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天才テイマーは魔物にチヤホヤされて過ごしたい!そのために厄介事を解決します!   作者: 蛇ノ眼
第三章『7日後に駆除!?フワフワモフモフを救え!』
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第31話「ここで終わり?」

 勝負7日目。

 

 今日、ワタアメが人間に危害を与える魔物では無く、安全に契約出来ると証明出来ないと、処分されるのだ。

 それだけでも、ルートは追い詰められていたが、昨日見たウィンの事が更に重くのしかかっていた。


(先輩は元々の噂通りの人だったというだけだ。それを俺が勝手に勘違いしていただけなんだ。)


 昨日から、何度も何度も自分にそう言い聞かせていた。


「そうっすよね……先輩にしてみたらただの迷惑だった」


 ルートは自分の頬を叩いた。

 ウィンの事は一旦忘れて、とにかく今はワタアメの事だけを考える事にした。



 ――――――



 フォーンに挨拶をして、すぐにフェンスに向かう。


 

「ワタアメおはようっす」


 ワタアメは顔を上げてルートの姿を確認した。『美味しい物を届けてくれる人間』程度には認識していた。

 

「今日も特製お弁当と、デザートにクリームパンも用意したっすよ」


 ワタアメはルートが手にする物をじっと見ている。

 昨日、クリームパンを与えた結果、クリームの部分を美味しそうに食べた。ただ、ルートの手からは食べなかった。いつも通り、フェンスの外で食べるのをルートは見ていただけだった。


 初日に比べれば、間違いなくルートとワタアメの関係は前進していた。

 本来なら、ルートは十分な成果を上げていた。だが、今回ばかりはそれでは意味が無かった。


「1年間虐待された魔物と……7日間で契約なんて……無理っすよ……」


 つい弱音が漏れた。ウィンが最初から匙を投げた事にも頷いてしまう。


「いや……違う!最初から出来ないと諦めるのは違うっす!」


 ルートは強く首を振った。そして、ワタアメが警戒しない距離で座り、いつも通りお弁当を取り出した。その蓋を開けて、それを自分の真ん前に置いた。


「ワタアメ、今日俺はここから動かない。だから気にせず食べて欲しいっす」

「……」


 ワタアメはその言葉に耳をピクピクと動かし、しばらくお弁当を見つめた。

 だが、ルートが去らないと解って、丸まり白いフワモフになった。



 ――――――

 


 静かに時間が過ぎていった。

 裏庭はとても静かで、サワサワと木々が揺れる音が心地良かった。

 ルートは空を見上げた。


「あ、あの雲ワタアメっぽい……あ、あっちも。あれもっす」


 1人でポツポツと喋る。ワタアメは反応を返さない。


「ワタアメは大好きだった人に突然虐められて捨てられて……そりゃ人間なんか大っ嫌いになるっすよね」


 ルートは膝を抱えて、そこに頭を落とした。


「俺も両親に捨てられたっすよ。俺の場合は可愛がってもらった記憶も無いからワタアメよりもマシだけど」


 それは、ルートが誰にも話した事の無い話だった。


「孤児院は悪い所ではなかったけど……楽しい所でも無かった。毎日毎日特に希望も無く過ぎていたっす……それで、ある日俺は1人で森に行く事にしたっす。誰にも見つからない……そういう場所を探しに行った。そうしたら、そこで大きな卵を見つけたっす!」


 あの時の興奮を思い出してついつい声が大きくなった。


「俺しか知らない秘密の場所。毎日卵に会いに行った、卵は動かないし喋ってもくれないけど、触ると凄く暖かくて優しい気持ちになれたっす」


 優しい風が吹いて、ワタアメの毛がフワフワと揺れていた。


「そして、そこから生まれたのがチビ……チビというのは竜っすよ!なんと竜の卵だった」


 ルートはチビと出会ってから、今までの事を振り返った。


「チビと出会った事で凄く大変な事もあった……けど!俺はチビのお陰で希望とか夢とかを持てた」


 空を見上げると、チビのような形の雲を見つけて顔が緩む。


「本当は……卵を見つけた日……孤児院に帰る気が無かった。秘密の場所でずっと動けなくなるまで寝て……気が付いたら空の上……だったらいいなと思ったっす」


 チビの形の雲にルートは手を伸ばした。


「チビが俺に檻の中から出る決意をくれた。チビが救ってくれた……だから俺がワタアメのチビになれたらって……」


(でも、なれそうにない……)


 そう呟こうとした時だ。ワタアメが静かに立ち上がった。

 そして、ゆっくりとルートに向かって歩いて来た。


 そして…………


「ぁ……」


 ルートの足元で、お弁当を静かに食べだした。


「……」


 本当は大きな声を出して踊るように喜びたかった。が、ルートはそれを抑えてじっと見守った。


 やっと『ここ』 まで来た。

 

 『ここ』 まで。

 

 『ここ』 で終わり……?



 それではダメだった。


(近くで食事をするからと何なのだ?)


 テイマーが魔物と契約するには契約の石を身につけさせる必要があった、そのためには触れ合えないといけないのだ。

 

(せめてワタアメに触る事が出来れば)


 ダメな事は百も承知だった。

 だが、焦りからだった。ルートはワタアメに触れようと手を出してしまった。


(ガッ!)

「っ……!」


 ワタアメがその手を噛んだ。

 ジワリとした痛みがルートに広がる。


(ここで焦りや恐怖を見せてはいけない。俺はワタアメに危害を加えないという事を示さなくては)


 ルートはじっと耐えた。だが、ワタアメは口を離す処か、更に深く牙を食い込ませた。

 痛かった。ルートは直ぐにでもワタアメを振り払い、手を引き戻したかった。

 だがここで振り払ってしまえば、それこそ振り出しに戻ってしまうのだ。


(そうなれば……ワタアメはもう……)


 ルートの目にジワリと涙が滲んだ。痛みと悔しさが混じった涙だった。

 


「あーあ」


 フォーンがそう言いながらフェンスの中に入って来た。と同時にワタアメはルートから口を離し、再び隅の方で丸まってしまった。


 全て振出しに戻ったのだ……

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