第一章 2018年の君へ 第三節
魔女の奏でる旋律は火を燈す
「私が来た それだけでこの場は丸く収まりますから」
そう言った女性は手にナイフを持っていた
「術式展開 略式 物質生成・四重奏」
瞬間、空中に氷の塊が生成される
一つ一つが車のタイヤぐらい大きいしかも同時に四つも生成した
「すごい…」
水属性と火属性の結合で発生する氷属性の術式、それだけでBランク以上の技能だ
「あ、でもハウンドは火属性ですよ! 氷属性は相性が悪いんじゃ…」
「御心配には及びません だってこれは…」
「ただの目くらましですから」
その瞬間、氷塊が爆ぜた
四つのうちの二つは粉々に砕け散り、残りの二つはゴルフボールぐらいの大きさに分裂した
細かい氷の粒は空気に流されて周りに飛び散りかろうじて型を留めたままの氷塊はハウンドにめがけて飛び込んでいく
当然、その全てがハウンドによって溶かされてしまうのだがその一瞬の隙で女性の姿は見えなくなった
突然の出来事に驚いたハウンドは周りを見渡すがどこにも彼女の姿はない
獲物に逃げられたと思ったハウンドは再び私に照準を合わせる
後ろ足を伸ばして今にも飛びかかろうとするが体が動かなかった
ハウンドの体は白く凍り付いていいたのだ
「油断大敵ですよ 火属性の汎用術式における術式効果には熱量の調整も含まれていますがこれはその応用 あらかじめ散布した氷の粒を水蒸気に変換してあなたの周りに漂わせる そしてそれを再び氷結化させればこうなります」
ハウンドは睨みつけながらうなっている
「まあ所詮、犬には理解できない話しでしたか…でも」
そして彼女はややひきつった笑みで話した
「あなた ハウンドではないのでしょう?」
「えっハウンドじゃないんですか?」
思わず聞き返して居\しまう
「ええ ハウンドにしては弱すぎます」
さっきまで苦戦していた相手が弱いと言われて若干落ち込む
そりゃホロスコープからしたら雑魚かもだけどさ…
しかし彼女の見立ては正しかった
ハウンドは突然、解けたように形が変わっていく 普通の魔獣ならありえない現象だ
そして段々と色も抜けてきて半透明になっていく
そして現れたのは…
「やはりスライムでしたか」
「スライム!? スライムってレベル1の低級魔獣じゃないんですか!?」
スライムの驚異判定はレベル1、最低ランクの魔獣でDランクの私でも倒したことがある
それなのにさっきまでハウンドそっくりに擬態するなんてありえなかった
「スライムはスライムでもおそらくはミミックスライムでしょう 彼等は弱った上位魔獣を捕食することがありますし捕食した魔獣や生き物に擬態することもできますから」
「スライムにそんな種類がいたなんて…」
「驚異判定はレベル2ですがハウンドを捕食、擬態したのならギリギリレベル3というところでしょうか… いずれにしても弱いですが」
スライムの属性は水属性だ土属性の効き目が弱かったのも納得がいく
さっきまでの攻撃のダメージが残ってせいか擬態を保てなくなったスライムはそのまま逃げていこうとした
「させませんよ」
そう言って彼女は一歩前に踏み出した
「錬成術はあまり得意ではないのですが先ほど撒いた氷の粒を吸収してくれて助かりました 略式 材質変換」
スライムの体が淡く光ったが何も変わらなかった
「術式指定 略式 着火・五重奏」
スライムの内側が一瞬だけ光ったあと… 爆音とともにスライムが爆発した
「え!? え!? なにしたんですか!?」
「スライムの中に取り込まれた氷の粒をガソリンに材質変換しました スライムの体は内部の不純物と勝手に同じ材質になるので可燃性は高まります あとはそこに火をつければ 大爆発という寸法です」
にっこりと笑顔で彼女は語った
めちゃくちゃだ… でも術式の多重詠唱、それも五重奏なんて…
目の前にいる人物がホロスコープなんだと改めて実感する
「結局、スライム相手にはコレは必要なかったですね」
手に持ったナイフを懐にしまい、私に手を差し伸べた
「お怪我はありませんか? 少々、火力を見誤ったようでしたので」
「あ、はい… 大丈夫です…」
「それはよかった ところであなた…」
私の手をとり立たせてくれた彼女はその青い瞳で見つめながら言った
「魔女になる気はありませんか?」




