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第7話「猫の兄弟」

「で?獣人はその辺にゴロゴロいるぞえか?」


 ピリオドはウィンに問う。


「いないですよ。獣人を人間の個体数に含めるならその割合は1%未満です、しかも獣人はその身分を隠している事が多いです」

「隠す?」

「そのままの意味で隠れている場合もありますし、人間に紛れて生活しているケースもあります」

「確かに、あいつら人間とあんま変わらんぞえ」

「獣人は人間の血が半分流れていますからね」

「むっかしいぞえ」


 ウィンとて、都合良く獣人と出会えるなどと思っていなかった。しばらくは屋敷周辺の未開の森を探索しつつ、時間をかけてゆっくりと……そう考えていた。それほど獣人と出会える確率は低いのだ。


「あー!人間さんだお!!」

「んぶっほっ!!」


 低いはずなのだが、茂みから★3程度のモンスターが出るような勢いで、SSR級のモンスター『獣人の子ども』が現れた。


「うわー!おじたんスゴイ鼻血だお!大丈夫かお?」


 ウィンは獣人の子どもを見た。ふんわりとした金の髪、そこにココア色の猫の耳が小さく飛び出していた。瞳の色は左右で違い、右が空のように澄んだ青、左が吸い込まれそうな魅惑的な紫だった。


「あ……あ……か・わ・ゆ・すぎますぅぅ~!!」


 ウィンは子猫の獣人の目線に屈む……いや、平伏すと表現した方が正しいだろう。


「確かにニャンコ可愛ゆいぞえー!捕まえて虐めるぞえー!」

「わーい!おじたんとカラスたん面白いおー!」


 子猫の獣人はワクワクした目でウィンとピリオドを見た。


「ではおじさんと契約しませんかぁ~?契約したら美味しいもの何でも買ってあげますよぉ~★」

「え?本当だお?」

「変態なオッサンが子供をさらう時の典型的な流れぞえ」

「ソレに簡単に心引かれるお子様がコレまたなんとも……ハァハァ」


 ウィンは垂れる鼻血を手で拭う。


「子猫さん、お名前は何というのですか?」

「チーたんチルダだお!」

「かわゆいお名前ですね」

「チーたんはどうしてこんな所に1人で……」


 (ドゴっ!!)

「!!」


(ボチャッ!!)

 突如背に強い衝撃、その勢いで体を押され、目の前に広がっていた湖に派手な水飛沫を上げてウィンは沈む。


「ぶはっ!いきなり背後から蹴るとはどこの誰ですか!?」


 湖から顔を出すと、そこにはウィンをヘドロのように見下し睨みつける青年の姿があった。青年は上着のフードを深くかぶっているが、そこから覗く左目はチルダ以上に美しい青で、右目は白い眼帯で隠れていた。

 青年は視線をチルダに移す。


「チルダ家で大人しくしとけ言うたやろ」

「お兄たん……でもチーたん1人で寂しいお」


 青年はチルダの言葉に表情を曇らせた。

 

「お兄たん?チルダのお兄さんですか?と言うことはあなたも獣人ですね?」

「!!」


 慌てた様子でフードに手をやり更に深くかぶる。


「見えてなくても解りますよ。血の繋がった兄弟であれば獣人の兄弟は必ず獣人ですから」

「……」

「それに……隠しきれない証拠が私には見えています」

「!」


 青年は慌てた様子で自分の後ろを見た。

 

「尻尾などで判断していません」

「じゃあ……?」

「それはですね……」

「……ゴク」

「かあいいっ!というオーラが見えています!」

「は……?」

「この私がかあいいと感じると言う事、それすなわち人間にあらず」

「なんやねん……こいつ」


 青年はウィンを睨み付ける。


「チルダ!行くで」


 チルダの手を引いて足早に立ち去ろうとした。が、ピリオドが素早く飛んだ。


(バサッ!)

