第一章 2018年の君へ 第五節
あなたは私を救ってくれた
こんなにも血で汚れた手を握ってくれた
だからせめて
あなただけは…
魔獣には協会が定める1から5のレベルによる強さの指標がある
具体的にはレベル1は雑魚、レベル2で普通、レベル3が強くてレベル4が最強といった具合だ
またレベル0、そもそも魔獣以下の存在もいるがそちらは追々…
とにかく魔獣はレベル4が実質的な最高位になる
ではレベル5はなんなのか?
レベル5に指定された魔獣はその名称が天災と呼ばれる
かつては悪魔や天使、厄災、使徒などと様々な名で呼ばれていた存在
分かりやすく言えば人間の手ではどうすることもできない存在なのである
「私が天才? そんなーそれほどでもあるかもですけど…」
「違う天災だ 天の災いと書いて天災だ」
「…」
自分でも言われた言葉の意味は分かっていた…
けどまるで納得がいかなかった それこそ聞き間違えたフリをしないとおかしくなりそうなほどに…
「どうしてそう思ったんですか? 私、普通の人間ですよ?」
「天災だと自覚がなくても仕方ない 後天的なものだろうからな」
「そんなのあるんですか?」
天災は呼び方こそ違えど魔獣と存在自体は変わらない
ただ生まれた時から天災として存在するはずだでも私にはちゃんと人として生まれた記憶がある 家族もいる
もっともそれを証明してくれる人はもういないけど…
「これは推測ですが祈さんは過去に天災と契約した可能性があります」
レモネードさんは言った
でも私には天災と契約した覚えなんてなかった
「契約なんてそんな… そもそもどうして私が天災だって分かるんですか?」
「お前の魔力基幹、その構造が人間のものと違いすぎてるからだ」
「えっ?」
魔力基幹が人間のものじゃないってどういうことだろう…
魔術回路は魔術師なら誰でも持っている器官のことだ
体内に取り込んだマナを魔力に変換する役割がある
人間だけじゃなくて魔獣やもちろん天災にだってこれは備わっているわけだけど、私の魔力基幹が人のものじゃないってことはもしかして…
「お前のソレは天災と同じものなんだよ」
「……」
もっとも恐れていた回答に頭の中が真っ白になった
「そんな…」
「人間が天災になるケースは一つだけ、天災と契約したときだけだ そして人間と契約して眷属、つまり自分の配下となる天災を生み出せる存在も一つしかない」
「それって…」
彼女…モカさんの説明で少しだけ冷静さを取り戻す
そうだ、かつて天災は様々な呼ばれ方をしていたんだ
例えば悪魔、天使、神の使い、使徒、そして…
「吸血鬼」
モカさんは静かにそう言った
「吸血鬼…」
「ああ 天災の中でも唯一、後天的に人間や他の生き物が変成することがある存在だ」
彼女の言葉に納得する
魔術史における吸血鬼の起源は遥か昔に遡る
ある天才的な魔術師が人間と魔獣、正確には天災との交配を試みた
その結果、人間の母体から生まれたのは天災でも人間でもないなにかだった
本来ならすぐにでも死んでしまうような儚い生命
しかしそれらは中途半端な不死性と衰えることのない肉体から生き延びてしまった
やがて人を憎み人を滅ぼさんとするその存在は吸血鬼と呼ばれるようになったのだ
「でも私… 吸血鬼から血をもらったことなんてありませんよ」
「そうか だがお前の記憶の有無に関わらずお前の魔術基幹が吸血鬼由来なことは間違いない」
ちからなく呟いた私の言葉にモカさんは冷たくそう言った
「どちらにせよ今日はここに泊まれ 協会に行ったなら連中も気が付いたはずだ」
「そうですね 協会が祈さんの異常に気が付いたなら祈さんの処理を行おうとするはずです」
「処理…ですか?」
レモネードさんの言葉に恐る恐る聞き返した
「天災に加担した魔術師、あるいは天災と契約した魔術師は例外なく処刑されます
そして祈さんはまだ正式な魔術師ではない そうなると考えられるのは」
「秘匿下での死刑か… となると『火葬屋』が動きそうだな」
身に覚えのない罪で死刑なんて…
現代日本で暮らしている私にとって現実とあまりにも乖離した状況だ
だからこそ怖い…
死ぬことも 殺されることも
今にも泣き出しそうな私に向って近づいてきたレモネードさんは言った
「あなたは死なせませんよそのために私たちがいるのですから」




