第54話「VSデリート」
ダガーと対等するルート。その背を見てシャープが心配そうに言う。
「なぁウィン?全員でダガーを倒した方がええんちゃうか?」
「デリートさんが強制的に契約をしているとはいえ、契約関係に変わりはありません。なので分散した方が個々の能力は落ちるはずです」
「そうとして、デリートは人間ですよ?我々が相手にしていいのですか?規約は?」
リーダの言葉にカレットとシャープは「あ」と口を開ける。
「あれは人間界の規約ですので。ここはクォートさんが作った世界なので適応外ですよ」
「無理やりやなぁ。でも喧嘩ふっかけて来てるんは向こうからやしな」
シャープは右の拳を左の掌に打ち付ける。
「でも、あんなゴリラみたいなの相手にどうするのよ?」
「確かに筋肉ダルマですが、人間です。シャープとリーダさんが力を合わせれば……」
「おい、ダガーはルート君に丸投げでデリートは俺らに丸投げか?」
シャープが呆れたように言う。
「え~と……カレット?何か出来ますか?」
「え!?わ……私は……あ!最近練習している魔法があるの!あれならどうにか出来るかも」
「では、それをお願いします。詠唱はどれほどですか?」
「じゅ……15分」
「お嬢様……長すぎでは?そんなの実戦で使えませんよ」
「だからっ!練習中なのよっ!」
ウィンは「解りました」と頷く。
「では15分、我々でデリートをどうにかしましょう」
カレットは頷くとスゥーと息を吸う。そして両の手を組み、瞳を閉じて詠唱を始める。
「シャープ、リーダさん。援護しますのでお願いします」
「解ったで」
「仕方ありませんね」
シャープとリーダが前に出てデリートと対等する。
「ははは!どうするのかと思えば、俺の相手は可愛い獣2匹かよ。ダガーはガキとチビ竜だけか?勝てると思ってんのかよ?」
その言葉にウィンは首を振る。
「本当に。ルートは素晴らしい竜を相手に、あなたは可愛い獣人を相手に……羨ましい。私は何でこんな筋肉ダルマを相手にしないといけないのか……」
「赤髪、テメェはマジで口だけだな」
「私はちょっと天才の普通の人間なので仕方ありません。ですがこれくらいの魔法は使えるんですよ?」
ウィンはデリートに向けて詠唱する。
「この魔法、魚人の時に使った動きを止める魔法や」
「それしか使えないのか?……だが数分動きが止まれば十分だ」
リーダがレイピアを手にデリートに歩み寄る。
その時、デリートの手が動き鞭を振るう。
(パシィッ!)
「!?」
間一髪、リーダは俊敏な動きでそれを交わす。
「え!?動きが止まってへん!?」
ウィンは「すいません」と詫びて続ける。
「腐っても竜と契約出来る能力は持っているって事ですね……私の魔法程度では動きを少し遅くする事しか出来ないようです」
「十分やで、元々俺とウサ公のスピードに人間がついて来られる訳あらへんからなっ!」
シャープは爪を伸ばすとデリートに飛び掛かる。
(ザッ!)
デリートの懐に入り爪をたてようとする。が、そこにデリートの蹴りが飛んでくる。
「!」
両腕を交差してガードで防ぐ。しかし、蹴りの威力は強くシャープは体ごとフッ飛ばされる。
「クッ」
シャープは空中でクルリと1回転するとストッと地面に手と膝をついて着地する。
「シャープ、大丈夫ですか?」
「平気や。でもアイツ強いで、あの筋肉は飾りやないって事やな……」
次はリーダがデリートに間を詰める。デリートの打つ鞭を左右にステップして軽やかに交わす。そしてレイピアの間合いまで来ると、デリートを突く!
(ズッ!!)
リーダのレイピアはデリートの腕に刺さった。が、先端が少し入っただけでそれ以上は力を入れても動かない。
「くそ!こいつ!固い!」
「こっちは鍛えてんだよ。ウサギちゃんの力じゃ俺にまともな傷はつけれねーよ!」
至近距離でデリートの足がリーダを襲う。
(ザッ!)
ギリギリの所でシャープが体ごとリーダにタックルをして、攻撃を交わす。
シャープとリーダは飛び退き、一旦デリートから間合いを取る。
「あいつは闇雲に攻撃してもダメだ。私のレイピアも、お前の爪も奴の筋肉にはさほど攻撃が通らない」
「じゃあ、狙うは……目やな」
「私が引き付ける、お前は目を狙え」
「解ったで」
顔を見合わせて頷き合うと、2人で同時に攻撃する。
「可愛いのが同時に来た所でどうって事ねーんだよ!2匹仲良く可愛がってやんぜ!」
デリートは動きが遅くなっているにも関わらず、2人の攻撃を豪快に受け流す。
リーダとシャープの攻撃はデリートに小さな傷を付ける事しかできずにいる。
「おらおら、もう疲れて来てるのかぁ?動きが最初より悪いぜ?逆に、俺は赤髪の魔法が切れて来て軽くなって来たぜ!」
「確かに……延長戦はこちらに不利だ、一気にやるぞ」
「ウサ公に言われんでもそのつもりや」
リーダは姿勢を低くすると足に力を入れる、そして大きくジャンプする。兎の獣人であるリーダの本気のジャンプは相当の高さだ。その高さから、デリート目掛けてレイピアを構え降下する。
「さすがウサギちゃんじゃねーか!よく飛ぶ……」
デリートの死角からシャープが素早く間を詰めた。
そしてその目めがけて爪をたてた!
(シャッ!!)
シャープの爪がデリートの目を引っかいた……ように見えた。
「なっ!?」
爪はデリートの目の数ミリ前で止まっていた。
シャープの腕はデリートにガッシリと取られていたのだ。
「こっちはかわせないだろう!」
リーダが落下しながらレイピアをデリートに突き立てる。
(シュッ!!)
「なに!?」
リーダの足にデリートの振るった鞭が絡まる。
「ははははっ!じゃれ付いて来て可愛い奴らだぜ!後でもっと遊んでやるから、ちょっと大人しく寝ておきな!」
「え!?」
「くっ!」
デリートはシャープとリーダを同時に岩に投げ飛ばす。
「あっ!」
「しまっ……!」
(ドッ!!)
2人は受け身も取れないまま岩に直撃し、そのまま床に落ち意識を失った。
「さぁて、残るは役立たずの飼い主だけだなぁ?」
デリートはウィンを見てベロリと舌なめずりをした……