「あ!」


 青年の頭のフードがピリオドによって外される。


「なにすんねん!」

「おおー!ウィンの言う通りだぞえ」

「当たり前です、私が人間と獣人を間違える訳がありません」

「くっ……」


 その頭からは、トラ模様の猫耳がピョンと飛び出していた。


「はぁぁ~……お兄たんも可愛いニャンニャンです」

 

 兄猫は牙を剥き出しにしてウィンを睨む。

 

「この辺りに住んでいるのですか?身分を隠して?お2人で?」

「人間に教える事なんてない。チルダ行くで」


 再びチルダの手を引いて足早に去ろうとする。


「お待ちなさい、チルダちゃんは私と契約交渉中です」

「……」


 兄猫の片目がギラリと光った。そしてウィンの腕章をチラリと見る、そこにはテイマーの紋章があった。


「テイマーによる契約は魔物との合意の上でしかできん。合意と言うのは魔物が対象を(あるじ)として認めるか否かや……チルダお前あいつの事を主やって思うとるんか?」

「あるじ?チーたん難しい事わかんないお……」


 首を傾げて困ったようにチルダは返した。


「という訳や。魔物側がテイマーを主と認めなければ契約は成立せん」

「おっと……お詳しいのですね」

「なんぞえ?この猫飼い猫ぞえか?」

「いいえ、チルダちゃんからもお兄ちゃんからも契約による魔力を感じません。おおよそ……過去に契約していた事があるという所ですか」

「なるほどー!捨て猫ちゃんぞえか」


 兄猫は図星を付かれたように、ウィンとピリオドを睨む。

 

「ちっ!」


 そして舌打ちをするとチルダの手を引いて森に消えた。


 ――――――


 

 次の日。


「昨日は猫兄弟のせいで無駄な時間を過ごしたぞえ!ウィン!今日こそ虐めがいがある奴を捕まえに行くぞえ!」

「はい、そうしましょう」


 身支度をするとピリオドと共に屋敷を出る。



「て!ここは昨日チビ猫に会った場所ぞえ!」

「ええ、私はチルダちゃんを諦めていませんので」

「さすがに2日続けて現れんぞえー」


「あ!おじたんとカラスたーんっ!」

「ズコォォ!!いたぞえー!」


 チルダは嬉しそうにウィンに駆け寄った。


「おじたん遊んで欲しいお!」


 顔を輝かせながらウィンの周りをピョンピョンと跳ねる。

 

「ああ~!愛らしいですねぇ」

「昨日兄猫に怒られてたのにアホぞえ」

「またお兄さんにナイショで出てきたのですか?」

「うん……お兄たんに怒られたお……でも、お家に1人は寂しいお……」


 チルダは耳をシュンっと垂れた。だがすぐにパーと顔を輝かせてウィンを見る。


「それにチーたんはおじたんとカラスたんの事気に入ったお」


 そう言ってウィンの足に手を掛けながらクルクルと回る。耳と同じ色の長い尻尾も可愛らしく揺れている。

 

「はぁはぁかぁいいよぉ~」


 ウィンは「はうう~」と言わんばかりに悶えていた。

 

「兄猫は毎日どこに行ってるぞえ?」

「働きに……では無いでしょうか?」

「なんで?」

「そりゃ、生きるにはお金がいるので」

「魔物なのに?」

「獣人は魔物と言っても限りなく人間に近いです。耳や尾尻などの特徴を隠せば人間と区別はつきません。ですが……」


 そこで言葉を区切ると、眼鏡をキラリとさせた。

 

「私はオーラで解りますけどねっっ!」

「キモいぞえ」

「だけど人間ではないのです、魔物として扱われています。しかも()()()()()と位置付けられています」

「危険ぞえか?あの生意気兎もこのチビ猫も全然強く無いぞえ」


 ピリオドはチルダの耳をつついた。


「くすぐったいお」

「危険ですよ。獣人は人間が作った魔物、魔法生物です」

「だからなんぞえ?」


 腑に落ちないようにチルダを更に突つく。


「過去、まだ人間が強力な魔力を持っていた頃。その魔力を駆使して『人間と獣』を掛け合わせて獣人を作ったのです」

「何のために?」

「勿論、戦いに勝つためです」

 

