第57話「退場」
「うっ!あ!」
デリートは逃げようとする。だが、凍った足は動かずその場で転倒する。
ウィンとカレットは突進して来るダガーの迫力に身動き出来ない。
誰もが最悪の場面を想像した。
ガッッ!!
鈍い音が響く。
(デリートの頭の砕けた音……色んな意味で見たく無い)
ウィンはそう思うが、いつまでも視線を逸らしている訳にもいかない。
ゆっくりと視線をデリートのいた場所に持って行く。
頭の無い筋肉が血しぶき上げている最悪な場面を想像していた。
だが、デリートは尻もちをついたままで無傷だった。
「フォーンさん!?」
ルートが驚きと歓喜の声を上げる。
「間一髪……って事で」
デリートとダガーの間に入り、ダガーを食い止めたのは突如現れたフォーンだった。
その登場にも驚いたが、フォーンは木刀一本でダガーの口を抑え込んでいた事にも一同は驚きを隠せなかった。
「何あいつ!?デリートを助けたって事はデリートの仲間なの!?」
「いえ、仲間では無いですが……私にしてみれば同じようなものです」
ウィンはそう言って溜息を吐いた。
パーンッ!
ダガーの鼻先にかかっていたネックレス、そこに付いていた契約の石が音を立てて砕けた。
これで契約の石、そのすべてがダガーの体から外れたのだ。
ズズーン!!
ダガーの体はその場にぐったりと伏せる。
「ダガーさん!」
ルートが駆け寄りその大きな体に手を添える。
「良かった……気を失っているだけっす」
ルートはほっと一息吐くと、フォーンを見上げる。
「ありがとうございます。ダガーさんはここまで人を傷つけずに頑張って来た……最後の最後にあんな奴のために台無しにする必要は無いっす」
「ああ、まぁそれは成り行きって事で……単純にボクはデリートちゃんに今死んで貰ったら困るってだけだ」
フォーンは尻もちをつくデリートを見る。
「くそがぁ!」
デリートは怒り任せに体を大きく動かす。
パキッ!!
その時、足の氷にヒビが入った。かと思うと次の瞬間、氷は粉々に砕け散る。
「流石に私の魔法じゃここまでが限界みたい」
カレットは悔しそうに言う。
先ほどまで無様にもがいていたデリートだが、自由になったと解ったとたん立ち上がりふんぞり返る。
「残念だったな、どうやら黒幕様は俺が来るのをお望みらしいぜ?」
そう言って落ちていた鞭を拾い構える。
「1人増えた所で残るは人間だけだ。俺様はダガーが居なくてもツエェェェんだよ!てめぇらを排除してまたダガーと契約すればいいだけの事だ!」
デリートは目の前のフォーンに鞭を打つ。
だが、鞭は空を斬ってフォーンには当たっていない。
「なっ!?」
デリートは「これでどうだ!」と言わんばかりに何度も鞭を振るう。
しかしフォーンは、うねる鞭を大きな体でかろやかに交わそ、一瞬でデリートに間合いを詰める。
そして、見事な剣さばき……いや木刀さばきでデリートに一撃をお見舞いする。
ガッ!
「グッ!!!」
デリートは汚い呻きと共にその場に倒れた。
――――――
フォーンは倒れるデリートの手を取ると手錠をかける。
「デリートちゃんはボクが責任もって預かるって事で」
「フォーンさん凄いっすね!お強いんですね」
ルートは興奮気味にフォーンを見る。
その横で、ルートの先輩であるウィンとカレットは腕を組んで複雑な顔で立っている。
「フォーンさん、ここにはデリートを捕まえに?」
「そういう事、神出鬼没でなかなか捕まえられなかったけど、絶対ここにいるはずだって……あの人がね」
「あの人……とは、リビルド学長ですね」
ウィンの返しにフォーンは苦笑いで返す。
「ほんとあの人、人使い荒いって事で」
「まぁ……学長としてはテイマーの汚点であるデリートはどうにかしたい対象だったでしょうしね」
2人の話を聞いていたカレットが首を傾げて問う。
「じゃあ、あなたもテイマーなの?見た所、テイマーの紋章が無いようだけど」
「あはは、ボクはテイマーじゃ無い。ただの役所勤めの者だ」
「でも、招待状を受け取ったのはテイマーだけよね?」
「ああ、それなら」
フォーンはゴソゴソと懐を探る。そして招待状を手に取る。
「これはリビルド学長に届いた物って事で、代わりにボクが来た」
「譲渡が出来るとは思えませんが?」
「試した訳じゃ無いんだろ?」
フォーンは飴を転がしてニヤニヤ笑った。
「よっと……おっも」
フォーンはデリートを肩にかかえる。
「じゃあ、ボクはデリートちゃんと出るよ」
次にその視線をウィンに向ける。
「リビルドからの伝言だ。『後で報告に来い』って事で」
「はぁ……あの人全部人任せじゃ無いですか」
「ほんとほんと、困るよねぇ」
フォーンと意気投合してしまった事に、ウィンは苦い顔をする。
その後、フォーンは2枚分の招待状を破棄しデリートと共にこの場を去ったのだった。




