは分からないまま書く。だろ?」
「理解しているなら結構」
紅葉が二人のやり取りを聞きながら、楽しそうに笑った。
「なんか、いつもの凛って感じね」
「どういう意味?」
「褒めてるのよ。たぶん」
「たぶんって何よ」
健吾が豪快に笑った。
「まあ、いいじゃねえか! 点数が低くても、役に立ったことまで消えるわけじゃねえんだろ?」
「そうね」
美鈴もうなずいた。
「私たちは今日、悠斗の声かけで攻撃を避けられた。採点表に大きく反映されなくても、それは変わらない事実よ」
「……ありがとな」
悠斗は少し照れくさくなって、頭をかいた。
レオンが静かに口を開いた。
「ただ、役に立ったという事実を、いつでも誰もが認めてくれるとは限らない」
その言葉に、六人の間に少しだけ静けさが落ちた。
「記録を残す意味は、そこにもあると思う。後から同じ状況を調べる人が、何をしたのか確かめられるようにする」
「レオンにしては、ずいぶん真面目な話だな」
健吾が言う。
「俺はいつも真面目だ」
「いや、普段から窓の外とか廊下の角とか見てるから、何考えてんのか分からねえんだよ」
「周囲の確認は必要だろう」
「それはそうだけどよ!」
紅葉が吹き出し、美鈴も小さく笑った。
悠斗もつられて笑う。
悩みが消えたわけではない。
明日から採点基準が変わるわけでもない。
けれど、今まで続けてきたことに意味がないわけではないのだと、少しだけ思えた。
◇
帰宅すると、台所から煮込み料理の匂いが漂っていた。
「ただいま」
「おかえり、悠斗。今日は実技試験だったんでしょ?」
母の美咲が鍋をかき混ぜながら尋ねた。
「ああ。模擬戦だった」
「どうだった?」
「まあ、普通。戦闘の点数は、そんなに高くないと思う」
悠斗は靴を脱ぎながら答えた。
居間では、蒼太が父の大輔に木剣の構えを教わっている。
「とおちゃん! おれの攻撃、よけられるか!」
「おっ、来い! S級の実力を見せてみろ!」
「うおおお!」
蒼太が木剣を振り下ろす。
大輔は大げさに身をひねり、わざとらしくよろめいた。
「ぐわああ! やられた!」
「やった! おれはS級だ!」
「おう、すげえぞ!」
父子のやり取りに、悠斗の口元も緩んだ。
大輔がこちらに気づく。
「おっ、悠斗! 試験はどうだった?」
「普通だよ。俺は採集士だからな。戦闘だけで評価されると、ちょっと厳しい」
「そうか」
大輔は木剣を蒼太に返してから、椅子に腰を下ろした。
「それで、お前は何をしたんだ?」
「何って……普通に攻撃を避けて、標的に一撃入れた。連携課題では相手に声をかけて、攻撃を避けやすくしたけど、そこはあんまり点数にならなかった」
「でも、相手は攻撃を避けられたんだろ?」
「ああ」
「なら、やったことには意味があったんじゃないか?」
大輔はあっさりと言った。
悠斗は少しだけ眉を寄せた。
「それは、学校でも言われたよ。でも、点数にならないと、評価されないだろ」
「点数は学校が決めた基準でつけるもんだからな」
大輔は右脚をかばうように座り直した。
「俺も昔は、敵を倒せば評価されると思ってた。強い魔物を倒す。難しいダンジョンを攻略する。そういう実績があれば、誰もが認めてくれると思ってたんだ」
大輔は笑った。
「でもな、探索者の仕事はそれだけじゃない」
「……父さんも、そう思うのか?」
「そりゃそうだ。素材を持ち帰る奴がいなきゃ、街の工房は商売にならない。道を調べる奴がいなきゃ、後から来る探索者が危険な目に遭う。荷物を運ぶ奴がいなきゃ、どんなに強い奴だって長くは潜れない」
大輔は自分の右脚を軽く叩いた。
「俺は怪我をして、前みたいには動けなくなった。強さだけで考えれば、昔の俺より今の俺は劣ってる」
「……」
「でも、倉庫の仕事をして、荷物を整理して、素材の状態を確認して、運ぶ順番を考える。そういう仕事を必要としてくれる人もいる。派手じゃないし、昔の俺を知ってる奴には、もったいないって言われることもあるけどな」
大輔は肩をすくめた。
「必要な仕事かどうかは、点数だけじゃ決まらない。だが、仕事として認めてもらいたいなら、何をしたのか、どう役に立ったのか、相手に伝わる形にするのは大事だ」
悠斗は父の言葉を聞きながら、今日の試験を思い返した。
自分の声かけで、攻撃役は攻撃を避けられた。
しかし、その判断がどれほど有効だったのか、採点表からは読み取りにくい。
それなら、次はどうするか。
同じ条件で何度か試す。
予測が当たった回数だけでなく、外れた回数も記録する。
