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第2話「魔物との契約」

「では私はルートが安全に魔物と契約出来るよう補佐させて頂きます」


 森を歩きながらウィンは話す。


「ルート。契約する魔物は既に決めていますよね?」

「え……と」

「生息場所は調べていますよね?」

「その……」


 立ち止まり、怪訝な顔でルートを見る。


「なんだ?このガキ何を捕まえるか、何にも決めてないぞえ?」

「随分前から準備しているはずです、契約する魔物は決めていて当然です」

「このガキ!ボーっとしてたぞえ!とんでもないオチこぼれだぞえー!」

「それはないと思いますよ?ルートは常に学年トップの成績保持者ですから」


 その言葉にルートは驚いた顔を見せる。


「え?なぜ知ってるっすか!?」

「なぜって、廊下に張り出されますよね?」


 それはそうだ、しかし天才と異名を持つウィンが順位表を見ている事をルートは意外に思ったのだ。


「俺のはマグレみたいなもので……ウィン先輩もいつも1番ですよね」

「じゃあ、私も()()()という事にしておきましょう」


 そう言ってイジの悪い笑みを浮かべる。

 ルートにはいつのまにか『優等生』という肩書きがつくようになった、だが、それはオチこぼれないように人一倍時間をかけているだけだ。

 (先輩のように本当に天才だったら、今こんなに悩む事も無かったのかもしれない……)そう思ってルートは拳を強く握る。


「ルート、本当はもう決めているんですよね?」

「え?な……なにがっすか?」


 突然の問いに不自然な声が出てしまう。


「何って?勿論、契約したい魔物の話です」

「え……えっと……」

「え?そうなのかえ~!?だったら、早くそう言えばいいぞえ!」

「素直に言えない魔物なんですよね?」

 

 見抜かれた事にルートは驚きを隠せないでいた。


「あ……あ……あの何で解って」

「そりゃぁルートの態度を最初から観察していれば解りますよ」


 ウィンは自分の事など気にも留めていないようにルートには見えていた。だが、この短時間でしっかり観察されて見抜かれた事に驚きを隠せない。


「えー!?何ぞえ!?そんなにヤヴァイい魔物なのかえ!?エロいのかえ!?」

「そうなんですか?あぁ!マンドラゴラとか!?あれはちょっとやらしいです」

「そうなのかえ?」

「ええ、土から出した下半身がエロイです!フムフム……」


 そう言って眼鏡を光らせる。


「ルート!恥ずかしがる事はありませんよ!確かにっマンドラゴラは鉢植えに入れて持ち歩かないといけない!表情も変わりません!見た目がお野菜なので見ていると常にお腹も空くでしょう!しかぁーしっ!その拘りが大事なのです!」


 魔物の話を饒舌に語り出す。ルートと話す時とは明らかにテンションが違った。


「なんぞえー!俺様も興味津々だぞえー!よぉーしっ!マンドラゴラを捕まえるぞえー!!」

「では!マンドラゴラのいる湿地帯にっ!」


 意気揚々と歩き出す。


「わー!ちょっと待って下さい!ちがい……」


 ルートが止めたその時だった。



(ガササッッ!!)

 近くの茂みから、慌てた様子で2人の女子生徒が飛び出して来た。そして鬼気迫る様子で言葉を交わす。


「せ……先輩……さっきのって……もしかしてブラックウルフ!?」

「本来この辺りの森にはいないはずなんだけど……とにかく、先生達に報告しないと怪我人でも出たら大変!」


 そう言って学校に向かって走って行った。


「ウィン先輩!?聞いたっすか!?危険な魔物が出たようですよ!どうしましょう!?」


 ウィンは顎に手をやり考える。


「そうですね……あ、ルートが契約しますか?」

「え?」

「懐くと従順で可愛いですよ」

「でも……ブラックウルフって凶暴なんですよね?」

「凶暴?とんでもない、ブラックウルフは見た目に反して怖がりで大人しいんですよ。モフモフで寝る時に抱きしめて寝たら……グフフ♡」


 モフモフを抱きしめる仕草をして、だらしなく顔を崩す。

 

「あ……先輩……えっと……そうでなくて」

「お嫌いですか?ワンコは」

「あ……嫌なのではなく……俺には契約を決めた魔物がもう……」


 ルートは口を押えてハッとした。


「やっぱりそうなんですね。それならそうと早く言えばいいじゃないですか」


 意地悪く笑うその顔を見て、ルートは会話を誘導されたと気がつく。


「すいません……でも……そのですね……」

「あ、ルート少しお待ちください」


 ウィンは手で会話を遮る。


「ルートがブラックウルフと契約しないならここにいては危険なので」

「え!?あ……そうっすね!」


 近くに凶暴な魔物がいる。『自分達も早く避難しなくては危ない』ルートはウィンの意思を察して頷いた。


「では、行きましょう」

「はい」


 歩き出したウィンの後を続いて歩く。


「て!?……え!?」

「何ですか?大きな声出して」

「や……先輩……そっちは……」


 ウィンは、先ほど女子生徒が『逃げて来た方』の茂みに進んでいたのだ。


「ええ、なので危険ですから……ブラックウルフさんが」

「え!?危険なのは俺達ではなく!?」

「本来いないはずの魔物が現れた。人に被害が出る前に、1番簡単な『駆除』と言う方法を取る事もありますので」


 ウィンはそう言ってため息を吐く。


「あの……でも、先輩どうする気なんですか?」

「私も在学中なので、契約できる魔物は1体です」


 在学中に契約出来る魔物は1体と決められている。

 ウィンは既にピリオドと契約しており、ルートにも契約出来ない理由があった。


「なので、ブラックウルフさんにこの森を離れて頂きましょう」

「離れてって……」


 さも当たり前のように話すが、その意図が見えなくてルートは困惑した。




「先生この辺です」


 複数人の声。女子生徒が講師を呼んで来たのだ。


「おっと……このままではマズイですね……ピリオドお願い出来ますか?」

「仕方無いぞえ」


 ピリオドがバサリと地に降りた次の瞬間、その体が黒いモヤに包まれる。

 そして、次にモヤが無くなった後には黒い狼の姿が現れた。


「え!これって……ブラックウルフ!?カラス君がブラックウルフになったっすか!?」


 ルートは驚くしか無い。ただの鳥系の魔物だと思っていたピリオドが変身能力などと言う、とんでもない能力を秘めていたのだから。


「では、お願いします」

 

 ウィンがそう言うと、ピリオドだったブラックウルフは俊敏な動きで走り出した。



「あ!先生!あそこっ!」


 声の主達は変身したピリオドを追いかけて行った。



 


「これで邪魔されずに探せますね」

「えっと……先輩?カラス君は何者なんっすか?変身能力を持つ魔物なんて聞いた事……いや……1つだけ知っているけど……でも……それは……」

「お察しの通り、ピリオドは『魔族』……悪魔ですよ」

「せ……先輩!?悪魔と契約を!?」

「私はお断りしたんですけどね、ピリオドがどうしてもって言うんで」


 やれやれと肩をすくめる。


「本当は獣人と契約したかったんですよ!!だって在学中は1体しか所持出来ないって規約がありますので!だったら獣人がいいに決まっているでしょうっ!?愛らしい獣人ちゃんとの学園ライフを夢見ていたのにっ!」


 ウィンは魔物の話をする時だけやはりテンションがおかしくなった。


「まぁ……でも卒業したら……グフフ♡」


 ルートの頭は混乱していた。

 だが、そんな中でも1つハッキリした事があった。それは、悪魔と契約してしまうウィンはやっぱり天才だと言う事だった。

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