いちのじゅうよん 「吉祥果と書いてザ・ク・ロと言います」のザクロ
「遅い!」
きららを飛ばすより先に、教室の全生徒がきららに向かって飛んで来ていた。
まるで重力の中心がきららで、そこを目掛けて落下しているかのようだった。
さらに、みんなの制服がGのような色になってて、一様に真っ赤な目をしている。
まるで2次元世界のハート目みたいだ。
「あいちゃんに魅了されちゃったんだ」
〆子が言う。そういえば、教室にはフェミニンな香りが充満している。
「はやく、きららを飛ばせ!」
うんんんんんーーーーー!
やってみた。が、駄目だった。
きららの上に何人もの生徒が山積みになりだしている。
ぱーーーーーーーーーん!
人の山の中から光彩が放たれた。
一瞬にして山積みの生徒たちが吹っ飛び、壁や天井にたたきつけられた。
生徒の山積みがあったその真ん中にきららの立ち姿。
腕には衝撃反動銃が着いていた。
シュ!
衝撃反動銃が消える。きららの腕から黒汁が滴る。
余念のない康太の仕業だ。
ぼわ!
きららは再び武器腕を5次元から取得すると、
「飛ばして!」
俺は後先も上下判断も考えず、めっちゃ耳を傾ける。
うんんんんんーーーーー! さっきの5倍の力で、
わぼ!
周囲に猛烈な陽炎が立ったと思ったら、
刹那、きららの姿が消えていた。できた!
その跡に遅れて飛んできた生徒の山が仕上がる。
きららの動向に聞き耳を立てる。
場所は、社会科準備室。
きららは、あいちゃんの背後に迫っていた。
〆子の声が言った。
「あいちゃんは、目はめっちゃ聞こえるけど耳が見えないの」
あいちゃんの充血した目を思い出す。
なるほどあいちゃんは《《目利き》》だ。
「インプットはすごいけど、アウトプットの方向性が定まらない」
ウィキなら出力先を固定化できる。
「だから、いつも誰かの耳を使って状況を見ながら、吐息で生徒を操って来る」
ぼわ!
「そう、あいちゃんの武器は吐息、弱点は近接攻撃」
きららが言って武器腕を構える。
シュ!の音はしない。
目の前の生徒の山を見る。ハート目をした康太が幸せそうにねそべっていた。
これはチャンスか?
きららが右腕を突き出す。
きららの右腕はミニガン型の武器腕になっていた。
被弾者が痛みを感じる前に死ぬところから通称無痛ガン。
バトロワゲームで最強認定されてるやつ。
「よっこらせ」
きららが右腕のミニガンを構え、空いた左手で取っ手を持つ。
「喰らえ! 元カノ」
電動式ガトリングが超高速回転し、毎秒100発の銃弾をお見舞いする。
きゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいん。
弾帯が頭をもがれた大蛇のように踊り狂い、高速で弾丸を補充してゆく。
回転音と発射音と着弾音と破壊音がごちゃまぜになってそこにカオスが現出する。
いまや社会科準備室は小規模爆発の巷と化した。
きーーーーーーいいいいぃぃぃん。
しばらくして、電動式ガトリングの回転が止まった。真っ赤に燃える銃口。
周囲を覆いつくす煙幕で状況は把握できない。
徐々に白煙が晴れてゆく。
あいちゃんの背中はハチの巣だろう。そうなる前にもう一度あのシースルーを拝みたかった。
視界が晴れた。
あいちゃんは無傷のままその場に佇んでいた。
そして、その目の前に大手を広げて立ち塞がっているのは小学生くらいの女の子だった。
ぱっつん髪のおかっぱ頭。大きなG色のランドセルを背負い、ギンガムチェックの制服を着ていた。
「ザクロ、あんたまた?」
「きららねえさん。こんにちわ、何G時間ぶりかしら」
「知らない。今度こそ決まったと思ったのに、また邪魔しに来たの?」
「そう言わないでよ。あたしは好きでここに来たわけじゃないから」
すると、そのザクロという少女は俺の耳の方に向かって、
「あ、初めまして、わたくし井澤きららの妹で井澤ザクロ。
吉祥果と書いてザ・ク・ロといいます」
と言った。それを受けてきららが、
「はあ? そんならあたしは、雲母と書いてき・ら・らだわ。しかし、誰に挨拶を?」
と尋ねる。
「あら、二等兵様ですよ。ここに聞きに来ておられる。やっとお目ざめになられたのですね」
「だとしても、あんたに関係ないでしょ。Gの使者のあんたに」
「あら、大ありですよ。Gがあたしをここに寄越したのは、二等兵様のせいでバランスが崩れてるからですもの。ボーダーとストライバーの」
「またなの。ほんと、いい加減にボーダーに肩入れするのやめろって」
きららのセリフを横取りして、ザクロ少女が言った。