情報を伝えた場合と、伝えなかった場合の違いを確かめる。
もちろん、危険な方法で試すわけにはいかない。
学校の訓練で、安全が確保された範囲で行う必要がある。
「……父さん」
「ん?」
「俺、採集士として何ができるのか、もっとはっきりさせたい」
大輔は目を細めた。
「いいじゃねえか」
「戦闘が苦手なのは変わらないと思う。でも、それだけで終わるのも嫌なんだ。採集士として役に立てることがあるなら、ちゃんと形にしたい」
「なら、やってみろ」
大輔は笑った。
「ただし、無理はするなよ。役に立つことと、自分を危険にさらすことは違うからな」
「分かってる」
「本当か?」
「分かってるって」
「よし。じゃあ、今日の晩飯は食いながら反省会だ!」
「なんで飯が反省会になるんだよ」
「失敗した日も、うまくいった日も、飯は食うだろ!」
「それはそうだけどさ……」
台所から美咲の声が飛んできた。
「二人とも、話すのはいいけど、手を洗ってからにしてね!」
「はーい!」
蒼太が元気よく返事をした。
悠斗も笑いながら洗面所へ向かう。
食卓には、煮込み料理と、安売りで買った野菜を使った炒め物が並んでいた。
豪華な食事ではない。
それでも、家族がそろって食べられる飯はうまい。
悠斗は箸を手に取った。
「いただきます」
まずは金だ。
家族が安心して暮らせるだけの金を稼ぐ。
そのために、探索者として成長する。
戦闘が苦手なら、訓練する。
採集士としての仕事が評価されないなら、何ができるのかを確かめて、伝わる形にする。
やることは、思ったより多い。
だが、ひとつずつ進めていけばいい。
悠斗は煮込み料理を口に運びながら、明日の訓練で何を確かめるか考え始めていた。
◇
その夜。
宿題を終えた悠斗は、机の上に二冊のノートを並べた。
一冊は授業や実習の記録。
もう一冊は、《採集士》の変化や、これまでに聞こえた通知についての記録だ。
今日の試験結果を、まず一冊目に書き込む。
実施内容:模擬戦および連携課題。
確認できた事実:
・基本的な回避と攻撃は実行できたが、接近時に足元への注意が薄れた。
・魔導人形の動きから次の攻撃を予測し、攻撃役に伝えることで、回避を補助できた。
・連携課題は成功したが、補助役の貢献は個人技術の点数に大きく反映されなかった。
分からないこと:
・今回の成功が、観察、判断、声かけ、それぞれのどの要素にどれほど左右されたのか。
次に確かめること:
・安全な訓練環境で条件をそろえ、観察情報の共有が行動に与える影響を記録する。
悠斗はペンを止めた。
続いて、二冊目のノートを開く。
《採集士》の成長。
情報整理能力。
新規機能の発現。
そして、《絆システム》。
どれも、まだ分からないことが多い。
今日の試験中に、特別な通知はなかった。
情報を整理する感覚が、普段よりはっきりしたわけでもない。
ただ、これまでの訓練で身につけてきた観察と判断が、実際の課題で役に立った。
それだけは確かだった。
悠斗は二冊目のノートに、短く書き添えた。
――本日の試験では、スキルに関する新たな通知なし。観察と情報共有が役立った場面はあったが、スキルの影響か、訓練による習熟かは未確認。
「……よし」
ノートを閉じる。
点数は、明日になれば正式に分かるだろう。
採集士としての評価は、まだ分からない。
それでも、今日やったことまで無駄になったわけではない。
悠斗は机の上を片づけ、布団に入った。
自分の仕事が、すぐに認められるとは限らない。
けれど、認められないからといって、何もしなくていい理由にはならない。
まずは金だ。
そして、その金を稼ぐための力を、ひとつずつ身につける。
採集士として何ができるのか。
まだ答えは出ていない。
だからこそ、明日も確かめていく。
悠斗は目を閉じた。
明日の訓練では、今日より一歩だけ、うまく動けるように。
そしていつか、自分の仕事を必要としてくれる人に、胸を張って説明できるように。
そのための一日は、こうして終わった。
次回、第34話「点数の外にある成果」
実技試験の結果が返ってくる。戦闘能力の評価に伸び悩む悠斗は、連携課題での記録を振り返り、何が成功につながったのかを仲間たちと検証する。点数だけでは測りにくい成果を、どうすれば確かな実績として残せるのか。六人は、次の訓練に向けて新たな課題を見つけていく。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!




