第41話「お嬢様の追憶」
その後、リーダは完全に意識を失った。
カレットはリーダの手を握って、ただ見つめる事しか出来ないでいた。
静寂に耐えられなくて、シャープはカレットに声をかけた。
「きっと大丈夫やって……」
カレットは、目を真っ赤にしてリーダを見つめたままだ。
「あ……あんな酷い言い方せんでもなぁ……」
その言葉にカレットが首を振る。
「昔はあれが普通だったのよ」
「え!?えらい口が悪かってんなぁ」
「でも私にしてみればそれがリーダだったの……」
カレットは過去の事を思い出す。
『そうだ……昔のリーダはもっと違った。リーダが今のようになったのは あの日 を境にだった…………』
――――――
私が16になった時、お父様が死んだ……
唯一、私を絶対に守ってくれる存在だったお父様。
土の中に沈んでいく棺を瞬きもせずに見つめる。ただただ無表情に。
遠くから誰かの声が耳に入る。
『カレットお嬢様は本当に気丈です。涙の1つも見せないなんて』
見せない訳じゃなくて、流れないのだ。私はこんなにも白状な人間だったのか?
『可憐じゃない 』
そういえば誰かさんにそんな事を言われたっけ……
本当にその通りだった。私は、こんな時に涙の1つも流せない非情で可愛げの無い女の子だ。
「……」
フと視線を感じて顔を上げる。墓穴を挟んで立つリーダが険しい顔で私を見ていた。
「別に今更じゃない?リーダが1番知っているでしょ?」
その言葉に長い耳がピクリと動く。
「私がどんな女の子か、リーダが1番知っているでしょ?」
「……そうだな」
リーダはユックリと墓穴を周り、私の方に歩みを進めながら言う。
「お前は本当に我侭でどうしょうもない女の子だ」
「…………」
「父親が死んでも涙の1つも流れない酷い女の子だ」
「…………」
真横に立つ。どんな軽蔑した目を向けているか?私は険しい顔で見上げる。
「……」
ソコにはいつも通り仏頂面のリーダが立っていた。あまりにもいつも通りの顔で少し拍子抜けしたくらいだ。
「本当にどうしょうもないな、カレットは」
「何よ、リーダこそこんな時くらい慰めの言葉1つも言えないの?本当に意地悪なのね」
「別に俺はいつも意地悪をしている訳じゃない」
「ドコがよ!いつも私をバカにして悔しがる私を見て楽しんでるじゃない!」
「ああ……それは否めない」
「認めるのね」
「いや、意地悪をしてた訳じゃないソコは認めない。ただ、悔しがる姿を見て楽しんでいたのは認める」
「つまり、意地悪して悔しがらせてたって訳じゃない!」
「だけど、チヤホヤしても悔しがる姿は見れないぞ?」
「そ……そりゃぁ……って!何で悔しがる姿を見て楽しむのよ!ソレが意地悪なんじゃないっ!」
「ソレが意地悪と言うのなら、お前の周りの奴は皆意地悪と言う事になるぞ?」
「どういう意味よ?」
言葉の意味が解らなくて怪訝な顔をする。すると、リーダが周りを見てみろと視線を送る。
「……」
おかしい……先ほどまですすり泣きと共に暗い顔した人ばかりだったのに。私とリーダの方を見て微笑んでいる。
「何で笑ってるのよ?お父様のお葬式なのよ……」
「でも嫌な気分じゃないだろ?」
「でも、何を笑う事があるの?私とリーダのたかが言い争いに」
「俺も最初は解らなかったけど……カレットお前だ」
「何がよ?」
「大人から見たカレットは子どもなのに子どもらしく無かった」
「……」
「大人に囲まれている環境がそうさせていると言う事を、周囲は解ってはいたんだ」
「……」
「だから、子どもの俺と子どもらしい事で喧嘩しているお前が大人には微笑ましく見えるんだろ」
「……」
「それを誰よりも嬉しそうに見ていたのはお前の父親だった」
