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第20話「同じ立場で」

 チルダとコロンが寝入ったのを確認すると、シャープは読んでいた絵本を枕元に置いた。

 今日も一日が平和に終わろうとしていた。

 ウィンと出会った時は不安しか無かったが、今ではこの屋敷に居心地の良さを感じていた。

 

 シャープは指にはまる契約の石を見つめた。

 もし、これが無くてもチルダ同様ここを離れる事は無いだろう……そう思った。


「今の所は……やけど」


 部屋を出ると廊下を静かに歩く。戸締りを確かめてから寝るのが日課だ。


 夜の廊下は昼間の騒がしさとはうって変わって静まり返っていた。

 シャープは窓の鍵を確認しながら一階のホールに降りた。

 そこで燭台を手にしたウィンとばったり出会う。



「うわ!ビックリした、お前まだ起きてたんや」

「シャープこそ、まだ寝ていないのですか?」


 シャープは毎晩チルダとコロンの寝かしつけをしていた。 

 コロンが来てから、お風呂も寝る前も2人ではしゃぐもんだから、ここの所寝るのが遅くなっていたのだ。


「戸締り確認したら寝るよ。ウィンは?」


 そう言ってウィンが向かおうとした先を見る。そこには地下に降りる階段があった。


「地下に用事か?」

「はい」

「地下って、書庫と……研究室があるんやったっけ?」


 『地下の研究室には入らないで下さいね』

 

 それはウィンが唯一住人達に制限している事だった。それ以外の事にウィンは一切制限など設けていない。


「お前、今から何か研究でもするんか?」

「夜しか研究の時間が取れませんので」

 

 明るい時間、ウィンは研究らしき事はしていなかった。

 昼間のウィンは、屋敷の住人と喋ったりお茶したり、たまに学校に行ったりという感じだ。


「昼にやればいいやん。いつもノラリクラリしてるだけなんやし」

「ノラリクラリ?心外ですね、私にとって可愛い魔物ちゃん達と過ごす時間は何よりも至福なのです」

「なんやそれ?……じゃあウィンの研究って大した事あらへんのやな」

「なぜそうなるのですか?」

「だって、俺らとダラダラする事のが優先度高いって事やろ?」


 ウィンはフム……と顎に手をやりシャープを見た。


「シャープは私と出会う前は働いていましたよね?」

「ああ……」


 今でこそ働く必要など無くなった。だが、当初はチルダと2人で生きて行くために人間のふりをしてでも働く必要があったのだ。

 

「では、シャープは働くためにお金を得るとお考えなのですか?」

「え!?なんやそれ!?金は……生きるため、それからたまに美味い物を買ったり好きな事をするためや。そのために働かないとあかんかった」

「ですよね?」

「ん?」


 シャープは頭を整理する。

 つまりウィンは『俺らとダラダラ過ごすため』に『深夜に研究をしている』という事か?

 シャープはそう結論を出すと改めてウィンを見た。


「私にとって可愛い魔物ちゃん達と過ごす時間は何よりも大切なのです。それのために生きていると言っていい!」

「……」

「ですので、研究も頑張るのです」


 少しだけ納得するシャープ。

 だが、そうなるとウィンにとって研究は決して好きでやっている事では無いとも読み取れた。


「ウィンの研究って?」


 ウィンは目を細めてシャープを見た。


「獣人の延命ですよ」

「え?」

 

 獣人の寿命は人間に比べて短く、平均で半分以下だった。

 ウィンのその返答に、シャープは昔の主の言葉を思い出した。

 

『獣人は若くて綺麗な内に寿命が終わるように造られたのだ』


 シャープとチルダの見た目を重視していた以前の主は、それを都合のいい事のように言っていたのをシャープは覚えていた。


 人の手で獣人が造られた頃『見た目の良さ』を追求して寿命は削られていく結果となった。

 その後、人間の魔力は衰退化し人為的に獣人を作り出す事は不可能となった。

 今は自然増殖でしかその個体は増やす事は出来ない。

 人間と獣人、もしくは獣人同士の性行為で生まれた子供が獣人として産まれる。そのため、望まれて生まれる獣人などゴクわずかしかいないのが現実だった。

 獣人に生まれながらに父親が居ないなんてよくある話だし、母親は物心つく頃には寿命で死んだ。


 そんなどうしようも無い歴史を繰り返し、現在でも獣人は絶滅する事無く存在していた。



 

「だけど」シャープはポツリと呟く。

 

 そういう歴史を踏まえても……だ。寿命と言うのは種族それぞれで違う。天使や悪魔に比べれば人間の寿命はとても短い。それと同じで人間の寿命に比べれば獣人は短い……それだけの事だろう。

 シャープはそう考えていた。


「獣人はそういうもんやろ?伸ばしてどうするん?」


 ウィンは口を固く結んだままだった。

 シャープはそんなウィンを不思議そうに見返した。いつもならどんな会話にも嫌味を交えて饒舌に返して来るからだ。


「獣人は人間が魔力で作ったっていう歴史があるから?」


 黙るウィンに辛抱溜まらず、シャープは質問を投げた。


「そうですね……人間のエゴで作り出された唯一の魔物です」

「だから、人間が寿命を延ばしてあげへんと~とか思ってるんや?」

「シャープは現状で良いとお考えなのですか?」

「そんなん考えた事も無いわ、誰でも死ぬのは怖いやろ?でも寿命はしゃーない」


 燭台の明かりがユラユラと揺れていた。それに照らされるウィンの顔が珍しく真面目でシャープは狼狽えた。


「腐ってもテイマーやねんな。ま、俺になんか協力出来る事があったら言ってや」


 シャープはウィンの真剣さに落ち着かなくて軽い感じでそう返した。


「では、体を好きにさせて下さい」

「はぁ!?」


 夜中なのに大きな声を出してしまいシャープは慌てて自分の口を塞ぐ。

 

「お前なぁ!真面目に研究しよるから気ぃ使ったのに」

「私は真面目ですよ。生殖について研究しているのです、体の隅々……体液に至るまで知る必要があります」

「は!?……あ?……ん?う~ん……」


(そういう事になるのだろうか?)シャープは一瞬真面目に考えて「いや!違う!」と首を振った。


「好きにさせる必要は無いやろ!」

「そうですか?」

「そうや!体調べるのも、例えば体液的なのも…… 『提供』 だけなら出来るやろうが」

「でも、それって結局シャープにとっては苦痛ですよね?」


 その状況を考えて『確かに』とシャープは思う。


「私は『同じ立場』で向き合いたいのです」

「研究に?」


 ウィンは頷いた。


「シャープがそう思って頂かない限り、私の研究のお手伝いは頼めません」


 『同じ立場で研究』ウィンの言うそれはシャープにとって難しい事だった。

 なぜならシャープは自分の寿命が短いなどと思っていないからだ。せいぜいチルダが1人で生きていけるくらい大きくなるのを見届ければそれで満足だった。


 『獣人の延命』

 ウィンには悪いが、それを研究する事は時間の無駄だとシャープは思った。

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