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天才テイマーは魔物にチヤホヤされて過ごしたい!そのために厄介事を解決します!   作者: 蛇ノ眼
第五章『最大の厄介事開始!それは謎の招待状から始まった』
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第72話「1日でも長く」

(ガシャガシャガシャ)


 シャープはグルグルと無心に生クリームを混ぜる。お菓子を作っている時は心が落ち着いた。

 とは言え心境は複雑すぎた。


 自分が昨日しようとした事を思い出しては顔を1人で真っ赤にしていた。

 何がマズイかというと、確実にその熱くなるベクトルが以前と違う事に気が付いているからだ。以前は怒りが大きかった。 

 だが今はそうではない。


 

 『お前もいつか解る時が来るさ』リーダが言った言葉を思い出す。


(アイツはこんな複雑な心境を何年も前から持っていて、ソレを決して表には出さず使い魔としてカレットを守るため傍にいる)

 

 同じような立場になってシャープはやっと理解した。


(ウィンが俺に持つ様な感情を、俺までがウィンに持ってはいけないのだ……)


 なぜなら、そうなればシャープの寿命が尽きるその瞬間までウィンは自身の身を削るからだ。シャープにしてみれば、そんな事でウィンに弱って欲しく無い。ましてや、命なんて落とされたら出会った事を後悔するレベルだ。

 

(じゃあ、俺はどういう態度を取っていればいいのか?)


 それを考えると、結局はリーダと同じ思考にたどり着く訳だ。

 テイマーと使い魔、ソレ以下でもソレ以上でも無い関係の維持。それが一番お互いにダメージが少ないという事実に。

 

「そう……そうやな……だいたい俺がウィンに好意を向けてどうなるっちゅうねん」


 カレットとリーダと違って男同士なのだ、結局ソレ以上は無い……だろ?とシャープは考える。

 


「そうですねぇ~、公認になればもっと楽しい事が出来るんじゃないでしょうかぁ~?たとえば!メイドさんの服を着て『ご主人様ぁ~♡』とか……ぐふふ」

「!?!?!?!?」

 

 持ってたボウルを投げ捨てそうになるシャープ。

 

「おっと!あぶないですよ?皆シャープのお菓子楽しみにしてるんですから」

 

 ウィンが後ろからその手ごとボウルを受け止める。

 

「あ……あ……」

「どうしたんですか?シャープ真っ赤ですよ?ほら?やっぱり変なのはシャープの方でしたでしょぉ?」

 

 シャープはスグ後ろにあるウィンの顔を直視できないでいた。


「ちゃ……ちゃうねん!!そういう意味で言ったんやないねん!!」

「何がですか?」

「だからっ!!俺は……」

 

 一瞬シャープの目の前が塞がれて唇に何かが触れた。


「……え?」

 

(今……こいつ……何をした?)

 

「……何?」

「あまりにも美味しそうだったので……つい、ツマミ食いです」

 

 舌を出して笑うウィンの顔を見てシャープは赤面する。

 

(コイツ……こんな優しい顔で笑えたんやな……いや、いつもと変わらんのか?そう見えてる俺の目がおかしいいんか?いや……というか……ウィンと今キスをした!?)


 その後のシャープは砂糖と塩を間違ったり、イチゴとトマトを間違ったりと散々だった。




 ――――――


 

 

 その後、庭で『ウィンが元気になって7日目パーティー』を住人達で楽しんだ。

 気が付けば、皆思い思いに散って行き庭園のテーブルに残ったのはウィンとシャープだけだった。

 

「平和な1日でしたねぇ~」

「なぁ?体調は?大丈夫なん?」

「シャープ心配しすぎですよ、お母さんみたいですね」

「うぐ……」


 心地の良い風が吹いて会話が一瞬途切れる。

 シャープはと言うと、先ほどのキスがずっと頭の隅にありウィンをまともに見れないでいた。


「あ……ああ!そうや、契約外したままやった」

「そうですね」


 ウィンはカップを手に取り紅茶を一口飲む。しかし、それだけだ。


「え?いや……だから契約」


 そう言って左手を差し出す。ウィンはその手を見た後にシャープの顔を見る。


「する必要無いのでは?と考えていますが?」

「え!?」

「シャープは元々テイマーの契約に対して否定的ですよね?」

「あ……うん……そうやったかな?」

「そうですよ。現にチルダに契約をさせない条件でしたし」

「ああ……うん」

「実は私も、好きじゃないんですよ。あのシステム」

「え!?」

「人間側の保険ですよね。私は必要無いです……現に、そうでしょ?」


 確かにそうだった。契約の石が無くてもシャープはウィンの元を離れる意思は既に無かったし、互いに守るべき存在だと言うのは先日の件でお互いに身をもって証明していた。


「出会ってから色々変わりました。ですのでもうシャープが不本意に思っている事をわざわざする必要も無いと思っています」

「必要無いって事は……あ、そうや昨日街に入れんくて大変やってん!」

「買い物ならセディユかシグマにお願いしたらいいでしょう」

「え~と……あれ!召喚出来へんくなんの不便ちゃう!?」

「それも無理に必要でも無いですよ。先日のクォートさんの時は制限されてしまいましたが、基本ピリオドとシグマが召喚出来れば困らないでしょう」

「……」


 シャープは絶対に他に何かあるはず!と考える。その姿を見てウィンが不思議そうに問う。


「シャープ、もしかして契約して欲しいんですか?」

「え!?」


 風が吹き周囲の木々がザワザワと音を立てる。

 シャープはもう自分の気持ちに嘘を付く事を諦める。


「そうや……俺はウィンと契約したい。過去の俺がどう言ったかは別として、出会ってから色々変わったんや……」


 その言葉にウィンは顎に手をやる。

 