「じゃあリーダは、周囲やお父様のために私にわざわざ意地悪してたって訳?」
「だから、意地悪じゃなく……いや、お前がそう思うならそうなんだろうな」
「?」
「だけど、別に周囲のためじゃない、俺は単純に自身のために」
「自分の気晴らしのため?」
「気晴らしか……そう言う言い方も出来るけど……」
「他にどんな言い方があるのよ?」
「つまらない事で必死に怒っている姿が見たかった……その時のカレットはとても……可愛いから」
「え?」
リーダは視線を伏せる。私も何を返していいか解らなくて視線を逸らした……
「そうだな……1番知ってる」
しばらく無言でお父様の棺を見ていた2人だったけどリーダがポツリと呟く。
「何を?」
「知ってるよ、お前の事」
「……」
「カレットはこんな時にも泣けない女の子だ」
「非情よね……自分でおも……」
私の言葉を最後まで言わせないでリーダは続ける。
「泣く事が怖くて出来ない女の子だ」
「何……?怖い?何が?」
「自分は弱くない、大人に我侭なんていくらでも言える寂しくなんか無い、強いんだ」
「何?……誰の事?」
「強くなくてはいけない、お父様に心配かけたくない寂しい思いなんかしていない」
「やめてよ!誰の事よ!私はそんな風になんかしていない!私は可憐じゃない!涙も流れない!これが私!私なのよ!」
「そう、それがカレットだ」
「…………」
「人前では泣けない、夜1人になってコッソリしか泣けなくなった……それがカレットだ」
「…………」
「でも、泣き顔はこんな時くらい見せていい」
「…………」
「でないと……俺はお前以上に不器用だから……そうでもしてくれないと優しい部分の見せ方が解らない」
「え?……」
フッと頭を包まれる……
リーダの胸に抱きしめられている事にしばらくして気がつく。
そこは、ふわふわして温かい。
ああ……そういえば、私はお父様に言った。
『ふわふわであったかいウサギが欲しいの!』
お父様はちゃんと私の希望を叶えてくれていたのだ。
リーダがいれば、お父様がいなくても寂しくない……そう思った。
思ったのに……
リーダはこの日を境に私に対して『執事』という関係を貫くようになった。
――――――
リーダの指にある契約の石がピカっと光った。
と同時にリーダの体はスゥッと消えた。
「どうやらウィンが屋敷に到着したようやな」
シャープはホッとして肩を落とした。
「俺らも帰ろう」
「……」
「大丈夫やって!セディユさんは凄いから。絶対にすぐに元気になるって!」
カレットは立ち上がると、スカートに着いた土を払う。
「悪いけど……私はこのまま自分の屋敷に帰るわ」
「え?」
「やる事があるの」
「やる事?でも……ウサ公の様子は?契約も元に戻さな?」
「いいの。リーダの事はウィンに任せておけば安心だから」
「でも嬢ちゃんはウィンの事嫌いやろ?そもそもそういう問題やあらへん!嬢ちゃんはウサ公の主やろ!?簡単に……そんな」
シャープは過去、自分が受けた事を思い出してつい声が大きくなった。
「もういいのよ……リーダは私といると危険な目に合わせてしまう……リーダの言う通りだわ」
「で……でも」
「いいのよっ!リーダはお父様の言いつけでやりたくも無い私の使い魔をしていただけなのよっ!」
今度はカレットが大きな声を出した。そして、自分の屋敷への道を歩き出す。
カレットはシャープと距離を取りたくてズンズン歩いた。
『これで良かったのだ』と自分に言い聞かせた。
『ウィンのような天才テイマーの使い魔の方がリーダもいいに決まっている!』と。
何よりも、カレットにとってリーダが使い魔で無くなった所で『やるべき事』が変わる訳じゃ無かった。
カレットは手の中にある人魚の鱗を強く握りしめた。