「それ、Gに言ってもいいですけど、意味ないかと」
「分かってるから。そんなこと」
きららが苛ついているのがひしひしと伝わってくる。
よっぽど妹さんと仲が悪いのだろうか。
〆子の心の声が言った。
「ザクロはあたしたちストライパー側の人質なの」
そうそのさっき唐突に飛び出してきた新しいターム。
ボーダーとストライパー
「ストライパーって何?」
〆子は前を向いたままうつむき加減で言う。
「まだ、ショウは知らなくていいよ」
その間も、きららとザクロ姉妹の会話は続いていた。
「そこをどきなさい。でないとザクロ、あなたごと粉微塵にしてあげる」
「もう、きららねえさんは、昔っから血の気が多いっていうか、気性が荒いっていうか、そんなだからあいちゃん先生に振られちゃうんだよ」
「お前まで何を! そこに直れ!」
と言うが早いか、実の妹?に対してミニガン毎秒100発をお見舞いしだした。
激しい回転音と発射音が社会科準備室に鳴り響く。
破壊のカオスが辺りを覆いつくす。
それが、もういいだろってくらいの時間続いて、ついに弾帯がミニガンに吸い込まれ全ての弾を撃ち尽くすと、
きーーーーーーいいいいぃぃぃん。
と電動式ガトリングの回転が止まった。
充満していた白煙が晴れて行く。
もとの場所には、ザクロ少女が平気な顔をして立っていた。
「いくらでも取り出せるからって、もったいなくない?」
と、きららの周りの薬莢の山を指してザクロが言う。
「うるさい、5次元の壁などいつかあたしがぶち壊してくれる」
そう言われたザクロは、パントマイムの様に目の前の空間を掌でなぞりながら、
「これは、あたしたちには無理ですよ」
と言った。
見えない壁が、きららとザクロの間にはあったのだった。
「ともかく、今G時間の戦いは中止です。皆さんはおとなしく教室に戻りなさい」
と言うと、ザクロ少女の周りに激しく陽炎が立ちはじめ、
わぼ!
といって忽然と消え去った。
きららは踵を返して、社会科準備室を後にする。
あいちゃんがその背中に向かって笑顔で手を振っていた。
教室では、生徒たちが三々五々生徒の山から起きだして、何ごともなかったように自分の席に戻って行った。
待ちに待ったお弁当の時間。今日はきららもお弁当仲間だ。
3人でお弁当の時間。
きららは、予め分かってたかのように少し大きめのお弁当を持って来てる。
正面にきらら、右手に〆子。
「はい、あーーーーーん」
きらら?! 目の前に差し出された卵焼き。
「パク!もーぐもーぐもぐ」
食べたのは〆子だった。
ん? さっきお弁当は食べ終わったんじゃ?
きららのお弁当を見ると食べたはずの卵焼きも鮭の塩焼きもまだ手付かずのままだった。
俺の海藻サラダは、うんざりするほど爆発的な状態をタッパーの中で主張したいた。
時計を見ると、12:50。お昼休みになって10分しかたっていない。
「そうだよ。ショウくん。時間が戻ったの」
きららが俺を見て行った。
「Gが介在すると、いつもこう」
〆子の声が言った。
それを受けてきららが、
「あいちゃんのところに耳を傾けてきららを飛ばしたことも、ザクロにミニガンを乱射したことも」
「「なかったことにされる」」
〆子ときららがお互いの肩に手をやって、くすくすと笑いだした。
起こったことの記憶はあったが、満腹の記憶はなかったので、俺は普通にお弁当を食べつくした。
「「「ごちそうさまでした」」」
お弁当を片付けながら、きららが言った。
「でさ、今日の6限目って言語文化だったじゃない」
最悪のタイムカリキュラムだ。クラスの8割が永眠するだろう。
「その時間、あたしこのクラスに来てるね」
「なんで?」
「それ聞きますか? 二等兵殿」
「女の子にはいろいろある?」
〆子の握力がギネス記録を狙いだした。
いたたたた。
「重力場がおかしいから」
「ジューリョクバ?」
「でしょ、言ってもわかんないから」
「いやいや、説明してよ。いきなり量子力学的ヘッグス粒子なこと言われてもですね」
「%(%’’QW)('W'QE=E|E=QWQ)=QE|=QWEQ……」
それが3分ほど続いた。
俺はきららを制して言った。
「いや、ちゃんと教えて。わかるように」
「2度目だよ、は通じないか」
ときららが言ってため息をつくと、説明を始めた。
教室は平常のままの静かな時間が流れていた。
ときどき教卓のほうで巨大な銀色の耳がそば立つ以外は。
(毎日2エピソード更新)
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