「先ほども言いましたが、私はその考えこそが契約なのだと思っていますので……人間に有利な保険は必要な……」

「いやっ!違うねん!俺は!単純に!その指輪が気に入ってるねん!ここに付けたいねん!」


 自分の左手で、右手の薬指を勢いよくビシビシビシっと指すシャープ。


「なんなんですか……ルートと言いシャープと言い。付ける場所に別に深い意味は無いんですよ?」


 ウィンは意地悪に笑う。

(ほんまに腹立つ奴!!)シャープは怒りを見せる。そんなシャープを見てニヤニヤと笑うウィン。

 その姿を見てまた顔が熱くなる。こういう部分もひっくるめて全部好きなのだと認めざる負えなかった。




 

「はい、契約いたしました」

「……」


 久しぶりに戻って来た指輪をシャープはギュッと握る。

 瞳と共に幸せも失った、2度と戻る事は無いはずだった。しかし、ウィンはそれを両方共シャープに再び与えたのだ。 


(もう2度と失いたくない……)シャープはウィンを真っ直ぐに見る。


「なぁ……俺にも何か出来る事あらへんの?」

「何がですか?」

「だから……その……俺ら獣人の寿命を延ばす研究の。なんでもするで?血が必要ならいくらでもとってくれていいし!何か薬飲めっていうなら飲むし!それ以外の何かも……」


 『それ以外の何か』を勝手に想像してブワーと顔が熱くなる。


「急にどうしたんですか?」

「獣人の寿命を延ばすのは夢物語じゃない……ウィンが諦めずに研究してるって事はそうなんやろ?」

「ええ、諦める気は一切ありません」

「やったら、俺も手伝いたいって思ったんや……だって、たとえ俺が間に合わなくても、俺が頑張る事でチルダには間に合うかもしれへん……それに」


 ウィンは無表情で黙って聞いている。


「それに……ウィンだけに苦労して欲しくないねん」

「それなら無駄な心配です。私は苦労などと思っていません、むしろ私は生きがいとすら感じています」

「いや……ちゃうねん……アカン……なんで俺……素直に言葉が出ないんやろう……チルダやウィンを都合よく使ってる……」

「では、本当はどうなんですか?」

 

(そう……本当は……)


「俺が……1日でも長くウィンと……一緒におりたいから……」

 

 ウィンはそれではまだ足りないと言う顔でシャープを見ている。

 

(ああ……そういえばカレットが言っていたではないか?もっと、解りやすい言葉がある事を……)


 ザワザワと木々が優しく揺れる。



「だから……俺も……もっと……生きたい」


 

 そう言葉にしたとたん、シャープの瞳から涙が溢れた。

 寿命の短さに嘆いた事なんて無かった。そこに、長生きしたい理由が無かったから。


 でも、今は違うとシャープははっきりと感じた。

 自分の寿命の短さを初めて悔しいと思ったのだ。

 それが悔しくて……悲しくて……こぼれる涙を止められない。

 

 そんなシャープを見てウィンはやっと嬉しそうに笑う。


「ああ、良かった。では私のやっている事は、私の一方通行ではないのですね?」

「そ……そんな事ある訳ないやないか」

「不安だったんです……私がしている事は、私が貴方達ともっと長く過ごしたい……そう思う私のエゴなのでは?と……」


 それはシャープが初めて聞いたウィンの弱音だった。

 その時、以前ウィンが言た言葉を思い出す。

 


 『同じ立場で研究をやりたい』



 同じ立場……以前のシャープはその意味が解らなかった。

 だが、今はまるで当たり前のように理解が出来た。



 『互いに互いを必要としている』



 そういう事だ。

 


「なぁ?もっと長く一緒におったら、お前の心の内とかも見せてもらえる?」

「心?」

「うん、悩みとかそういう弱い部分……俺じゃ支えになれへん?」

 

 ウィンは腕を組んで唸る。

 

「う~ん……別に隠してる訳でもないんですが……私ってそんなに掴み所の無い人間なんですね」

 

 そう言って笑う。


「きっと私は私自身をも騙しているのでしょうね?シャープなら出来るんじゃないですか?」

 

 その言葉にシャープは自信満々で答える。

 

「ああ!ウィンが驚くくらい意外なウィンを見せたるわ!」

「実はドMでした、とかぁぁ~?」

「そ……それはそうだったとしても見せてくれんくてええわ……」


 2人はクククと笑う。


 もう、この先の時間にドチラが欠けてもいけないのだ……

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