バーサス
シミの浮かんだ天井を見上げ僕はため息をつく。
無数の天井のシミ。
何度も雨漏りを直した後だろう。
住み慣れた築七十年のオンボロアパート。
梅雨の時期にはコンクリの壁からキノコが生える程ボロだ。
トイレ風呂共同で月に三万。
まあまあの激安アパートといえる。
はあ~~と溜息をつく。
うん。
飯でも食うか。
立ち上がり台所に向かう。
台所の左のコンロの上に鍋が有る。
鍋には水出しした出汁が入っている。
夕飯用の出汁だ。
まだ何を作るか考えてない。
昼はソーメンにするか。
棚の中から最後のソーメンを出して茹で麵つゆで食べる。
丁度食べ終わった時の事だ。
ピンポーン!
「ちわ~~す」
玄関の呼び鈴が鳴った。
来客である。
仕事先の友人の一人だ。
玄関のカギを開ける。
「御飯食わせて」
部屋に入った直後イラっとする事を言う。
「お腹空いた~~なんか食わせて」
五分刈り細目の男が陽気な声を上げる。
アロハシャツにジーパン。
素足にサンダルの男。
藻部太郎。
それが此の男の名だ。
仕事先では太郎と呼んでるが。
まあ~~良いか。
ゴキンッ!
「ぎいゃあああああああっ!」
思わず玄関に常備している金槌で太郎の頭を殴った。
金属音がするが気にしない。
ゴロゴロ。
悲鳴を上げ玄関で転がる太郎。
「何するんだああああああああ!」
僕に詰め寄る太郎。
「いい加減に人に飯をたかるのは止めろと言ったろ」
僕は太郎を睨みながら脅す。
「あ~~」
冷や汗を流し視線を逸らす太郎。
「はあ~~いいや、棚を探しな何かあるだろう」
こいつ……パチンコで金をすったな。
同じ安月給の癖に。
「おおっ! 流石っ! ではお言葉に甘えて」
部屋に上がり棚を漁る太郎。
「カップ麺一個あった!」
「あ~~良かったな」
そう僕が溜息をついていた時の事だ。
ピンポーン!
「お邪魔します~~」
玄関の呼び鈴が鳴った。
来客である。
仕事先のもう一人の友人だ。
玄関のカギを開ける。
「御飯食わせて」
お・ま・え・も・か。
イラっとした。
「お金ないんで食わせて」
長めの角刈りに意志の強そうな瞳。
革ジャンにジーパン。
黒い革靴を履いた男。
暁太郎。
それが此の男の名だ。
仕事先では暁と呼んでるが。
藻部と同じ太郎なので暁と呼んでる。
藻部と間違えやすいので暁と呼んでる。
他意はない。
うん。
握ってた金槌を暁の頭に叩き込む。
ゴキンッ!
金属音がした。
「ぎいゃあああああああっ!」
既視感。
芸が無い。
ゴロゴロ。
悲鳴を上げ玄関で転がる暁
「痛いだろうがあああっ!」
僕に詰め寄る暁。
「お前も人に飯をたかるのは止めろと言ったろ」
僕は暁を睨みながら脅す。
「お前も?」
「よう」
冷や汗を流しながら太郎と目を合わせる暁。
「お前もか」
「新台が出てな」
「分かる」
こいつら……
同じ安月給の癖に。
「二人で分け合って食え」
「「ええ~~」」
「あん?」
「「……」」
僕の怒りの声に大人しくなる二人。
三分後。
太郎がカップ麺の蓋を取る。
ズ~~。
太郎が一口食う。
ズ~~。
暁が一口食う。
太郎が一口食う。
ズ~~。
暁が一口食う。
ズ~~。
太郎が一口食う。
ズ~~。
暁が一口食う。
「待て」
「何だ?」
暁を止める太郎。
「お前多く食ってないか?」
「気のせい」
「そうか」
ズ~~。
太郎が一口食う。
「待て」
「何?」
「お前食いすぎ」
「気のせいだ」
「「……」」
二人はにらみ合う。
「ふ」
「ふう」
「ふっふっ」
「ふう~~」
二人とも嫌な笑いをする。
「「変身」」
太郎は、上下ジャージの様な強化服を纏う。
戦闘員A。
そう呼ばれる存在だ。
暁は赤い胸当てに革製の上下に特徴的なベルト。
ママチャリライダー。
そう呼ばれる怪人だ。
二人は高速でカップ麺の麺を取り合う。
人外の速度で。
阿保だろ……。
改造人間の力をこんな事に使うなんて。
戦闘員と怪人で互角。
ミスマッチと言うか何というか……。
ミスマッチアプリ。
……。
「うらああああっ! 麺よこせえええっ!」
「ざけんなあああっ! 此れは俺のだああああっ!」
くだらない事に改造人間の力を使う馬鹿二人。
イラっとした。
ゴキンッ!
ゴキンッ!
二人を金槌で殴った。
「「ぎやあああああああっ!」」
二人同時に痛みで悶絶する。
「いい加減にしろっ! 二人ともっ!」
「「すみません~~おやっさん」」
僕の言葉に土下座する二人だった。
あ~~ムカついた。