 ピリオドはイライラしたようにチルダを突つきまくった。


「カラスたん痛いお!」

「おかしいぞえ、全然強く無いぞえ」

「獣人に求められたのは、人間を魅了し惑わす能力です」

「人間?でも人間が争っていたのは天使や悪魔ぞえ?」

「大きくはですよ。戦争していると権力やお金が動きますから、結局人間同士も争うんです」

「人間は愚かぞえー」


 その言葉にウィンは深く頷く。


「そのために、細胞レベルで人間の好みを生まれながらに所持しています。瞳の色、体臭、声……そして容姿。獣人に美しい容姿の者しかいないのはそのためです」


 納得したようにピリオドはチルダをまじまじと見た。


「でもさぁ、いくら可愛くてもやっぱりおっさんになれば汚くなるぞえ!」

「そこは……だから、ある一定以上老ける事もありません」

「ほえ?ずっと若いままなのかえ?」

「ちょっと違います。老けにくい……というのはありますが……」

「おいたんとカラスたんいつまで難しいお話してるおー?チーたん飽きて来たお……」


 ウィンは話を止める。


「まぁっ!とにかくっ!結論からいうと!獣人ちゃんは魔物の中でも最高に素晴らしい可愛いの最高峰なのですっ!」


 そう言ってチルダをギュッギュッと抱きしめた。


「わーい!おじたん遊ぶお!」

「チーたん、遊ぶのはお兄ちゃんとも仲良くなってからにしましょう」

「え~……」

「お兄ちゃんを困らせるのはよくありません」


 チルダはシュンっと耳を垂れる。


「でも……お兄たんは人間さんが嫌いだお」

「お兄ちゃんは昔から人間が嫌いだったのですか?」


 その問いにチルダはブンブンと首を振った。


「違うお!前は大好きだったお!なのに急に『バレディさん』の家から出て行ったお……」

「そのバレディさんという人の家でチーたん達は住んでたのですね?」

「うん!おじたんと同じマークを付けてたお!」


 そう言ってウィンの腕章を指差す。


「とっても優しかったお!お兄たんも大好きだったお!」

「そのバレディさんはどうしているのですか?」

「知らないお……だってチーたんが寝てる間にお兄たんがチーたんを抱えて急に家を出たんだお……」


 チルダは楽しかった日々を思い出し目を潤ませた。


「どう言う事ぞえ?前の飼い主と猫兄喧嘩でもしたぞえか?」

「チーたん、バレディさんからこーんな石を貰ってましたよね?」


 ピリオドの足に着けている契約の石を指さし問う。


「うん!チーたんのここの指に着けてたお」


 チルダは右手の薬指を左手で指した。


「それはどうなりましたか?」

「気がついたら無かったお……大事だったのに……」

「!」


 ウィンは驚きの表情を隠せなかった。


「どうしたぞえ?ウィン?」

「いえ……」


 ウィンはチルダの頭を優しく撫でる。


「チーたん、私お兄ちゃんと必ず仲良くなってみせますから、待っていてくれますか?」

「お兄たんも一緒に遊ぶお?」

「はい」

「お兄たん……そしたらまた前みたいに笑うようになるお?」

「きっとそうしてみせましょう」

「うん……」

「だからチーたんもお兄ちゃんの言う事をちゃんと守りましょう」

「お家から勝手に出たらダメお?」

「はい、怖い魔物や人間もいますので」

「オッドアイの猫なんて速攻闇市場案件ぞえー!」


 チルダは「約束だお!」とウィンに告げると隠れ家に帰って行った。


「想像してたより闇深案件ですね」

「ほえ?」


 ウィンは顎に手をやり考える。


「気が進みませんが『あの人』に会いに行くのが話が早そうです……」

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