第51話「協力関係」
カラカラと乾いた音を立てながらスケルトンはウィンに詰め寄る。
「ふっ……仕方ありませんね」
ウィンは口の端を上げる。そして、懐に手を入れる。
(パサッ!)
ウィンが手にしたのは招待状、それを間髪入れずに縦にちぎろうと力を入れた。
「おい!待てっっ!」
慌てた声と共に、スケルトンの数体がガシャっと音を立てて地面に崩れ落ちた。
その空いた隙間にレイピアを構えたリーダが立っていた。
「簡単に諦めるな!それでも天才か!」
リーダは黒い耳をピーンと立て、ウィンを指差して声を上げる。
「見ていたなら早く助けて下さればいいものを。ジラシプレイってやつですかぁ?」
ウィンはグネグネとリーダに詰め寄る。
その横で倒れたスケルトンがカラカラと動き元の形に戻ろうとしていた。
(ガッゴッ!)
スケルトンは元の形に戻る前に、リーダにより頭蓋骨を粉砕される。
見下すような顔で何度も何度も踏みつけて粉々にしている。
「うわ……リーダさんストレス溜まっていそうですねぇ」
「その原因にお前も含まれている事を忘れるな……」
リーダはギラリとウィンを睨みつける。ウィンの下半身もギラリと反応を返していた。
その後は、リーダがスケルトンを崩し、ウィンが頭蓋骨を潰すという形でその場をやり過ごす事が出来た。
「察するに、2層辺りでカレットが『階段よ!』とか言って無防備に走って触手に引きずられたんですよね?」
「まるで別パターンを見て来たようだな」
2人は溜息を吐く。
「またカレットの我儘に付き合わされているんですね」
「今回は固く約束をしている。危険だと思ったらすぐに招待状を破る事と」
「別行動の時点で、今まさにそんな感じだと思うのですが?」
「ぐっ……」
リーダは眼鏡をくいっと上げる。
「おおよそ、下でシャープと出会ったんだろ」
「ええ~じゃあ、合流したら敵同士って事ですか?それなら今の内にイチャイチャしておきたい」
ウィンはリーダの体に身を寄せてスリスリする。
「くそっ……今回はお前が必要だから置いては行かないが、本来なら土に埋めてスケルトンにしてやりたい所だ」
「必要?私が?」
「詳しくはカレットと合流してからだ」
その後は順調に階下に進み、シャープとカレットと合流した。
2人は「待ちくたびれた」と文句を言たが、眼鏡コンビは眼鏡をクイッとする事でなんとか受け流す事が出来たのだった。
「つまり、協力関係を結びたいと言う訳ですか?」
「そういう事、最終的に1人しか進めないのなら私達はウィンに手を貸すわ」
先ほどリーダが『ウィンが必要』と言ったのはそういう理由だった。
「それは、私の願いも『獣人の延命』と考えているからですか?」
カレットはかぶりをふる。
「私もそこまでバカじゃないわよ。相手がどういう存在であれ、何でも願いを叶えられるなんて思っていないわ」
「それは私も同意見です」
「ただ……」
カレットは言葉を区切ると視線を横に向ける。
「た……ただ、嘘だと思っていてもよ!0.1%でも望みがある事はやっておきたいの」
「というか、やっぱりそれが目的ですよね」
「お嬢様……だからそれで命を落としたら元も子も」
「もぉぉー!解ってるわよ!だから危ないと判断したら招待状はすぐ破棄するって言ってるじゃない!」
シャープはまた始まったというように溜息を吐いた。
「いいですよ。もし本当に願いを叶えて貰えるなら『獣人の延命』をお願いしましょう」
カレットの顔がパッと明るくなる。
「本当に!?だったら、私達はウィンが最後の1人になれるように協力するわ!」
「いいでしょう」
役立たずのテイマー2人が手を組むのを獣人達は呆れた顔で見ていた。
その後も魔物と遭遇したが、シャープとリーダのおかげで安定して階下に進む事が出来た。
「思っていたより魔物も少ないし簡単に進めるわね。他の参加者とも全然会わないし」
「というか……会わなさすぎやあらへん?俺達以外に参加者なんかおるんか?」
「こんなバカげた事にそもそも付き合う奴がいないのでは?」
ここまで他の参加者に会わないのはウィンも予想外だった。
(こうなると、一番最悪なパターンが想像出来る……)そう思って溜息を吐いた。
「なんやウィン?溜息なんか吐いて。楽してここまで来られたんやし良かったやん」
「良くありませんよ……それはつまり、誰かが参加者も魔物も少なくしてくれたって事ですよ」
「どういう事よ?」
「お嬢様、つまり我々より先に進んだ者の中に、圧倒的な力を持つ者が存在するという事です」
カレットは驚いた顔を見せるが、すぐに首を振る。
「招待されているのってテイマーばかりでしょ?戦闘技術に長けた騎士とかじゃあるまいし、基本テイマーって魔物を自由に扱えるだけで争いとは無関係の職業よ」
「お嬢様、頭がお花畑ですね。表には『そういうテイマー』しか出られないというだけですよ」
「リーダさんのおっしゃる通りです、テイマーは『魔物を自由に扱える』のですから。使い方次第では人間など相手になりませんよ」
カレットはムスッと膨れていたがハッとしたように言う。
「じゃあこの先には魔物を使って人を攻撃するようなヤバイ奴が居るかもって事?」
「かも……じゃなくて居るでしょうね」
場が一気に緊張する。
「魔物を使って人を傷つけるなんて、そんなの犯罪者じゃない!」
「お嬢様、だからそういう相手なんですよ」
「そう、例えばデリート……とか」
ウィンの言葉にカレットは顔を蒼白させる。
「デリートって……契約の石の多重使用で竜と強引に契約を結んでるアイツ?」
「お嬢様、先日も世界中で破壊強奪を繰り返していると新聞記事になっていましたよ」
「ルート君もデリートが竜の印象を悪くしてる言うとったな」
カレットがゴクリと息を飲む。
「そいつがもしかするとこの先にいるかもしれないって事なの?」
「お嬢様、もしそうなれば我々は竜を相手にしなくてはいけない事になります」
リーダの言葉に場は一気に緊張感を増すのだった……




